リリア、無自覚にやらかす
私の発言から約五分が経過しようとしていた。
5人も女の子が教室にいるというのに、とても静かだ…。
向かい合う三人の令嬢は、とても青い顔をしている。
今にも倒れてしまいそうなほどに唇の色も悪い。
いや、センターの令嬢だけはピンクの口紅で分からないか。
さて、これからどうしたものか…
先ほどから教室の入り口には複数の人の気配がある。
その中にリオンもいるのだろうか?
ここは上手に乗り切らなくてはならない。
やはり公爵家の名前を背負ってる以上はしっかりと対処しなくてはね。
◇◇◇◇◇
静まりかえった教室…の入り口。
僕は何故か、お兄様と一緒にいる。
正しく言うと…クロード殿下とか、高位貴族の子息方と一緒だ。
「こんにちは、実況のリオン・クリスティアです。」
「同じく、解説のリーマス・クリスティアです。」
手にはマイクを持ったフリで、現在の状況を説明するべく…
リリアとやるような感じで始めたら、お兄様も乗ってきた。
お兄様は見た目とのギャップが有り過ぎると思う。
「君たちは…何をしてるんだい?」
クロード殿下が、呆れながら問いかけてきた。
「何って…ねえ?」
お兄様が僕に振る…お兄様が答えてくれればいいのに。
「リリアと遊ぶ時みたいに実況しようかと思いました。」
「だ、そうです。」
…お兄様。
「で?今はどんな状況な訳?」
クロード殿下が少しご機嫌斜めのご様子。
やはり、リリアが絡まれてるからなのだろうか?
「突撃してきたご令嬢方は、リリアとは知らずに本人の前で然りげ無く悪口を挟みつつ話し始めたのです。」
「全く、ジュード殿下の追っかけならば把握していてもおかしくないというのに。」
お兄様が苛立たしげに文句を言う。
「因みに、先ほどからの沈黙はリリアが本人だと名乗り出たからです。」
「公爵家に対して〜なんて言ってた令嬢こそ失礼だよな。」
お兄様はかなりご立腹のようです。
「では、何故に僕らは教室の外で待機してるんだい?」
クロード殿下は教室の扉を開けようと手を伸ばしたので、慌てて止める。
拗れてしまうではないか。
それに…。
「僕達、男の子が出て行けばリリアの印象は最悪になります。ここはリリアが対処できるので終わるまで待ちましょう!」
上級生を必死で止めると、クロード殿下は暫し考えてから元の位置に戻った。
「なるほどね、リリア嬢のお手並み拝見だな。」
再び、教室の隙間から中を覗くとリリアとバッチリ目が合った。
少しだけ口角が上がったのが分かる。
さて、リリアはどう対処するのかな?
◇◇◇◇◇
「やはり、失礼なのでしょうか?」
私は頬に手を添えて、溜息を吐く。
緊張感を少しだけ緩めれば、ご令嬢方もヒクッとしながら姿勢を正す。
「私の妹のリナリアはジュード殿下の婚約者ですから…私もリナリアと呼ぶのは失礼に当たる…そう言う話で良かったですか?」
「…え?」
ご令嬢方は未だに頭が真っ白なのか、誰も真面に返してこない。
「先ほどの話ですと、私が失礼な人間で…しかも人を下に見るような人間だとか…?」
「…いえ、そんな事はっ…」
ご令嬢方は再び青ざめていく、そして先ほどから私に敵意剥き出しの令嬢はスッと隠れた。
「自覚がなかったとは言え、そんな事では公爵家の人間としていけませんね。ぜひ、お相手に謝罪しませんと…」
隠れた令嬢に一歩近づけば、逃げ場が無いのか後退った。
「私、貴女様のお名前も存じ上げなくて…大変恐れ入りますがお名前をお伺いしても?」
かなり丁寧に喋るように心がけ、顔は眉を寄せ申し訳なさそうにする。
「いえ、私など…」
更に後退るご令嬢にスッと近づいていく…
「お名前は何とおっしゃるのです?」
