ずっと一緒
「リーオーンーーー!」
リオンは私の耳元で揶揄い混じりに囁いたかと思うと、脱兎の如く部屋を飛び出した。
昨日のお祖母様の言葉をリオンは聞いていたのだ…
揶揄われたと思った時には既に距離は結構に開いていて、私は慌てて追いかける。
「待ちなさーい!」
マリーもアリーも私が走ったことに気づいたが、互いに苦笑いを浮かべて何も言わなかった。
本来ならば注意されるのだろうけど、元気になった私に喜んでいるようにも見えた。
心配…かけてたのかな?
「待てと言われて待つわけないよー。リリアの足なら直ぐに追いつけるでしょー?」
リオンは楽しそうに私に向かって叫ぶ。
こんな子供みたいな事、初めてかもしれない…。
開けた場所まで走れば、リオンは既にこちらに向かって仁王立ちをしていた。
もう追いかけっこは終わりってことかな。
すると、リオンは靴の踵を地面に打つけカツンと音が鳴ったかと思えば魔法陣が現れる。
リオンが手にしているのはお祖父様から頂いた剣だ。
それを見て、私も同じようにカツンと地面を蹴った。
「たまには練習以外でも対決しようよ!」
「…ええ、先ほどのお仕置きも兼ねて…受けて立ちます!」
互いに体に強化魔法をかけると、リオンと剣を交えた。
「さっき、アレスの言葉って言ったけど…僕だって同じ気持ちなんだからね?」
ガンッと音が鳴るほどの重い剣に思わず足を踏ん張る。
リオンは顔に似合わず、結構に力があるなと感じた。
「僕だって、誰にも負けないくらいリリアが好きなんだからね!」
今度はブンッという音と共に剣が目の前を横切った。
好きって言ってる割に…私に容赦ないな。
「僕は、リリアのお兄ちゃんである事を神様に感謝してるんだ。」
互いに剣を弾けば数歩だけ後退る。
見ればリオンも肩で息をするほどに全力のようだ。
勿論…全力疾走からの剣での対決をしてる私も息が上がっている。
「兄妹なら、いつまでもずっと関係は変わらないでしょ!僕はいつだってリリアと一緒に居られるんだ。」
何度かの打ち合いの後…体力に限界を迎え、互いに芝生へと座り込んで…いつしか対決は終わっていた。
こんな風にリオンと話した事なんてなかった。
リオンの気持ちも考えも聞いた事なんてなかった。
「ごめん…リオン。」
自然と謝罪の言葉が漏れれば、リオンは首を振った。
「何を謝る必要があるの?僕は自分の気持ちを声に出しただけだよ?」
コテンと首を傾げ、不思議そうに微笑むリオンは…いつものリオンだった。
いつものリオンなのに…
ずっと幼いと思っていたリオンなのに…
私よりもずっとしっかりしていた。
「私って子供だな…。」
情けなくて、へにゃって笑って…口に出したら…どこか力が抜けてしまった。
そのまま、座っていた芝生に仰向けに倒れるとリオンも同じように仰向けに寝転んだ。
「…子供だよ?誰がどう見たって子供でしょ?」
リオンが珍しくツッコミを入れたので思わず、ふふふっと笑いが溢れた。
そうだよね、誰がどう見たって子供だよね?
何を今更に言ってんだ?ってなるよね。
「リオンは…ずっと一緒に居てくれるの?」
先ほどのリオンの言葉に、少し照れながらも確認する。
リオンは満面の笑みで頷いた。
「僕達、二人がこの領地を継ぐんだよ!当たり前じゃない?」
一緒に居てくれる事を当たり前だと言ってくれる…
それだけで、私は目頭が熱くなった。
「…私が、もしも…もしも断罪されたら…?公爵家を追い出されたら…?それでも…」
「それでも僕は一緒に居る。」
リオンは間髪入れずに答えてくれた。
あぁ…ダメだと目を見開いて涙を堪えた。
「追い出されたら、一緒にどこか遠い国にでも行こう!冒険だよ!?ワクワクするよね!!」
リオンの声は楽しそうで…だけど、その言葉に私は救われた気がした。
…怖かった。
自分が辿る人生が怖かった。
家族が…リオンが失われるんじゃないかって怖かった。
アレスを好きになってく自分も怖かった…。
何もかもが人生から奪われてしまうかと思えて怖くて…怖くて堪らない。
我慢してた涙は、気がつけば目から溢れ出ていた。
私に気づいたリオンは慌てて近くまで来ると、ハンカチで涙を拭ってくれる。
アワアワとして、手が少し震えてるのが分かって…
それがまた嬉しくって…涙が止まらなかった。
「ありがとう、リオン。」
目が腫れるほどに泣いた私は鼻を啜りながらハンカチを貸してくれたリオンにお礼を言うと、リオンはニコッと微笑んだ。
「スッキリした?」
「うん、スッキリした。」
思いっきり泣いたせいか、心を燻ってた何かがスッといなくなった。
「もう!何があってもリリアと僕は一緒!ちゃんと覚えておいてね?」
チョンと鼻に人差し指を当てて、リオンは私の目を見つめる。
コクンと頷けば、鋭かった目が柔らかな眼差しへと変わった。
「僕とずっと一緒って事はさ、互いの結婚相手も気に入った人じゃなければいけないと思うんだよね?」
「互いの結婚相手?」
確かに…私がいくら好きでも、リオンと仲が良くなければ嫌だし…
領地を継ぐにしても支障が出るような気がする。
うんうんと頷くと、リオンも同じように頷いた。
「だからね、僕はアレスの事は気に入ってるから大丈夫だからね。」
「ゴフッ…。」
令嬢としてはダメな感じに咳が出る。
「だって、そういう事でしょ?僕の時もリリアはちゃんと教えてね?」
えっへんと胸を張りながらリオンは仰け反った。
それが何だか可笑しくて、思わず笑ってしまう。
「勿論!私は小姑並みに見極めてあげるよ。」
ニヤッと悪い笑みを浮かべると、リオンもニッコリと笑った。
「僕だよ?リリアが納得しないわけないじゃん!」
凄い自信だな…まぁ、リオンが選ぶ子に間違いはないと思ってるけど。
「じゃあ、アレスに言いに行こう!」
スクッと立ち上がり、私の手を引っ張りながら邸の方へと足を向けるリオン。
え?言いに行く?
今から?今からーーーーー!?
「ちょっと待ってリオンっ、アレスには運命の“番“がいるじゃない!」
リオンを止めようと手を引っ張るが、リオンはズンズンと先へと歩みを強める。
くるっと振り返り、繋いでない方の手で拳を作ればニッコリと笑った。
「運命は切り開くものだよ!大丈夫、リリアなら出来るよ!!」
それって多分…使うとこ間違ってるやつー!
何を根拠に私なら大丈夫って言ってるの!?
リオンは止まる事なく私を邸の方へと引っ張っていくのだった…。
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