幕間 アレス・ハインツ
アレス・ハインツ
聖女様に頂いた新しい名前だ。
僕は獣王国に生まれた白い虎の獣人で、父と母は魔物に襲われて亡くなった。
現在はオステリア王国のクリスティア領に暮らしている。
領地はとても美しい自然に囲まれ、街は活気で溢れていた。
僕を救ってくれたのは、元領主のリチャード様とアリア様だ。
そして…僕の心を取り戻してくれたのが彼らの可愛い孫のリオンとリリアだった。
僕たち獣人には“番“という概念がある。
誰しも必ず運命の“番“に出会えるわけではなくて、中には“番“と結婚出来なかった者もいるが…
その末路は悲惨なものだという。
父は母という“番“に出会い、王位継承権を放棄して平民になった。
「“番“に出会えば、それ以外の者など目にも入らない。」とはよく父が言っていた。
僕は他者よりも少しだけ成長が早かったのかもしれない。
普通ならば10歳を過ぎてから“番“を認識することが出来るのだが…僕は9歳でどうやら認識が出来てしまったらしい。
そう…リリアを“番“だと認識してしまったのだ。
それでなくともリリアは可愛くて、優しくて…思いやりのある可愛らしい女の子だ。
コロコロと変わる表情とか仕草とか、それを正そうとする姿勢とか…
獣人である僕に対しても偏見も何もなかった事に驚かされた。
“番“など関係なくても僕は恋に落ちていたと思う。
リリアと過ごす時間はとても居心地が良い反面、とてもドキドキさせられる。
鈍いリリアには気づかれてはいないが、リオンにはあっさりと見抜かれてしまった。
恐らく、リチャード様とアリア様にも気づかれていると思う。
リリアは僕が恋に落ちるくらいなのだから、きっとこの先は縁談も増えるだろう。
僕はリリアを誰にも渡したくは無くて…
リリアの祖父母へと相談する事にした。
「リチャード様、アリア様。少しお話を聞いていただけないでしょうか?」
「うむ、お祖父様で良いぞ?」
「そうね、お祖母様で良いわよ?」
リビングでお茶をしていたお二人に声をかければ、何故か呼び方を変えるように言われてしまった。
「えっと…では、お祖父様とお祖母様と呼ばさせて頂きます。」
「うむ!話とはなんだ?」
お祖父様は嬉しそうに微笑むと僕に席に着くように促した。
「僕はリリアが好きです!」
単刀直入に言う、まどろっこしいのは話がダラダラして良くないと思った。
「あら!あらあら、まあまあ!」
お祖母様は嬉しそうに微笑んだ。
「僕をリリアと婚約させて下さい!と言いたい所ですが、僕は平民です。どうしたらリリアの婚約者候補になれますか?」
リリアは公爵令嬢で、僕は獣王国の王族の血を引いてはいるが…平民にすぎない。
だが…誰かのものになるリリアを指を咥えて見てなどいられない。
「そうね…身分の壁がどうしても邪魔をするわね。」
先ほどまでは嬉しそうだったお祖母様も真面目な顔に戻る。
いずれリリアとリオンはこの領地を継ぐ…
その時に平民の婿を取るとなると納得しない者達が現れるのが目に見えて分かる。
「貴方がリリアに相応しい身分を手に入れる方法が無い訳ではないの…。だけど、それは茨の道…覚悟はあって?」
「勿論です!他の誰にもリリアを渡したくはないです。」
僕は力一杯に宣言すると、お祖母様は「昔のリチャードを思い出すわ。」と笑みを深めた。
「私の姉は隣の森を治める伯爵家を継いでいるの。」
お祖母様はご自身のお姉様の話をしてくれた。
お祖母様のご実家は伯爵家。
それを継いだのが長女であるお姉様だった。
だが、お姉様は結婚もせず子供も居ないという。
いずれは爵位を返上しようと思っているそうだ。
そこに僕が養子に入り、クリスティア家に婿入りすれば身分的には問題ないという。
僕に甘過ぎやしないかと思うほどの好条件だった。
因みに、その条件でいくと伯爵家が治めてる森もクリスティア家と合併する事になるという。
「まだ出会ったばかりの僕には好条件過ぎるのではないでしょうか。」
二人がどうして僕をここまで信用してくれるのか分からなかった。
「あら?甘くなくてよ?お姉様はきっと条件を出してくるわ。それに私達からも条件はあるの。」
お祖母様はお祖父様に目配せすると、話を続けた。
「まず、リリアは大切な私達の孫。貴方はリリアの心をしっかりと自分に向けなくてはダメよ?」
リリアの気持ちが他にあるのであれば、僕のこの話は無かった事になる。
確かにリリアの気持ちが一番大事だ。
「私からも出そうか。リリアを守れるくらい強くなって貰わないと困るからな!剣術と魔法をしっかり学びなさい。」
お祖父様からは毎朝の鍛錬に加え、定期的に試験すると言われた。
「そして、私達の条件とお姉様が貴方を養子にするまでの期限は貴方が中等部に入学する前までとする。」
お祖母様は真剣な顔をし、僕を見た。
期限は3年弱…その間にリリア達は初等部へ通う事にもなる。
その間で僕へと好意を向けさせなければならない。
「ね?決して楽な道では無いのよ。」
お祖母様もお祖父様も笑顔で話してくれる…
楽な道ではないけれど、それでも僕はやるだろうと。
「僕はどんな条件であっても、認めてもらえるように頑張ります。」
僕の言葉を聞いたお祖父様とお祖母様は満足そうに笑みを深めた。
「ならば、期限が来るまでは私がリリアに来た縁談を全て断っておくとしよう!」
お祖父様が宣言すると、お祖母様も笑い声を漏らしながら呟いた。
「ふふっ、困ったわね。どうやら私もリチャードも貴方の事が大好きみたい。」
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