鈍感過ぎる妹
リオン視点のお話です。
「やっぱり、リオンも居たのね?」
庭園の端の一角、僕がコッソリとリリア達の様子を覗いていれば後ろから声が掛かった。
振り返ればお祖母様とお祖父様もコッソリと覗いている。
お祖母様が目で、違う木の影に合図を送れば…そこにはマリーもアリーも居た。
いや、よく見れば邸中の人間が庭園に設置されたテーブルセットを覗いている。
「リリアの様子が何だかおかしいようだけど…?」
お祖母様は心配そうに僕に聞いてくるので、僕はリリアが有り得ない勘違いをしている事を伝えた。
それを聞いた祖父母はリリアを残念な目で見る。
「リリアは、他の事には聡いのに自分の事になるとどうして…大丈夫なのかしら?」
お祖母様が憂いを帯びた声で呟く。
すると覗いていた皆んなが頷いていた…勿論、僕も。
「アレスがあんなに分かり易く口説いているのに、気づかないものなのかしら…。」
本当にそう思う…リリアが恋心に気づく前はアレスからのアプローチに何と無しに気づいていた気もするのに。
いざ自分が好きだと分かれば、相手の気持ちは見えなくなるものなのだろうか?
「それにしても…。」
お祖父様が顎を手で撫でながら、リリアを見つめる。
「ええ…うちの侍女は良い仕事をするわね。」
お祖母様も嬉しそうにマリーとアリーを見ると、二人はお祖母様に頭を下げる。
「まさに、花の妖精のようだな。」
お祖父様が珍しくデレた。
顔が蕩けるほどにデレている。
珍しいものを見たと思いお祖母様を見れば…
お祖母様もデレていた。
常は表情筋など存在しないかのように表情を崩さないと言うのに…これは、相当にデレているな。
「それにしても、あの子達は大丈夫なのかしら?」
お祖母様はリリアの様子を見ながら溜息を吐く。
「お祖父様とお祖母様はアレスの“番“の事は聞いてますか?」
僕はリリアと一緒でアレスからは教えてもらってはいないが、何となく察している。
そんな僕に祖父母は頷き、小さな声で教えてくれた。
「リリアだと、本人からは聞いてるわよ?まあ、見ていれば分かるようなものだけどね。」
お祖母様は再びアレスの方を向いて…話を続けた。
「リリアと婚約したいと、アレスはお願いに来たのよ。」
「お願いに?」
僕はコテンと首を傾げれば、お祖母様が苦笑する。
「アレスは王位継承権は持っているけど、貴族では無いの。」
お祖母様のその一言で何となく分かってしまった。
勿論、アレス本人も分かっていたから“お願い“をした訳なのだと察した。
「アレスが中等部に入るまでに、リリアを射止めて…私の姉の養子になる事を条件に了承したわ。」
「お祖母様のお姉様?」
お祖母様からは直接、実家の事を聞いた事がなかったが…確か伯爵家を継いだ人だ。
つまり、アレスが伯爵家の養子になるって事?
「そんな険しい顔をしちゃダメよ?アレスはずっとここに居るから安心なさい。
養子と言っても形式的なものなの…お姉様の代で伯爵家は終わらせる予定だったのよ。」
お祖母様の実家の領地は何とクリスティア家と隣接した森だけ…だから、公爵家と一緒にして貰った方が有り難いと言う事らしい。
今はお祖母様のお姉様…大伯母様にアレスは月に一回会いに行き話を詰めているそうだ。
アレスが裏で相当に頑張っている事を知り、僕はアレスに頑張れ!って気持ちで目を向ければ…
何故か笑顔のアレスと目が合ってしまった。
「やっぱり、アレスにはバレちゃうよね。」
嗅覚と聴覚が優れたアレスには、僕たちが覗いてる事は最初から分かっていたのかもしれないな。
アレスは再びリリアに向き直り、考え込んでいるリリアに話しかけるが…
リリアは自分の世界に入っていて気づかないみたいだ。
…僕の妹は、自分の事には相当に鈍いらしい。
まあ、そこが可愛いと言えば可愛いのだけど。
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