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たぶん...悪役令嬢だと思います  作者: 神楽 紫苑
第1章 私リリア!7歳になるの。
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幕間 甘くて苦い?生チョコレートタルト

ーーーー二月…

それは恋の季節。


「恋に恋するお年頃。こんにちは、リリア・クリスティアです。」


「恋とはなぁに?…こんにちは、リオン・クリスティアです。」


厨房の端でチョコレートを湯煎で溶かしながら…

私は誰もいない方を向き、アナウンサー風に挨拶をしてみたのだが…

なぜか、隣に現れたリオンも挨拶をしていた。


…恥ずかし過ぎる。



赤面しつつも何事も無かったかのようにチョコレートを溶かす。

そう…何も無いところで転んだしまった後のように…



「ねえ、恋に恋するって…リリアは恋してるの?」

リオンが向かい側へと移動し、私の顔を下から覗き込む。

相変わらずの、あざと可愛さだ。


「女の子は常に恋をしてるのです!」

中身は女の子って歳でも無いけどなっ!

無い胸を張りながら答えると、リオンはむうっと膨れた。


「リリアは誰に恋してるのさ!…上手くいっちゃったらボクと遊べないじゃん!!」

なんだ…この可愛い理由は…鼻血を出すまいと口元をハンカチで覆った。


「…恋してないよ。」

ハンカチで覆っているので小さい声になってしまった。


「え?してないの?」

「うん、だからリオンと遊べるよ?それに…恋しててもリオンとは遊ぶよ?」

そもそも恋しても盲目になりたく無いし、そもそもリオンは特別枠だしね。


「じゃあ何してるの?」

リオンは私が何かを作っているのは、恋した相手に渡すためだと思っていたらしい。

違うのだよ…リオン君!


「これはバレンタインデーのチョコなのです。」

ふふんと再び無い胸を張ってみた。

その内には出てくるだろう…きっと。


「「「バレンタインデー?」」」

コテンと首を傾げるリオンの横には、いつの間にかアレスとバルトさんもいた。

生えた…いや、増えた。


「前の世界には異性にチョコを贈り、愛を告白する日があったのです!」

「「「愛の告白!?」」」

私の方が吃驚するほどの声で、3人は叫んだ。


「元々はそういう日だったけど、いつしか友人や家族などの大切な人に贈る事も増えて…

更には職場の上司などにも義理で贈るという恐ろしい日になったのだよ。」

男性の多い職場だと、それはもう大変だった。

チョコレート菓子を作るのは好きだったから、家族や友人には手作りもしていた。


「因みに1ヶ月後にはホワイトデーという、貰った人が返す日もありました。」

人差し指を立てて説明すると3人は更に首を傾げていた。


「と、まあ…要はイベントです。」

そう、人にプレゼントするっていうイベントだと思えばね。


「じゃあ、リリアは愛の告白はしないの?」

「しないよ!いないじゃん相手!」

リオンは良かったと微笑み…なぜかアレスは少しがっかりしていた。


「ん?もちろん、二人の分も作るから安心してね。」

私は楽しみにしててね!と微笑む。


「うん!」

「…うん…。」

若干、アレスの元気が無いようだった。



「ところでリリア様は何を作っているんです?」

バルトはバレンタインデーよりも、手元のチョコレート菓子の方が興味があるようだ。

私は溶かし終わったチョコレートに温めた生クリームを足しながらバルトさんへと説明を始める。


「今回は生チョコレートタルトにしました。」

「…生?」

ん?そこに食いつくのか?


「そうです、今まさに生の部分…生クリームを入れてます。」

「ああ!その生でしたか。」

あれか?生焼けとかそういう感じに勘違いしたのかな?


「タルトって何?」

今度はリオンから質問がくる。

私は既に焼き終え、冷ましていたタルトを持ってきた。


「これがタルトです。クッキーのような…焼き菓子…かな?」

タルトって何と言われると説明しにくいな…

少し歪なタルトを3つに割って3人に渡す。


サクサクと音が聞こえてきて、とても美味しそうだ。

リオンは口に含むと「んーーーーーー!?」と感激していた。

それにしても…何故にクッキーやフィナンシェなどの焼き菓子があるのにタルトは無いんだ!

器として使うなんて考えられないってことか?


