リリア、令嬢に絡まれる
「うにゃー!!…………ただいま。」
「………おかえりなさい。」
放課後の静かな教室。
明日からのテストで、生徒は早々に帰宅して残ったのは私とリオンとセシルさんの3人だけ。
私はセシルさんと共にリオンが日誌を書くのを待っていた。
アップルパイを焼いた日のあの出来事を時々思い出しては、先ほどのように思わず叫んでしまう。
それも仕方ないと思う。
前世も今世もあんなに美形な人に、あんな事されるなんて経験がないのだから…
何だあれは!…犯罪ではないのか!?
超絶美形なクロード殿下にあんな事をされたら、誰だって叫びたくもなるだろう?
リオンは何故か「恋しちゃったの?」とか聞いてくるし…
してないからっ!
老若男女問わず、あんな事されたら皆んなドキドキしちゃうんだからー!!
だから宣言する!あれは恋じゃない!!
私は認めないし、そもそもクロード殿下とは永遠に結ばれる事はないのだ。
いや…ある条件下でなら不可能ではないが…
そんな特殊事情になったら、それはそれで面倒だから…やっぱり無しって事で。
アップルパイは家族にも好評で、翌日の朝食に出してもらったカスタードクリームは…見事にお兄様に奪われてしまった。
ただ、驚いたのは…お母様も瓶詰めしたカスタードクリームを欲しがった事だった。
何でもお茶会の茶菓子と共に出したいのだとか…
おかげで、私の手元にはカスタードクリームは残らなかった。
お父様はアップルパイを気に入ったらしく、料理長のハイムさんに時々作ってもらうように手配していた。
リナリアもお気に入りのようで、一つじゃ足りないからと翌日もハイムさんは作る羽目になったそうだ。
チラッと厨房を覗いた際、大量に作っていたけど…
あれはリナリアが食べる分じゃないよね?
聖女様にも好評で、美味しかったと手紙の返事が直ぐに来た。
チョ…違った、トニーにも食べさせたそうで私のところに来たトニーが私に擦り寄ってきたのが可愛かった。
立派な角があるので、頭でグリグリされなくて良かった。
「おーわり!じゃあ、先生のところに出してくるね!」
リオンはサッと立ち上がり、教室を出て行ってしまう。
私とセシルさんは互いに授業で書き写した羊皮紙を見ながら復習する事にした。
時折、羊皮紙を交換し…書き写しに漏れが無いか見させてもらう。
「さすが、リリアさんですね。私の方が漏れが多いです。」
セシルさんは羊皮紙を見比べながら、足りない部分を補足していく。
「もしかしたら、私が勝手に補足したとこかも。」
授業の合間に自分でメモもしていたから、そこの事かもしれない。
互いに意見を交換しながら羊皮紙を見比べていると、背後から影が伸びる。
リオンが戻ったのかと振り返れば、何故か仁王立ちした…令嬢?
「セシルさんは、どちらかしら?」
ふんっと偉そうに立つ令嬢…マリナ様に似ているが…?
髪の毛は真っ赤なのだが、服装は小物までピンク。
口紅も…ピンク。
全身が…どピンクの令嬢をセンターに後ろには控えめな二人の令嬢が立っていた。
「まあ、どちらでも宜しくてよ!そんな事より、セシルさんはジュード殿下がご婚約されてるのはご存知なのかしら?」
どっちもセシルさんじゃなかったらどうするのだろうか?
そんな疑問が浮かぶが…きっとセシルさんがまだ教室に残ってるって誰かに聞いたのだろう。
私とセシルさんは互いに顔を見合わせて、ピンクな令嬢に向き直り頷く。
「あら!ご存知なのにジュード殿下を誘惑なさっているのかしら?」
「え?誘惑!?」
セシルさんを見ればブンブンと音が鳴りそうな勢いで首を振っている。
そもそもクラスも違い、休み時間は私やリオンと居る事も多い。
いつ誘惑する暇があるのだろうか?
「まあ!自覚がありませんの?ジュード殿下が困ってらしてよ?」
「えっと…人違いとかではございませんか?」
セシルさんが困り顔で答えると、再びフンッと鼻息を荒くする。
「人違いではありませんわ!ジュード殿下が教室でいつも溜息混じりにセシルさんのお名前を呼ぶんですのよ?」
「話しかけても上の空なのですわ!」
「クリスティア家のご令嬢とご婚約成されていますのに…同じクラスにいらっしゃいますでしょ?」
ご令嬢方は次々に話し始めるが…最後のが引っかかる。
「同じクラスに…?」
私が訝しげに答えれば、口々に「まあ!!」と言い出す。
「ご存知ありませんの!?クリスティア家のご令嬢、リリア様の事ですわ!」
「ジュード殿下とご婚約成されていらっしゃるでしょ?」
「ご身分も申し分なく成績も優秀なのだとか…ちょっと人を下に見てるそうですわ!」
さっきから、最後のご令嬢が私に対して失礼なんだけど?
顔を見ようとすれば、何故かスッと引っ込むのよね。
「……ジュード殿下のご婚約者はリナリア・クリスティアでは無くて?」
ジュード殿下とは同じ歳なので、婚約してるのが妹では無く私だと間違えられる事も何度かあったが…
未だに間違われてる事にウンザリする。
「まあ!違いましてよ!ジュード殿下ご本人が特進クラスにいらっしゃるとおっしゃってましたもの!」
「そうですわ!それに貴女、失礼じゃ無くて?」
「そうですわ!呼び捨てになさるなんて!相手は公爵家なのですよ?」
三人のご令嬢の勢いにセシルさんが少しずつ後退る。
代わりに私が前に出れば、令嬢は一歩後ろへと下がった。
「……勿論、存じてます。本人ですから…。」
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一部、気に入らなくて書き直してたら遅くなりました。
すみません。




