幕間 家庭教師の
アレスが我が家に来て1ヶ月が経とうとしていたある日の事。
「今日からアレスに家庭教師兼執事見習いが来る。」
朝食を食べ終える頃にお祖父様が思い出したかのように話してくれた。
家庭教師と執事見習いが兼任…?
ハードだなと思ったが、私の侍女のマリーも似たようなものだった事を思い出した。
我が家の事情を広めない為に少数精鋭なのかもしれない。
午前のお茶の時間になると、お祖父様は一人の青年を連れてきました。
「初めまして、家庭教師のトレイルです。」
おぉっと?危ない…なんとも危険な名前ですな。
アレスが自己紹介をしようとすると、トレイルは手で制した。
「はい、従者に頭を下げてはダメです!あと私の事はトレイルとお呼びください。敬称はつけないように!そこんとこ踏まえて自己紹介をお願いします。」
ペラペラと噛まずに説明するトレイルに一瞬だけ呆けてしまいそうになる。
危ない!私も指摘されてしまう。
「アレス・ハインツだ、今日からよろしく頼む。」
アレスは胸を張り堂々とトレイルに話した。
トレイルを見れば「素晴らしい!」と言って笑顔になっていた。
「その調子で、ご自身に自信を持って下さいね。執事見習いと申しましても私はどちらかと言うと世話係だと思ってください。」
トラ…違った、トレイルは本当によく口が回るようだ。
見た感じとしてはスラッと背が高く茶色の髪に茶色の瞳で眼鏡をかけている。
この世界にはよくいる容姿だが…誰かに似ている?
私とリオンもトレイルに自己紹介をすると、トレイルさんは私の顔をジッと見つめてくる。
「ご主人様から伺っております、リリア様が新しい算術を見つけ出したお方ですね?」
「新しい…算術?」
はて?新しい算術とは何のことだろうか?
「来年から学園でも新しい算術は採用されるそうです。…おや、ピンときてませんか?」
おやおやと言いながらトレイルはお祖父様を見た。
するとお祖父様が思い出したかのように手を叩く。
「おぉ!リリアに話したつもりでいたが、話してなかったな。リリアの教えてくれた算術をリリアの名前で学会で発表したんだった!」
おいっ!そういう事はちゃんと話してくれないと困るよ。
しかも私が見つけたみたいに言わないでほしい…
前の世界のやり方だから、私の功績ではないのに…
と、小さな小さな声でブツブツと言ってしまった。
「いいのよ。この世界では貴女が初めに言い出したのだから!」
小さな呟きを聞いたお祖母様が私の耳元で囁いた。
悪魔の囁きのようだ…
「あれはとても分かりやすかった!」
トレイルは絶賛してくれているし、今後…誰かに突っ込まれたらその時に考える事にしよう。
「さて、アレス様は学園へは中等部から通われると伺ってます。そのつもりで初等部の内容を私が教えますね。」
「はい。」
アレスはお兄様と同じ9歳で、獣王国とは教育が全く違うという。
特に平民として暮らしていた事もあり、今から学園に入っても授業に追いつけないそうだ。
初等部は3年通うと1年間の休みが入り、12歳になる年の9月から中等部へと進学する。
因みに中等部も3年通って1年休んでから高等部となるが、高等部は2年しか通わないし希望者だけとなる。
「そうそう、初等部に通われるお二人にはご主人様からの指示で進学テストを受ける準備をしていただきます。」
「進学テスト?」
ほっといても貴族なら誰でも入れる学園だが、学園に入る際に希望者は進学テストを受けて上位に入ると特進クラスとなる。
因みに進学テストは平民でも無料で受けられて、高得点だと特進クラスに入れる上に学費も負担してくれるそうだ。
「つまり…特進クラスを目指すのですね。」
「うむ、二人ならば問題ないだろう。」
お祖父様もお祖母様も頷く。
「二人の教育自体は今まで通りですが、進学テストの問題集だけは私が作成致します。」
トレイルはクイッと眼鏡を上げてレンズを光らせた。
おい…難問を作る気満々だな!
その仕草でふと…別邸のスティーブを思い出す。
容姿が似ている気がする。
「トレイルは、スティーブを知ってますか?」
気になったので聞いてみるとトレイルはニッコリと目を細めた。
「ええ、もちろん存じております。スティーブは私の兄にございます。」
「リリアお嬢様、トレイルは私の三番目の息子でございます。」
トレイルと共に執事のセバスチャンも一緒に説明してくれた。
「親子共々、宜しくお願いします。」
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