ep.2 レベル上げ
…さあ、今日も僕は一人でレベルアップをしに”地下398階”に出かける。
モンスターのレベルはLv79、ここら辺では、珍しくスナイパーライフルを持った”ハンター”と対峙する。
僕のレベルはLv192、この程度の敵はそんなに苦労しないが、僕はあえて、持ち物をバックパックにしまい、ボスの攻略までしている。
つまり素手、普通雑魚であれ強い武器を使用すれば一瞬で倒すことができると思っている人が多いだろうが、このゲームのルールとして、一つ、ダンジョンには武器のレア度強さ、プレイヤーのスキル、パーティーの総戦力、すべてを差し引いてダンジョンの難易度になる。
しかし、レベルが高いとダンジョンが強くなるわけではない。さっきも言ったが、プレイヤーのスキルも差し引いてダンジョンの難易度である。
僕の使っているキャラはゲームキャラ総選挙で最弱のキャラとして有名なキャラだ。そして最大の利点はこのゲームは、クインテット、つまり五人組だ。
本来は五人組で、強いキャラを使い、強い装備で、ダンジョンに行くが、
俺は一人で、雑魚と言われているキャラを使い、できるだけアイテムをしまい、ダンジョンに来ている。
当然、ダンジョンのレベルも、僕のレベルにあったものになるはずなのだが、通常パンチの攻撃力の増加の薬草を使っているためからか、打撃一撃で、敵をワンパンできる。
レベル上げにはもってこいな立地である。と僕は思うけどな、ここはそんなに人気がないからか、人が来ない。
はずだった。
足音がしたと同時に僕は魔法≫シャドーを発動させ、木の陰に身を潜めた。
…しばらく様子を見ていたが、初期装備で、ランクなし、そして、ぎこちない戦い方から、
初心者だと思う。というか初心者ならここを選ばない。はずなのに、あの子は何をしてるんだ?…
*
数時間前
「友達に面白いゲームがあるって言われたからプレイしてみるけど、これ、今人気のFPSゲームだよね…」
現在の時刻は午前一時、友達からメッセージで新しい神げーがあるから一緒にやろう。と誘われてから、
すでに三時間が過ぎている。
普段はMMORPGしかしないから、立ち回りとか、武器の種類とか、覚えるのが苦手な私は、誘われたVRFPSをやったことがない。が、友達と一緒にやるために、少しでもスキルを上げておかなければ、足を引っ張るのは私だ。
「…まあでも少しだけ、触ってみようかな。」
私は部屋の電気を消し、ベットに横になり、VRゴーグルを頭に装着して、仮想世界への道、ザ・グラップに移動する。
少し不安だけど、行ってみよう。
*
利用規約に同意し、ゲームが始まるとシステムメッセージが来た。
「ニックネームを入力してください。」
「ニックネームか…うーん」
私自身リアルの名前で、基本登録してしまうのでニックネームと言われても、ぱっとすぐには決まらない。
「…そういえば、昨日の夜チョコミントアイス食べたっけ……それでいいか!」
という感じで、私の名前はチョコミントになった。
「使用するキャラクターを選択してください。」
(…このゲームはキャラクターによって、戦いが左右されるって友達が言ってたな…)
とりあえずキャラ説明を一通り聞き、キャラクター選択画面に移動した。
(友達が”プッシュ”らしいから、私は後方支援系の魔法使いがいいのかな…)
そして目に入ったのが”ソーサリィ”
ソーサリィ。魔術、妖術使いのキャラクター、
前線に出て戦うキャラクターじゃなく、後方支援がメインのキャラクター、
ほかのキャラクターと違ってMPの回復が少しばかり早く、なおかつ魔法のアンロックが序盤でたくさんできることができるのが特徴らしい。
前線に出て戦って死ぬよりは、後方支援で味方のカバーをしていたほうがだいぶ楽だ。
そう思った私は、さっそく決定ボタンを押し、チュートリアルを始めた。
*
チュートリアルは単純だった。
武器の種類はたくさんあるが、覚えればいいものは少なく、どちらかというと能力の使い方が主だった。
とはいえ、私のキャラの固有能力は≫治癒なので、死ぬことは少ないし、今はまだアンロックできていない魔法がたくさんあるため役に立つことができない。
(…一人旅するか。)
そんなこんなで、友達の役に立つため一人でモンスターを倒しに、瀕死になるたびに魔法を使い、他のプレイヤーがいない地下深くまで潜った。
ある程度潜っている最中に魔法をアンロックできたので地下深くまで潜っていても攻撃を食らうことは少なくなったが、MPの消費が激しく、物理攻撃をすることを余儀なくされる状況にまで追い込まれていた。
(うーん…もうダメかも)
デスペナルティ―や、デスボーナスは聞いたことがないが、しないほうがいいのは私も承知していたので、本当は死にたくなかったが、モンスターに遠くから狙われているこの状況で、どう打開すればいいのかなんて混乱していた私には考えられなかった。
――。銃声が鳴った後、倒れる音がした。
それは私が倒れたわけではなく、プレイヤーが敵を狙撃した音で、その音はすぐ隣でなっていた。
