お迎えとお見送り?
ご令嬢方に絡まれたのは一昨日の出来事。
翌日のテストは…超本気を出しました。
こんなに本気出したの、前世のお歳暮シーズンに一日に100件も届けて以来だよ。
しかも対面配達だから実質100人に会った事になるんだよね。
懐かしいな!他の配達員と件数を競ったっけ…
神経を研ぎ澄まし、細心の注意を払いつつ…最後には解答欄にズレが無いかを確認した。
勿論、名前も確認した。
全部で五教科だが、一日で行うのでかなり大変なんだよね。
あとは休み明けの席順次第だ!
「昨日のリリアはまさに鬼気迫る感じだったよね。」
公爵邸の前で祖父母が馬車から降りるのを待つ私とリオン。
今日から冬季休暇のため、祖父母がお迎えに来てくれている。
祖父母は先にお父様やお兄様と挨拶を交わしているので、リオンの言葉に返事をした。
「だって集中しないと…気持ちが横に逸れちゃうんだもん。」
一昨日はリオンに愛だの恋だの語った私だが…リオンがアレスの話をしたから思い出してしまった。
アレスと出会ってから、アレスの私への態度が日毎…甘くなっていくのを何となく察知していたが…
それを気づかぬうちに蓋をしてしまっていたらしい。
それが…あのクロード殿下に触れられた事で思い出され始めたのか、リオンがアレスの名前を口にした瞬間にね。
パカーンとね、開いちゃった訳ですよ。
いやいや、中身はアラサーなのに…まだ10歳の子にときめくとか無いでしょ?
まだ、だって子供なんだよ?とか何とか言い訳してさ。
だけどさ、今の私は8歳で…
ヤバイ、またショートしそう。
お父様方との挨拶を終えた祖父母が私達に目を向ける。
それに気づいた私とリオンは思わず笑顔になった。
「「お祖父様、お祖母様!!」」
駆け寄り、それぞれに抱きつけばぎゅうっと包み返してくれる。
「元気そうだな、学園は楽しいか?」
「ふふふっ、相変わらず甘えたなのね?嬉しいわ。」
頭を撫でながら優しく微笑む祖父母に更に頬が緩んだ。
「学園での事は、ゆっくり領地で聞くとしよう!」
ポンポンと頭を撫でられ、私とリオンは顔を見合わせると…えへへと笑い合った。
祖父母は再び、お父様と話を始めたので私達はそれを後ろで待っていると…
馬車の中でカタッと音がした。
他にも誰かが乗っているのだろうか?
中が気になり覗こうとしてると、本邸の馬車の後ろにもう一台の馬車が到着する。
視線だけを向ければ、王家の紋章が目に入った。
ーーーーー王家の馬車?
「あっ!!ジュード殿下だわ!!」
リナリアが馬車に気づくと大きな声で叫び…次の瞬間っ!?
ドンっ!!!!
目の前の馬車の手摺りに手を乗せていた状態だった私は後ろに居たリナリアに気づかず、リナリアは私に体当たりしながら後続の馬車へと向かった。
勢いよくぶつかった為、私は前方へとつんのめる。
突然の事に私は手をつく事も出来ず…私は思わず目を瞑った。
ーーーーーこのままでは顔面からぶつかる!!
「「リリア!!」」
私を呼ぶリオンと…アレスの声?
……………あれ?
いつまで待っても来ない激痛。
それどころか…何か温かいものに包まれているような?
恐る恐る瞑った目を開けば、目の前には誰かの胸が…
おや、意外に鍛えてる。
「吃驚したーー…大丈夫だった?」
声のする方へと顔を上げれば、心配そうに顔を覗き込むアレスの…どアップ!
「うにゃ!?」
吃驚して思わず奇声が上がった。
さっきまで静かだった心臓がすごい勢いで動き出す。
「あれ?リリアは猫になったの?」
コテンと首を傾げながら、アレスは再び私の顔を覗き込むから…
私は耐えきれずにアレスの胸に顔を押し付けて顔を隠してしまう。
…何だこれ!?
私の心臓が壊れた!?
きっとそう!そうに違いない!
だってこんなに早く脈打つっておかしいもんね!
それにさっきから同じ速さの心音がもう一つ聞こえちゃうもんね!
………ん?
目の前の胸から、私と同じ速度に脈打つ心音が聞こえてくる。
え?何で?
そろそろと顔を上げてアレスを見れば、私の方を見つめていて…
「リリア、そんなに甘えて…寂しかった?」
ーーーーーボンッ!
そんな爆音が聞こえてきた気がする。
私の頭が爆発した気がしたし。
何も返事が出来ずに口をパクパクしていると、背後から声がかかった。
「はーい、そこまで。アレス、助けてくれてありがとう。」
リオンが私をアレスから引き剥がしてくれた…
ちょっと心地良かった腕の中を、少しだけ惜しむ。
…惜しむ?
「リリア、大丈夫だったか?」
「あらあら、怪我はない?」
祖父母が慌てて私に駆け寄ってきた。
お父様もお母様も心配そうに祖父母の後ろから覗き込む。
「大丈夫です、アレスのおかげで怪我もありません。」
私がアレスにお礼を言うと、アレスは馬車から降りて両親に挨拶をした。
両親には話をしていたが、会うのは初めてだったらしく少し会話が弾んでいる。
気づけば…後続の馬車の前からお兄様はリナリアの首根っこを引っ掴んで、私の前に連れてきていた。
ペイッと私の前に投げるようにするお兄様…対応が雑っ!
