あーん。
「ダメだよ!絶対にダメ!僕達と一緒なんて有り得ないよ!!」
お昼ご飯を食べた後、リオンと私は何故かリオンの部屋で横になって休んでいた。
私が私室へと入ろうと思ってたらリオンに腕を掴まれて部屋へと連れ込まれてしまったのだ。
…いや語弊が生じる言い方だが、事実だ。
そしてベッドへと転がされ、横にリオンもやって来て…今はチョコレートを渡す話をしている。
私がアレスへのチョコレートを家族と一緒のお夕飯時に渡すと言ったら凄い剣幕で怒られた。
「もう!リリアには…こう…ロマンスの欠片も無いの!?」
「いや、だってまだ8歳…。」
思いの外、リオンは恋愛面にうるさいみたいだ。
「年齢の問題じゃないよ!女の子が愛の告白をするイベントなんでしょ?」
私の方が詳しいはずのバレンタインの趣旨を言われ…思わず後退る。
「愛の告白って…今日はそんなつもりじゃ…」
「なら何故、アレスのチョコレートは僕達とは違う箱なの?」
私が反論しようと口を開けば、食い気味に被せてきた。
そして何故、箱の種類まで把握しているんだ?
「アレスの分は夕食後に、二人でお茶しながら渡すんだよ?」
何故かこれからの流れを全てリオンに決められてしまった。
私にロマンスの欠片も無いのがいけないのか…。
お夕飯時に他の家族に渡すのにアレスにだけ無いと変じゃ無いかと言えとリオンは少し考える素振りを見せる。
「うーん…アレスには後でお茶しながら渡したいって言えば良いよ。」
そう言われた時はふーんと思っていた…。
思っていたのだが…いざ、夕食の時に家族に渡し終えた後…緊張して思わず躊躇う。
何となく家族に聞かれるのが恥ずかしい気がして、アレスに近づいて話しかけた。
「アレスのは…この後、二人でお茶でもしながら渡したいんだけど…。」
照れ臭くて凄い小さな声で話したのに、向かいではリオンが親指を立ててグッ!とかやってるし。
お祖父様もお祖母様もニヤついてるし。
更にはマリーもアリーもセバスチャンまでもニヤニヤしてるように見えてくる。
何で皆んなに聞こえてるのー!?
アレスの顔は耳まで赤く染まり、それでも笑顔で「楽しみにしてる。」って言ってくれた。
なんか巻き込んでごめんなさい。
夜の私室だとよろしくないという事で、普段あまり使わない応接室を用意された。
マリーがお茶を用意し終えると「扉の向こうで控えております。」と気遣われてしまった。
ちょっと本気で恥ずかしい。
さて、何と言って渡そうか…と沈黙してしまう。
アレスは平然とお茶を飲んでるというのに…私ってば何でこんなに緊張してるのよ!
「あの…これ良かったら食べて?」
スッとチョコレートを入れた箱を差し出すと、アレスは手に取って嬉しそうに微笑む。
そんな顔されると照れるんですけどっ!
なんか胸の奥がワシッて掴まれて、ギュってなる!
「ありがとう、今…開けてみても良い?」
「…どうぞ。」
…よろしくないけど…どうぞとしか言えない。
いや、出来栄えは悪くなかったはずだ。
冷静になるんだリリア!
「わぁ…綺麗だね!宝石が詰まってるかと思った。」
ニッコリと微笑み、サラッと恥ずかしい事を言うアレス…マジで怖い。
何この子…そんな事を普通に言えちゃうなんて恐ろしい子!
そんなに褒められた事もない私は嬉しさと照れ臭さで顔が熱いし、何も言えなくなってしまう。
アレスは一つを手に取り、何故か再び箱へと戻すと私の近くへと椅子を寄せた。
てっきり食べてくれると思ったのに違ったので少し残念な気持ちになってしまう。
すぐ真横まで来たアレスは再び箱を私の方へと寄せる。
え?へ…返品!?
何か問題でもあったのかと、箱の中のチョコレートを手に取るが見た目では分からない。
アレスは嗅覚も良いから変な匂いでもしたのかな?
「あーん。」
……あーん?
私は訳も分からずポケッとしてると、アレスは私の手首を掴み…持っていたチョコレートをパクリと食べた。
…パクリと…私の手から食べた…?
指についたチョコレートもペロリと舐めた…だと?
「うん、とても美味しいね。」
しかも極上の笑みで私を見た…だと?
…なん…だと?
「うにゃーー!!」
私は凄まじい勢いでガタガタと椅子ごと後退ってしまった。
「リリア?」
「にゃっ!にゃにするのー!?」
呂律が上手く回らず若干パニックに陥っているが、何とか声が出る。
アレスはキョトンとして首を傾げ…立ち上がると私の近くに来た。
「もう少し食べたいんだけど…ダメ?」
「ど…どうぞ!お好きなだけ食べてください!!」
リオンの専売特許、コテンを駆使するとは…攻撃力が半端ないな…。
私の心臓が持たないんだけど…などと変な事を考えていると、アレスは私の手を取り立ち上がらせる。
エスコートしつつ椅子を持ち、元の場所まで戻ると私を座らせてくれた。
あら、紳士。
そして再びの…「あーん。」だと?
ウインクしながら口元を人差し指でトントンするんじゃないっ!
そして何で毎回「あーん。」をするんだっ!
しかも口に運ばないと全然食べないの…なんで?
ドギマギしながら数回ほど繰り返し、そのうちの何回かは指も舐められ…満足したのか箱を閉じた。
「リリアに食べさせてもらうと、もっと美味しいから…ありがとう。」
ペロッと口元についたチョコレートを舐め取りながら言うんじゃない!
その歳でエロさを出すんじゃない…見惚れてしまったじゃないかっ…。
私が両方の頬に手を当てて顔の熱さを改めて実感してると、アレスはふふっと笑い出す。
「リオンの言った通りにやってみたけど、リリアの可愛い顔が見れたから良かった。」
「…え?リオンの…言った通り?」
どれの話?…あーん?指ペロ?唇ペロリ?
全部って事はないよね?
「ホワイトデーは楽しみにしててね?」
含みのある笑顔でアレスは私に告げると「お部屋に戻ろう」と言って手を差し出した。
私は「あら、紳士!」などと再び思って……何を楽しみにしてれば良いのか分からず、ただ只管に熱い顔を片手で押さえることしか出来なかった。
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