更にご令嬢に近づき、今度は最高の笑顔で尋ねる。
私の様子を他のご令嬢はガタガタ震えながら見ているが、次は貴女方にも伺います。
「………ファシー・ネービルです。」
「ファシー様はネービル子爵家のご息女でしたか。それで、どなたなのでしょう?」
名前を聞き出したのに、質問が続いた事にファシー様は戸惑う。
「先ほど“ちょっと人を下に見てるそうですわ“とおっしゃっていたので、どなたかに聞いたのでしょう?」
人が言っていた…そんなニュアンスの話し方だった。
「あの…えっと?どなたでしたかしら?以前にお茶会か何かで伺ったような…?」
ファシー様の目は凄い勢いで泳いでいる。
目を回さないのが不思議なくらいに…
それにしても、少しオレンジがかったブロンドに茶色の瞳だが…私と同じように目が吊り上がっている。
将来は立派な悪役が出来そうな顔は長い前髪で隠されていた。
「では、思い出されましたら教えて下さいね。」
私はニッコリと微笑み、クルッと振り返る。
残り二人の令嬢はヒッと小さな悲鳴を上げた。
人の顔見て悲鳴上げるなんて失礼じゃないのかな?
「お二人のお名前もお伺いして宜しいですか?」
私的には優しく微笑んだつもりだが、何故かガタガタと震えている。
本当に失礼だと思うのだが?
「わ…私はメアリ・キャロリーヌですわ!」
どピンクの令嬢が胸を張って高らかに名前を言う…が足が生まれたての小鹿のようだ。
「では、マリナ様の?」
「姉をご存知ですの!?」
逆に、家族に私の事を聞いてない事に吃驚だよ。
一年前の王城の事を知らない訳ないだろうに。
「ええ、存じてます。ですが…それならば何故に私をジュード殿下の婚約者だと勘違いしてらしたのでしょう?」
マリナ様は家では話さないのだろうか?
姉妹揃ってジュード殿下の追っかけってどうなんだろう…。
「姉とはあまり仲が宜しくないのよ!では、本当にリリア様はジュード殿下の婚約者じゃございませんの?」
「婚約者は妹のリナリアです。」
ジュード殿下の婚約者になど、間違われるのも嫌なのに…。
私の言葉を聞いたご令嬢はどこかホッした顔をしている。
なんか、私が婚約者じゃなくて良かったみたいな空気も私に失礼ではないのだろうか?
「申し遅れました、私はミモザ・ジャンパー二です。」
「ジャンパー二伯爵家の?」
白金の髪にオレンジっぽい色の瞳のご令嬢は縮こまりながら頷く。
お気づきだろうか…?
何故、男爵位のメアリ様を筆頭に後ろに男爵位より高位の子爵家と伯爵家が続いているのか?
どんな力関係でそうなってんの?
むしろ、そっちのが気になる。
「これからは、今以上に自分の振る舞いに気をつけますね。
領地や領民を守り、上に立つ者として…公爵家に恥じないようします。」
ご令嬢方に向き直り、それはもう素晴らしい笑顔で宣言すれば…
何故か三人は互いに肩を抱き合い震え上がって、凄い勢いで教室を出て行ってしまった。
宣言した私を置いてけぼりにしないで欲しい。
「……あの……リリアさん?」
後ろの方で静かにしていたセシルさんが、私の方へ恐る恐る近づいてきた。
「セシルさん、大丈夫でした?」
セシルさんは私の問いにコクンと頷くと気まずそうに呟く。
「あの…ずっと威圧がかかってますよ?」
………え?
私は思わずキョトンとなった。
威圧って?
すると教室の扉の向こうからお腹を抱えて笑うクロード殿下と上級生、更にその背後からはお兄様とリオンが苦笑いしながら入ってきたのだった。
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悩みに悩んで…こんなオチです。
そして更新が遅くなり、すみません。