「これが…タルトですか。先ほど作っていたところを見逃したので、またレシピを教えていただけないでしょうか?」

バルトさんは作っている時に手が空かず見られなかった事を、それはもうこの世の終わりのような顔で悔しがっていた。

「今度はバルトさんが手が空いてる時に作りますね!次はチーズケーキが食べたいのです!」

さり気なく…自分が食べたい物を作る口実を考える私。


「チーズケーキ!ボクも食べたいー。」

リオンは目をキラキラさせながら私を見た。

「もちろん!みんなで食べようね。」

「「うん!」」

リオンとアレスが元気よく頷く…

時々、アレスが年よりも幼く感じる。


私はチョコレートをタルト生地に流し入れ、その上にナッツやドライフルーツをちょこっとずつ盛り付ける。

更に茶こしにココアを入れ、上からチョコの部分にパラパラとかければ完成だ!


「あとは、冷やしてラッピングしてから渡します!」

バットに並べて冷蔵庫へと隠しに行く。

「あぁ…」

名残惜しそうに私を見送ったリオン…とアレス。


私は片付けのために戻ると、ボールにはまだチョコレートが残っていた。

バルトさんにお願いして、小さいバットを借りるとココアを塗す。

チョコレート生地を余す所なく全て注ぎ、更に上からココアパウダーをかけた。

そして再び冷蔵庫に入れる。

あれは…私のおやつにしよう。


ふふふっと笑いながら洗い物を済ますと、リオンとアレスは冷蔵庫を覗いていた。



ーーーーー二月十四日ーーー


夕食の前に厨房へと寄り、私は冷蔵庫からチョコレートタルトを取り出した。

「うん!綺麗に出来てる。」

バルトさんにお願いし、食後に出してもらうように段取りする。


食事を終え、デザートが配膳されたところで私は家族に声をかける。

「前の世界のイベントで、今日はバレンタインデーです。」

昨日、リオンとアレスに説明したような内容を祖父母にも説明した。


「私から大切な家族へのプレゼントです。どうぞ召し上がってください。」


皆んながチョコレートタルトを一口食べ始めるのを見てから、私も食べる。

焼き立てはサクサクだったタルトは少しだけ水分が含まれていてホロホロと崩れる。

中の生チョコレートも生クリームを少し多めにしたので、柔らかめだ。

口に含めば蕩けてしまう…

甘くて、苦くて…ナッツの食感もいい!


「美味しい…」

アレスがポロッと感想を述べたのをきっかけに家族はタルトの感想を述べ始めた。


「サクッとホロッとしてるのね、食べれば中のチョコレートはあっという間に蕩けてしまったわ。」

お祖母様は顔を綻ばせながら少しずつ味わうようにタルトを食べる。


「うむ、実に美味いな!」

お祖父様は…既にお皿にタルトは無かった。


「蕩ける〜…とっても美味しいね!」

リオンは頬に手を置き、美味しいのポーズをする。

安定の可愛さだ。



「リリアもいつかは恋人にチョコレートをあげる日が来るのかしらね?」

チョコレート食べ終え、お茶を飲んでいるとお祖母様がそんな事を言い出したので…私は飲んでいたお茶を吹き出しそうになった。

危ないところだった…

すると、向かいの席のアレスがゴホゴホと咳き込んでいる。


「あら?」

お祖母様は嬉しそうにアレスへと微笑んだ。

アレスは赤面しながら「なんでも無いです。」と首を振っている。

「ふふっ、リリアも罪作りな女の子になるのかしら?」

更にお祖母様が笑みを深めたが…私はよく分からずに首を傾げたのだった。



ーーー後日。

コッソリと厨房に行き、冷蔵庫から小さなバットを取り出す私。

中を覗けば生チョコレートが出来上がっていた。

包丁で賽の目に切り、ココアパウダーをしっかりと塗す。


一つ摘むと口の中でじんわりと蕩け出した。

ほう…美味い…


「ボクにも頂戴!」

「僕も欲しい…!」

突如として作業台の向かいに現れるリオンとアレスに驚いて、ココアで咽せた。


私のおやつ…と思いながら差し出す。

「では、私達も!」と私の背後から手が伸びてきたので更に吃驚する。

いつの間にか背後には祖父母とバルトさんがいた。

心臓が止まる程に驚いていると…目の前の生チョコレートはあっという間に数が減っていった。


「私のおやつだったのに…。」



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