幸せを願ってもいいの?
別邸と似た作りの本邸にも、大きな広間がある。
別邸と同じで広間から庭に出ることも可能だ。
食事を終え広間へと入ると、すでにテーブルと椅子が並べられていた。
見た感じは結婚式場みたい…。
上座の奥に壇上があり、お祖父様とアレスが立った。
全員が着席し、扉が閉まるとお祖母様が防音の魔法をかける。
「皆に、新しい家族を紹介する。」
お祖父様がアレスの背を押し、前へと導く。
「アレス・ハインツです、よろしくお願いします。」
アレスは挨拶すると拍手が起こった。
「どうする?私から話すか?」
お祖父様が小声でアレスに問うと、アレスは首を振り自ら生い立ちを話し始めた。
「僕は獣王国で生まれた獣人です。現国王の弟だった父は王位継承権を破棄し平民と駆け落ちして、僕が生まれました。」
アレスは無表情で淡々と話す…どこか怖いと感じる。
「田舎で細々と暮らしてましたが、僕に王族の血が流れている為…いつしか命を狙われるようになりました。」
自分自身が狙われているというのにアレスの表情は変わらないままだ。
「王位継承権を持つ他の王族の刺客によって…僕の両親は、僕を庇い殺されました。」
両親が亡くなった話ですら…無表情のアレス…
無表情と言って良いのだろうか?
どこか無気力な気もする。
「僕は王位継承権を破棄しましたが成人するまで受理されないので、聖女様に頼み…そしてリチャード様に助けて頂きました。」
ことの成り行きを淡々と話し終えると、アレスの頭をお祖父様がポンポンと撫でた。
「アレスにはリオンやリリアと同じように接してもらいたい!…それから今聞いた事は他言無用で頼む!」
「「「「「「はい!」」」」」
お祖父様が箝口令を敷くと、全ての使用人が立ち上がり返事をする。
もちろん、私とリオン…お祖母様も返事をした。
「あら?リオンもリリアもどうしたの?」
返事の後にお祖母様が私たちの方を向くと、慌ててハンカチを出して顔を拭いてくれた。
拭いてもらった事で、私たちは泣いていることに気づいた。
「あらあら…止まらないようね?」
お祖母様が珍しくアワアワすると、お祖父様とアレスも壇上から下りて近寄ってくる。
それでも涙は止まらなかった。
両親を亡くしたアレスを見る…
無表情だったアレス…
普通に話す時もあまり表情が無かった。
「アレス…両親を亡くしたって…だから…」
なんて言っていいのか分からずに言葉が詰まる。
それなのにアレスは気にした風も無い。
「ああ…僕のせいで両親は死んだ。僕を庇って…僕なんか庇う必要もないのに…。」
「なんで…?なんでそんな事を言うの?」
私は理解出来ずに聞き返した。
「僕がいるせいで、二人は死んだんだよ?僕が死ねば良かったんだ!」
アレスは少しだけ感情を出して言った…
「なんでそんな事が言えるの?」
更に無表情だったアレスの顔が崩れ出す。
「アレスに生きて欲しくて庇ったんでしょ?」
アレスは眉間にシワを寄せ俯き…黙ってしまった。
「私は前世の終わりは事故で死んだの…」
アレスはバッと顔を上げ、目を見開いた。
「誰かのために死んだわけじゃない。でも、私は家族や大切な人には長く生きて幸せになってもらいたいって思うよ?」
「そんなの…」
アレスは言い返そうとしたけど…うまく言葉が出ないようだった。
「ねえ、アレスがご両親を想うように…ご両親もアレスを想ってるんじゃない?」
「だけど…」
アレスは再び俯いてしまった。
「残された方は遣る瀬無いよね。でもきっと…残す方も同じなんだよ。」
亡くなるって事は…残す方も残される方もきっと悲しいと思う。
だって、これからもずっと続く幸せが突然に失われたんだもん。
「大切な人を憂う気持ちは同じだよ。」
この先…きっと幸せに生きてと願ったに違いない。
「生かされたアレスは誰よりも幸せにならないといけないと思うのっ!」
私は両拳を握り、アレスに言うと…
アレスは戸惑った顔で私を見た。
「僕は生きていていいの?幸せを願っても…いいの?」
「「もちろんだよ!」」
私と一緒にリオンも声を張り上げた。
アレスは瞠目し、そしてフワッと優しい笑顔に変わり…
そして、涙が一粒こぼれ落ちる…
「…ありがとう…」
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更新が遅くなりました、すみません。




