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15 騎士団に入団

 マイアに気持ちを伝えてから数日後のこと、七斗は驚くべき快復を見せる。


 出来るだけ早く王都へ戻りたかったので、伯爵に滋養のある食べ物を用意してもらい栄養をとり続けた。

 熱が下がり起き上がれるようになってからは、リハビリとしてストレッチやスクワットを続け、身体の感覚を平時まで近づける。

 本人のやる気と、自分の身体は転移時に強化されているという思い込みのプラシーボ効果によって、瞬く間に完治したのだ。


 そのおかげで、マイアが伯爵領に到着した日から一週間後には、王都に向けて出発することができたのだった。


「本当にお身体は大丈夫ですか」


 マイアが馬車の中で隣に座っている七斗の顔を覗き込んだ。


「そんなに心配しなくても平気だから」

「それならいいのですが、つらくなったら我慢しないでいつでも言って下さいね」

「マイア様もだよ。馬車の旅は意外と大変だし、僕に気を使いっぱなしだったら疲れちゃうよ。別々の馬車の方がいいのかな?」

「疲れたりしません。それに、私は七斗様のお世話をする権利は誰にも渡したくありません」

「もう、なんでそんなに可愛いいんだよ、君は」

「え? そんな、私なんて……」


 もじもじと恥ずかしながら、顔を真っ赤にしているマイア。

 その後、世話をすると言いながらも、隣でうとうと始めたマイアのことも、七斗はすべてが愛おしくてたまらなかった。


 ◇


 王宮に到着後、七斗は非公式で国王との謁見を申し出ると、それはすぐに叶った。


「それで騎士団に入りたいと?」


 国王専用の執務室の隣にある応接室へと案内された七斗は、騎士団への入団試験を受けさせてほしいと国王に直談判をしていた。


 本当は騎士団の団長と、それ相応の関係者を紹介してもらい、話をつけるつもりだったのだが、それでは時間がかかるかもしれないと宰相から言われたのだ。

 七斗は勇者であるため、立場が難しく末端に置くわけにもいかない。間違いなく重鎮会議に掛けられることになるそうだ。

 話し合いの結果が出るのを待つよりは、国王の独断で進めた方が早いと言われた。


 七斗がブロッサム王に忠臣を誓って、骨を埋める覚悟が出来たとなれば、騎士団に入ることは問題がないどころか歓迎されるはず。


 それに、国王にとって、マイアの結婚相手は義理の息子になる。勇者の称号と合わせて、その身分上、便宜は図られたとしても、七斗が騎士団に入ることは国に利益をもたらすことになるので、国王の独断とはいえ、その判断に否という者はいないだろう。


「はい。僕がマイア姫を妻として迎えるためには、本当の意味で誰からも認められる必要があると思っております」

「それはグリフォンとバジリスクの件で十分、お主の力は示されておる。異を唱える者は誰もいないはずだが。どう思う」

「国王陛下のおっしゃる通り、彼はすでに騎士団でも一目置かれております」


 同じ席についていた騎士団長も反対ではないようだ。それどころか、自分の部下である騎士を身を挺してバジリスクから救ってくれたことに感謝していた。


「しかし、立場をどうしたらいいものか。桁外れの力を宿しておるし、新人だからといって見習いの中に入ったところで相手になる者もおるまい。それでは成長も見込めないと思うが」

「ナナト殿の剣を受けたことがある近衛騎士たちですら、力では適わないと申しておりました。すでに人並み以上の体力もあり基礎訓練の必要もございません」


 騎士団の団長はセイベルたちに闘技場での打ち合いの件を聞いていて、七斗の実力はある程度把握していた。


「ですから、剣技は私が直に面倒をみるのが一番よろしいかと」

「ナナトの身体も心配ではあるしな。頼めるか」

「御意」


 話し合いの結果、七斗は団長直属の見習い騎士とするして、国王の一声で騎士への入団が決まる。


「ありがとうございます。よろしくお願いします」


 七斗は自分の希望が通ったので、椅子から立ち上がり、国王と団長に向けてしっかりと腰を折った。


 ◇


 その日から、七斗はセイベルたちと同じように騎士団の宿舎で寝泊まりすることになった。


「ここがナナト様の部屋になります」


 セイベルに連れられて、自分にあてがわれた部屋に足を踏み入れる。

 そこはベッドと小さな机があるだけの小さな空間で、窓のすぐ外にはレンガ造りの壁があり、たいして日差しも入ってこない。就寝するだけだからとセイベルが言う。


「僕は年下で見習いだし、仲間として認めてもらいたいから、今後は敬称をつけないでください」

「わかりました。設備はほぼ共同になります。人によってはここを出て部屋を借りている者もいますから、その方がよければ町を案内しますよ」

「ここで大丈夫です。セイベルさんは?」

「私は家事が苦手なので一人暮らしは難しいですね。それに……」

「それに?」

「いえ、たいしたことではありませんが、家を訪ねてくる者がいて面倒なので」


 セイベルも一度は宿舎から出たことがあるが、いろいろな事情により、すぐに戻ってきていた。


「ここは女性の立ち入りは禁止になっているので、気をつけて」

「知り合いもほとんどいないし、僕にそんな心配いりませんよ」

「でしたらよろしいのですが」


 含みのある言い方をするセイベルの態度を不思議に思った七斗。


 しかしすぐに、セイベルは女性関係で大変な思いをしているんだなと、ちょっと同情していた。


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