「リナリア、悪くないもん!」
ムスッとして両手を組んで、ふんと鼻息を荒くする。
いや、どう見てもリナリアが悪いだろうよ…
「ジュード殿下が来たと思ったからお迎えに行っただけだもん!」
更に偉そうに胸を張る…まだ出てないけど。
「リナリア、人にぶつかったら謝らないと!リナリアが人にされたら嫌だろ?」
お兄様はリナリアを諫めるが、リナリアがプイッとそっぽを向いてしまった。
あの一件からリナリアの事を許してないお兄様だが、こうやって妹としてちゃんといけない事はいけないと教える辺り…
お兄ちゃんなんだなと思う。
ところでサリーはどこ行ったんだ?とキョロキョロすれば、ケリーに支えられながら祖父母へ挨拶をしていた。
「サリーはリリア達と一緒に領地に戻るそうだよ。」
「「……え?」」
お兄様の突然の言葉に思わず驚いてしまう。
無理もない、リナリアの教育はどうすると言うのか…。
「僕の部屋に忍び込んだ日に、サリーはリナリアの無茶で腰を痛めたそうだ。日に日に酷くなるので、ケリーに侍女長の引き継ぎをしたって聞いたよ。」
…だから、あの日のリナリアの暴走をサリーは止められなかったのか…。
あれから4ヶ月近くも腰痛に耐えてケリーに教え込んだらしい。
「僕もサリーには酷い言葉を吐いたから、あの後…謝りに行ったら教えてくれた。」
お兄様はリナリアから目を離したサリーに謝りに行ったのか、偉いな…。
「リナリアのせいじゃないもん!ジュード殿下も居ないからお部屋に戻るー!」
リナリアは再び、使用人にぶつかりながら邸へと入って行ってしまった。
サリーが居なくなって…大丈夫なのだろうか?
「あの馬車はジュード殿下じゃなかったって事?」
リオンは王家の馬車の方を見ながらコテンと首を傾げる。
確かに…普段ならばジュード殿下が乗っている馬車なのだろう。
馬車を見つめていれば、扉の外で何人もの騎士様が膝をついていた。
え?何あの物々しさ…怖いんだけど?
「ああ、あれはクロードだよ。」
お兄様はあっさりと答えるが…いつもクロード殿下はあんなに物々しく登場するのか?
吃驚しながら見てれば、話を終えたアレスが私の横に来てお兄様に挨拶をする。
お兄様とは領地で何度か顔を合わせていて、しかも同じ歳なせいか仲が良い。
それにしても…アレスは背がまた伸びてる。
お兄様やクロード殿下よりも背が高い。
男の子の成長期はあっという間なんだなと…リオンを見た。
この可愛いリオンもいつかはゴツくなるのかな?
なんか…可愛いままでいて欲しい気がする。
騎士様方を引き連れ、クロード殿下が私達の前へと来たので私達は姿勢を低くし頭を下げる。
クロード殿下は私達に顔を上げるように声をかけて、改めて向き直ると挨拶を交わした。
「今日から領地に戻ると聞いていたので、お見送りにきたよ!」
嬉しそうに話すが…王子はそんなに気安く人様のお見送りなどしないで欲しい。
と、内心では思ったが…顔は笑顔を維持する。
「「ありがとうございます。」」
私とリオンが感謝を伝えれば、クロード殿下は少し残念そうな顔をした。
「本当は僕も行きたいんだけど、まだ許可が下りないんだよね。」
肩を竦めながら、残念がるクロード殿下。
王城のすぐ側の公爵家に来ただけで、こんなに物々しいのだ…領地など無理だろうと思う。
「リリア嬢、彼の事を紹介してくれない?」
クロード殿下は明らかな作り笑いでアレスを見た。
アレスもクロード殿下を見てから、私の方へと顔を向ける。
「訳あって領地で一緒に住んでいる、アレス・ハインツです。」
アレスを紹介すれば、アレスも自身で名乗り…ボウ・アンド・スクレープをする。
以前よりも美しい所作に思わず見惚れていると、リオンに肘で突かれた。
慌てて顔を戻すが、何故か周囲は私に注目している。
え?何で?
「見た感じだとリリア嬢より年上だよね?…アレスは学園には通わないのかな?」
クロード殿下は再びアレスに向き直り、問いかける。
「僕はリーマス様と同じ歳です。他国の出身の為、今は領地で王国の事を学び…中等部から学園に通う予定です。」
アレスはクロード殿下に笑顔で答えると、クロード殿下が一瞬だけ怯んだ。
分かる…アレスの笑顔は神秘的で神々しいもん。
ウンウンと頷いていると、アレスは私の肩に手を乗せる。
どうしたのかとアレスを見れば、何故か更に笑みを深めた。
「今日は態々、お見送りに来て頂きありがとうございます。」
「また、学園でお会い出来るのを楽しみにしております。」
アレスとは反対側の私の横にいたリオンがクロード殿下に話し始めたので、私もつられて話すと…クロード殿下は苦笑した。
「今日はお見送りに来て正解だったよ。…リーマスに話があるから失礼するよ?」
クロード殿下は私達に手を振ると、お兄様と共にお邸へと入って行ってしまう。
あれ?お見送りって…これで終わりなのかな?
不思議に思いながら私はクロード殿下の後ろ姿に首を傾げるのだった。
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