リオンと真面目な…お話?
熱も下がった翌日は普段通りに鍛錬を行い、午前中はリオンと共に学園の課題に取り組んでいた。
所謂…冬休みの宿題的なアレだ。
アレスは窓の外でお祖父様と剣術の練習を行なっているらしく、時々…音や声が聞こえてくる。
「リリア様、お手が止まっております。」
無意識に窓の外を見てしまう頻度が高くなり、マリーから注意されてしまった。
そんな私を目の前のリオンはジッと見つめてきた。
「アリー、そろそろお茶にしてくれる?」
リオンは侍女に声をかけると、アリーはお茶の準備をする。
厨房から連絡が入っていたのか、マリーはお茶菓子を厨房へと取りに向かった。
「ねえ、リリアはアレスのどこが好きなの?」
目の前の課題を横に寄せながらリオンはサラッと爆弾を投下した。
あまりの衝撃に課題をテーブルの下に落としてしまったではないか…。
「…え?リオン、何言ってるの?」
慌てて課題を拾って体勢を戻せば、リオンはにっこりと微笑んだ。
「リリアはアレスに恋してるんでしょ?」
さも当たり前のように聞かないで欲しい。
そういう事を兄妹で話したりって中々ないと思うし…えっと…えっと?
ダメだ!既に頭が働かない!
「見てれば分かるよ。」
溜息混じりにリオンは呆れた声を出した。
最近…本当にリオンには呆れられてばかりだ。
気持ちも表情もショボンとなってしまうと…
「あぁ!ごめんっ…そんな顔しないでよ…。」
ここ数日…私自身のメンタルが弱いせいか直ぐに涙が出そうになる。
私…どうしちゃったんだろう?
「リオンは…私の事、呆れてるんでしょ…?」
ガックリと肩を落とせば、リオンは首を振った。
だが、既に何度も呆れた顔を見てるのだ…
「呆れてるわけじゃなくて…最近のリリアは色んな人に好意を持たれて困惑してるよね?」
顔を覗き込まれ、コテンと首を傾げながら話すリオンに…思わず頷いた。
「今の自分の状況に心が置いてけぼりを喰ってるように思うけど…違う?」
最近の私は色々な事が一気に起こりすぎて、付いて行けてなかった。
そして困惑していたのをリオンは気づいていたのか…。
「うん…当たってる。今の私は自分の気持ちに追いつけてない…。」
ポツリポツリと話し出せば、アリーがお茶をスッと差し出した。
いつの間にか戻ってきたマリーもお茶菓子を置き、端へと移動する。
「前世の記憶があるからって、今の私は8歳の子供なんだよね。
勝手に大人ぶって、何もかも分かるつもりで…でも結局は何も分かってないみたい。」
誰かに相談しなきゃ自分だけでは一杯いっぱいになっていたのだ…
だから、お祖母様にも話した。
「学園では、何とか乗り切ったけど…あんなんじゃ駄目だって分かってる。」
いつ足元を掬われるか分かったもんじゃない。
公爵家の令嬢ならば、もっとスマートに解決しなくてはいけなかった。
もっと…
「そんなに焦ってたら転んじゃうんじゃない?」
紅茶をスッと飲み、リオンには珍しく真面目な顔で私を見た。
私は、一瞬…何を言われたのか分からずに困った顔になる。
「リリアは僕と一緒にゆっくり成長すれば良いんだよ。僕を置いてけぼりにしないでよね?」
ヒョイッとお茶菓子を摘まむと、あっ!美味しいと呟きながら続けるリオン。
「僕とリリアは8歳なんだよ?周りの8歳はどう?そんなに頑張って背伸びしてないでしょ?」
リオンはアリーに紅茶のおかわりを貰うと、私にも冷めるよ?と声をかける。
両手で包み込むように紅茶を飲めば…甘い香りが鼻を抜けた。
ホッとする味だった…肩の力が抜けて、張り詰めていた気持ちが解れる。
「リリアは頑張りすぎちゃうんだよ。もう目一杯に頑張ってるんだから、それ以上は頑張る必要なんてないんだよ?」
リオンの言葉に…前世のお母さんを思い出した。
頑張った日の翌日はいつだって熱を出してたっけ…。
葵は、ゴールテープを切っても自分の目的が達成させるまでは走り続ける子なんだって言われたな。
猪突猛進もいいけど、たまには周りも見なきゃ迷子になるって…
本当、私ってば今世でも同じ事してたんだな。
リオンてば、いつの間にか私なんかよりも遥かに成長していたんだな…
「…っていう話を、リリアが熱を出して寝てる間にアレスとしていたんだけどね?後半の言葉はアレスが言ってた事なんだ。」
再び、紅茶を飲みながら…さっきまでの真面目な顔を一瞬で笑顔に変えてしまったリオン。
…え?アレスが言ってたの?
「本当、アレスってばリリアの事…僕より見てるんだもん。」
ふう…と紅茶を飲み干し吐息を漏らすリオン。
すると、マリーが近づいてくる。
「お話中のところ申し訳ございません。こちらのお菓子はアレス様が昨日中にバルトに依頼した物で、リリア様へのお見舞いだそうです。」
淡々と説明を終え、再びマリーは端へと下がっていく。
思わず突っ伏す私。
「何これ…格好良すぎじゃない?」
小さな声で呟けば、リオンはふふふっとお祖母様と同じように笑い…私の耳元で囁いた。
「…ときめいちゃった?」
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