壊れた物
昼食のためにダイニングへと行ったが、お兄様は私室で食べるからと断ったらしい。
とてもショックを受けていたお兄様が心配になる。
そもそも、何故リナリアはお兄様の部屋に勝手に入ったのか…
以前居た侍女長が原因でお兄様はリナリアをあまり良く思っていなかったそうで、お兄様は一緒に住むリナリアよりも私達のことをいつも気にしていたようだ。
それをリナリアは面白く思っていなかった。
お兄様が私達のために何かを作ってることを知ったリナリアは、お兄様に見せるようにせがんでいたらしいが…
それがお兄様には煩わしかったようで、お兄様が邸にいる時は部屋にも入れさせなかったそうだ。
まさか…そこまで兄妹仲が悪化してると思わなかった。
私は厨房に行き、料理長のハイムさんにお願いして厨房を借りた。
横にはリオンもいるので、少し手伝ってもらう。
卵と牛乳と砂糖…少量のバニラビーンズでプリンを作ると、リオンには水魔法の応用で氷を作り出してもらいプリンを冷やす。
その間にフルーツを入れた紅茶を、氷たっぷりのピッチャーへと注ぐ。
リオンにトレイを一緒に持ってもらい、お兄様の部屋へと向かう。
料理長のハイムさんや、他の使用人も慌てて手伝おうとするが断った。
ーーーーーコンコンコンーーーーー
「誰?何の用?」
お兄様の私室をノックすれば…お兄様には珍しく、とても不機嫌な声が返ってきた。
「リオンとリリアです。お兄様と一緒にお茶にしようと思って…」
リオンが声をかけると、中でゴソゴソと音がする。
暫くしてお兄様が部屋を開けた。
「…あれ?二人だけ?」
侍女達も一緒だと思っていたのか、キョロキョロしていた。
「私達だけです。宜しいですか?」
リオンと共に持っているトレイを見せると慌てて扉を大きく開き、中へ入るように促してくれた。
「お兄様の元気がなかったので、厨房をお借りしてプリンと冷たい紅茶をご用意しました。」
お兄様が座る前に差し出すと目をキラキラさせて紅茶とプリンを見つめていた。
顔を上げ私とリオンを見ると、すぐにしょんぼりしてしまう。
「とりあえず、頂きながら話しませんか?」
私はお兄様とリオンに食べるように促すと二人はスプーンを持ち食べ始めた。
今日も変わらず滑らかなプリンは口溶けが良く、冷えたフルーツティーも爽やかでほんのりと甘い。
お兄様も暫く食べると、口を開いた。
「昨年の二人の誕生日の時に僕のスキルの話をしただろう?そのスキルで二人のために作っていたんだけど…ね。」
私達の特殊スキルの話をした時に、確かにお兄様の特殊スキルを聞いたのは覚えていた。
ーーーーー僕の特殊スキルはリリア達が来年、学園に入学するまでに見せれるようにしておくから楽しみにしていてよ!
そうだ、私達の初等部の入学までにって…
だけど領地から来たのが昨日の夕方だったから、きっと今日にでも見せようと思っていてくれたのかもしれない。
「ごめんね…完成していたのに、見せる事が出来なくて。」
お兄様は唇を噛み締めた。
悔しそうな悲しそうな顔のお兄様に胸がチクンと痛む。
約一年かけて私達のために作ってくれた物が壊れてしまったのだ…
だが…
私はリオンを見ると、リオンも私を見ていた。
顔を見合わせて頷くと、お兄様に声をかける。
「壊れてしまった物を見せて頂けませんか?」
お兄様は私とリオンを見ると…困惑しながらも持ってきてくれた。
「私達の特殊スキルで、もしかしたら治せるかもしれません。…試してみても宜しいですか?」
お兄様は目をパシパシと瞬かせる。
呆然としていたが、ハッと気づき私達に手渡した。
「細かい部品も全て乗せてあるから…」
「「お預かりします。」」
お兄様は少し期待に満ちた目で私達を見ている。
壊れてしまった物をテーブルに置くと、上手くいくように祈りながら…
私とリオンは手を繋ぎ反対の手を壊れた物に翳す。
「「ーーーー復元と再生をーーー」」
冥府の神の加護の光に辺り一面が煌めく。
一際、強く光ると壊れていた物を包み込み吸い込まれるように消えていく。
そこに現れたのは…
………これはタイプライター?
スーパーのレジのような見た目の…タイプライターだろうか?
「…………え!?えっ?えええぇぇぇぇ!?」
再びお兄様の叫び声が邸中に響き渡ったのだった。
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今日も遅くなり、すみません。




