閑話 勿論、美味しく頂きます①
この一年で…クリスティア家の中では、私の趣味がお菓子作りという事になっている。
それというのも、お母様宛の日記に度々出したお菓子の記録のせいだろう。
日記に書ける事が限られるので仕方なかったと言える。
無論、私はお菓子以外にも料理はしていた。
聖女様への貢物もあったからだ。
だが…7歳児が料理長に指導しながら料理するなどという事を言える訳もなく。
お嬢ちゃんな私はお菓子作りという可愛らしい?趣味を持っている事にしたのだ。
普通ならば…刺繍とか、乗馬とかあっただろうに。
あっ!因みに乗馬は練習中です。
まだ小さくて上手く乗れないけども、もっと成長したら一人で乗りたいと思ってます。
そんな訳で、厨房でお菓子作りはここ別邸でも公認なのです!
大量のリンゴを持ち戻った日から数日が経った週末。
私はアップルパイを作るべく厨房に立っていた。
「リリア先生、今日は何を作ってくれるんですか?」
お揃いのエプロンを着けたリオンが私へと質問してくる。
先生って…!?
「今日はアップルパイを作ります。」
「アップルパイ?」
料理人達の休憩中を狙い、静かな厨房をお借りしている。
オーブンを使う時だけは声をかけるように言われている。
子供だけでは危ないからと、侍女のマリーとアリーが傍で見てくれている。
時間のかかるパイ生地だけは昨日のうちに作って冷蔵庫に用意しておいた。
小麦粉にバターたっぷりのパイ生地は寝かしたり、捏ねたりを繰り返すので時間がかかる。
学園から戻り支度を整えてから厨房の端でコツコツ作っておいたのだ。
なので、今日はリンゴからです!
リンゴは綺麗に皮を剥いて小さめにカットします。
皮と一緒に煮れば綺麗なピンク色になるけど、今回はそんなに凝るつもりもないので皮は捨ててしまう。
鍋にカットしたリンゴと砂糖とバターとレモン汁を入れて時折、木べらで混ぜながらコンポートを作る。
味見をすれば甘酸っぱいリンゴが美味しかった。
私が味見をしてると、隣のリオンもスプーンで掬ってパクリと食べた。
熱々だから、はふはふっと言いながらも「美味しい!」と感激していたのが可愛かった。
バットに広げて冷ましておく間に、今度はカスタードクリームを作る。
卵黄と牛乳と砂糖と小麦粉…あとはバニラビーンズ!
ボウルに入れた卵黄と砂糖をしっかりと混ぜ、小麦粉を入れてサッと混ぜる。
鍋に牛乳とバニラビーンズを鞘から扱き入れて一緒に温め、それを先程のボウルに少量ずつ入れながら混ぜて鍋へと移す。
鍋は中火にかけ、木べらで絶えず混ぜながらとろみをつけていく。
沸々と焦がさないように混ぜれば、トロトロのカスタードクリームの出来上がりだ。
我慢出来ずに熱々をスプーンで掬って…パクリッ!
熱いけど…蕩ける甘さに思わず天を仰ぐ。
横にいたリオンも我慢出来ずに、パクリッ!
「熱っ!!あ、でも…とろあま〜。」
頬に手を当て、リオンも天を仰いだ。
もう…このままでも良いのかもしれない。
いや!いけない!アップルパイにしなくては!!
冷蔵庫からパイ生地を取り出し、麺棒で伸ばす。
今回はお一人様サイズで作ろうと思うので、幾つもの長方形に切っていく。
二つを対にし、片方には横に五つほどの切れ目を入れる。
切れ目のない方にカスタードクリームとリンゴを並べて、切れ目の入った生地を上に重ねる。
フォークで四隅を押して閉じ、表面には卵黄を塗る。
料理長のハイムさんを呼び、オーブンに入れるのを手伝ってもらえば焼き上がりを待つだけだ。
残ったコンポートとカスタードクリームは、どうしようか?
昼食の残ったパンを見つけたので、表面を軽く炙って乗せてみる。
あっ!これ、絶対に美味しいやつだ…
リオンとハイムさんと、見守っていた侍女のマリーとアリーにも一つずつ作って渡す。
今日の主役のアップルパイも渡す予定だが、その前に味見という事で!
「プリンのような甘いクリームですね、とても美味しいです!」
マリーとアリーは互いに顔を見合わせながら、嬉しそうに頬張っている。
ハイムさんは険しい顔をしながら食べていたので、後ほどレシピをお渡しすると話せば凄い勢いで頭を下げられた。
「パンにも合うー!このクリーム大好き!!」
リオンはパンにたっぷりとクリームを乗せて、嬉しそうに食べていた。
プリン好きなお兄様もきっと同じ反応をするだろう。
多めに作ったので、残ったコンポートとカスタードクリームは煮沸消毒したガラス瓶へと移しておく。
明日の朝食に出してもらうようにハイムさんにお願いすれば、了承してくれた。
片付けを終えた頃にオーブンではアップルパイが焼き上がった。
厨房に漂う甘酸っぱくて香ばしい香り…
「さぁ、外はサクッとホロホロ…中はトロッと甘いアップルパイの完成です!」
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