銃声がしたほうを見ると、男の子が立っていた。
「…なっ…何をしているんですか…」
男の子はこちらを見るや否やそんなことを口にした。
「助けてくれてありがとう。私。初心者だから死にそうになってた。」
そんなことを口にすると、男の子はこちらに近づいてきて、
魔法≫治癒を使用し、私のHPを回復、MPまでも回復してしまった。
「助けてくれてありがとう。おかげでリスポーンしなくて済んだよ。」
「…いえ、お気になさらないでください。」
「私このゲーム初めてでさ、友達とやろうと思って、このゲームをソロで経験値を上げているんだけど、地下に行くほど強くなるシステム自体を知らなくて、いつの間にかMPまで消費してた。」
「…ここでは簡単に経験値が手に入りません Lv14なら地上付近の雑魚モンスターを一掃すれば経験値は手に入りますよ。」
「そうなんだ。てっきり地下に行くほど、経験値が手に入るのかと思ってた。」
「それにここはモンスター狩りには向いていません、地形も複雑ですし、何より上下の高低差が激しい。ハンドガン一丁では敵を殲滅できませんよ。」
「……ハンドガン?」
「……まさか手ぶらで来たんですか!?初期装備もところどころ装備できていないと思ったらそういうことですか、あなた、中途リアルを適当にスルーしましたね…」
呆れたような顔をしてアイテム欄から武器を取り出しこちらによこす。
「これはP18C、ハンドガンです、サプレッサーも弾薬も無限のカスタマイズをしてありますのでよかったら使ってください。」
「あ…ありがとう。」
それにこれと、あとこれそしてこれ、それから――。
そんな感じで、初心者にたくさんのものをくれた彼は、ホーム、というシステムコマンドで地上を案内してくれることになった。
*
僕が思っていたより彼女は初心者だった。
武器の装備の仕方も、銃の打ち方も、道具の使い方も、何もかもできていなかった。
そんな彼女が心配になってしまい。僕は彼女にこのゲームの遊び方や説明、効率のいいレベル上げ、裏技など、たくさんのことを教えた。
彼女の飲み込みは意外にも早かった。魔法は現段階のレベル以下のものはすべてアンロック済みであったし。MPも普通のキャラより上限値が高かった。
これは、一瞬で分かった、この子のキャラはバグっている。
時々、キャラクターの透過が起こる。
これは致命的であり、早急に更新が必要なはずが、更新が入らない。
つまり、仕様である可能性が高い。
ゲームで不利な仕様はないはずだが、このキャラクターの更新は入らない。
つまり、僕のキャラクターと合わせれば強いキャラとして使えるのではないか、そう僕は考えた。
ただし、僕の身分も身分であるから、安易にアカウントをさらすのはこの子のためにもよくない。
なので、僕は名前を変えることにしよう。
このゲームのシステム上、ランキングに名前が載っていてもランキングの名前は変わらず、名前の変更ができる。
名前がないといい。この子と仲良くなり、この子を成長させる。
僕はコミュ障をなくすチャンスじゃないか。
そんなことを思いながら、朝食をその子と食べるのだった。
*
「あの、言いづらいんですけど僕とパーティーを組みませんか?」
「パーティーかぁ、友達も多分誘うんだけど、大丈夫なのであればいいですよ。」
「全然いいんですけど、申し訳ないんですが、僕の名前を決めてもらっていいですか?」
「ゲームが始まるときに決めなかったのですか?」
「いい名前が思いつかなかったのでそのまま入力してしまったんですよ…」
などと嘘をついて、名前を付けてもらった。
「クト…ですか。」
「はい!だめでしたか…?クインテットってゲームで出会ったので、クト、シンプルにしようと思って…」
「じゃあ今日からクトです!よろしくお願いします!」
「よろしくお願いします。クトさん!」
「そういえば、まだ名乗っていませんでしたね。私はチョコミントです。ミントでいいですよ。」
「ミントさん、お願いします!」
「こちらこそ!」
*
そんなことは言ったが、僕はミントが嫌いだ、
この子ではなく、食べ物のほう。
大好きだった、妹が好きだったチョコミントアイスは夏の空の下で
道路にこぼれ、赤く染まっていた。
妹は事故にあった。救急車にて救急搬送された先の病院で医者に言われた一言、
「もう、出血が止まりません。」
その言葉を聞いて、病院を飛び出した。
先に家に帰って、ふて寝した。
涙は数日遅れて流れ、仲良かった妹がいない家はすっからかんで、寂しかった。
母と父は次第に帰りが遅くなり、そのうち3年に1回も帰ってこなくなった。
もう駄目だと思ったとき妹が育てていたミントが枯れているのが見えた。
そして、その下に手紙があった。
手紙には一言、
「大事に育ててね。またゲームをしようね。お兄ちゃん。」
明らかに、妹の筆記だった。
枯れているミントに水をやり、
大好きで一緒にやっていた。クインテットをやり続けた。
もしかしたら、人生の歯車はここで狂ったのかもな。