閑話 叶わぬ恋の話
「なあ、リーマス…?」
王都のクリスティア家の僕の部屋に、クロードは今日も訪れていた。
リオンとリリアが領地に帰ってから三日に一回は来ているように思う。
僕は手元の課題を中断させ、クロードに目を向けた。
「アレスとは、どんな人物なんだい?」
はぁ…またこれだよ。
初めてアレスに会った日から何故かアレスの事や領地の事を細かく聞いてくる。
特にアレスとリリアの仲がとても気になっているようだ。
「アレスの事を聞いてどうするんです?」
僕は頬杖を付きながらクロード殿下に答えると、クロード殿下も困った顔をして首を振った。
「そうだね、聞いてみただけだよ。」
ごめんね?と再び課題に手をつけた。
クロードはリリアの事になると、人が変わる。
というか、人間らしくなると言った方が正しいかもしれない。
普段は人形のように感情もないのに、リリアに向ける表情は同年代の男の子と変わらない。
「…リリアが好きなの?」
出来るだけ表情を変えないようにしてクロードに問えば、彼は手を止めて首を振った。
「僕じゃ、リリア嬢と婚約出来ないんだよね。」
苦笑いを浮かべながら答えるが、それじゃ好きだって言ってるようなものだ。
「アレスもね、リリアが好きだと思うよ?」
「…そうだろうね。」
少しだけ意地悪く言えば、クロードは肩を落としてしまった。
その様子に悪い事を言ってしまったと思うが…なんと言っていいのか悩む。
「僕はクロードに、この国の王になって貰いたいって思うから…悪いけどクロードの恋は応援できないよ?」
クロードがリリアと婚約出来ない理由の…王位を継ぐ事に触れれば、彼はフッと笑みを溢した。
切ないような、嬉しいようなって感じかな?
「ありがとう、僕も王を継ぎたいと思ってるから分かってはいるんだ。」
「…分かっているけど、リリアが好きなの?」
真剣に話すクロードに僕も真面目な顔になる。
「ああ、好きだよ。本当…君の妹は何であんなに可愛いのさ。」
何故か文句を言われた。
でも仕方ない…リリアが可愛いのは事実だ。
「可愛くて強くて頭も良いとか…ズルイよね。」
クロードの顔が少しだけ悪い笑みを浮かべる。
「ズルくない!リリアもリオンもちゃんと努力してる。」
「そこなんだよね!努力して結果を出してるのが凄くてズルいのさ。」
ビシッと何故か人差し指を突きつけられて、僕はその指を自分からずらした。
「君の弟妹は仕草も一々、可愛いじゃないか!」
僕の弟とは大違い!とでも言いたいのだろうか?
否定はしないけどね。
「だって、僕の弟妹だもん。」
ふんっと鼻で笑えば、クロードは怪訝な顔をする。
「…リナリア嬢は君の妹だったよな?」
クロードが小さな声で呟くと、今度は僕の眉間にシワが寄った。
その顔を見たクロードが苦笑いする。
「そんなに嫌なの?」
「嫌なんてレベルじゃないよ!あれを妹だと…自分と血が繋がってると思われるのも耐えられない。」
嫌悪感を丸出しにして言えば、クロードは更に眉を寄せた。
「まぁ…兄妹と言っても歳が離れてるし、まだ幼いだろ?」
幼いのだから仕方ないとでも言いたいのだろうか?
あれは確信犯だ。
「なら、クロードの婚約者だったらどう思うのさ。」
「いや!リナリア嬢はジュードの婚約者だ!!だから僕はそんな事は1ミリも考えない!」
僕の顔の前に掌を向け、クロードは思いっきり首を左右に振る。
考えるのも嫌と聞こえる気もするな。
「…ジュードは物好きだなと思うよ。」
クロードがジュード殿下の事を思い浮かべ、鼻で笑った。
「だけど、その物好きなジュード殿下はリリアにもセシル嬢にも好意を寄せてるみたいじゃないか?」
特進クラスに突撃した日から、何故かリリアとセシル嬢が気に入ってるようだ。
クリスティア家にも前よりも頻繁に来ては、リリアの事を聞いているらしい…困ったものだな。
「あれは、止めさせるべきだな。リリア嬢にもセシル嬢にも迷惑をかけ過ぎている。」
クロードは苦虫でも噛み潰したような、なんとも嫌な顔をする。
上級生の僕らでは、リリア達に何かしようにも厳しかったりするし。
だからといって、ジュード殿下に意見できる者もいないか…
「ジュード殿下に何か言えるとしたら、クロードしか居ないんじゃないか?」
その言葉を聞いたクロードは深い溜息を漏らす。
心底…面倒臭いと顔に書いてあった。
「放っておけば、リリアに迷惑だと思うけど?」
僕が呟けばジト目で僕を睨むクロード。
「僕がリリア嬢を好きだからって嗾けるのかい?」
「そう言うわけじゃないけど?ただ、リリアは迷惑するだろうなーって思っただけだよ。」
ニッコリと微笑めば、クロード殿下は諦めたのか再び溜息を吐く。
「まぁ、あれの尻拭いは僕がしよう…代わりに何かリリア嬢が作ったお菓子を僕に寄越せ!」
僕の前に手を広げるクロードは、ご褒美を強請るような顔で僕を見た。
まぁ…そのくらいなら頼んであげても良いかな?
害虫駆除は面倒だしね。
「仕方ないから、リリアに頼んであげるよ。勿論!ジュード殿下を遠ざけてくれたお礼にって事でね?」
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