歩き読書は禁止
聖女様から部屋を追い出された私は、馬車の待つ出口へと向かう。
渡された一冊…特殊スキルの本には何箇所かに紙が挟まっていた。
…そうか、付箋てないのか。
紙が挟まったページを開けば私とリオンの特殊スキルが書いてある。
「復元と…再生?」
冥府の神・ハデストラス様から授かった特殊スキル…
他のページもチラッと見たが、神様から授かる特殊スキルはどれも名称が短いようだ。
“復元“はその名の通り元に戻すスキル。
それは物体から記憶などの目に見えない物も含まれる。
記憶…だから私の前世の記憶が戻ったという事…?
次に“再生“は“復元“された物を動かす力…
元の形に戻した物を再び使えるようにする…とか、そんなニュアンスかな?
まだ書いてあるみたいだーーー
「リリア!」
更に読み進めようとした時、リオンの声に我に返った。
目の前には馬車の扉がっ!?
いけない、夢中になって読みすぎた。
「もう!ぶつかる所だったんだよ?」
ぷんぷんと怒るリオン。
何だろう…怒る姿も可愛いっ!
怒ってるリオンにごめんと謝れば、人差し指を立てて「今度からは歩き読書は禁止!」と注意されてしまった。
歩き読書って…
馬車に乗れば祖父母とアレスが一緒に座っていたので、向かい側にリオンと腰掛ける。
扉が閉まり暫くすれば馬車は動き出した。
「領地の邸に戻る前に、ティアのお店に寄っても大丈夫かしら?」
お祖母様は私達に確認を取ると、今度はアレスに話しかける。
「ティアは私の古くからの友人で裁縫師をしているの。貴方の服を用意させて頂戴。」
「…え?あっ…はい。」
アレスは戸惑いながらも返事をしていた。
馬車に乗ったというのに、アレスは変わらずフードを被ったままだった。
不思議に思い、ついつい見てしまう。
すると向かいのアレスが更に俯いてしまった…
「あの…あんまり見つめないで欲しいのだけど…」
「ごめんなさい!」
見つめすぎて嫌がられてしまった。
気まずくなって私も俯いてしまう。
「なあに?リリアはアレスが気になるの?」
お祖母様がどこか嬉しそうに微笑む。
「はい、なぜ顔を隠しているのかなって…凄く綺麗な瞳なのに。」
失礼だっただろうか?
だが、一緒に暮らすのに顔が分からないと困ると思ったり…
いや、私が見たいだけという事もあるのだけど。
「そうね、とても綺麗な瞳をしているわね。どうかしら…顔を見せるのは抵抗がある?」
お祖母様がアレスに優しく問いかけると、アレスは少し悩みながらもフードを上げてくれた。
光り輝くような美しい白い髪には所々ダークグレーのメッシュが入り、顔を覆うように少し長い。
美しく光る碧い瞳…鼻筋が通っていて、とても整った顔立ちだ。
クロード殿下やジュード殿下も美しいと思ったが…アレスは少し野性味はあるが、神秘的な美しさだった。
すると頭の上で何かがピクピク動いている事に気づく…
獣の耳…?
私やリオンがその耳に釘付けになっていると、アレスは両手で耳を隠す。
「リオン、リリア。アレスは獣王国の獣人だ。」
「そうなの…だから既存の服では対応できないと思ってティアのお店に寄ることにしたのよ。」
お祖父様とお祖母様が説明してくれて、私もリオンも頷く。
「あの…気持ち悪くない?」
アレスは恐る恐る耳から手を離すと、私とリオンを交互に見る。
私もリオンも何の事か分からずに首を傾げた。
「ふふっ!大丈夫よ、アレス。二人はそんな事は1ミリも気にしてないわ?」
「「ん?」」
更に分からずに首を傾げる。
ふと…お祖父様とアレスの間に尻尾も見えた。
もふもふの白い毛にダークグレーの虎縞だ。
「白虎…?」
いや、ホワイトタイガーかもしれない?
あれ?同じようなもんかな?
でも片方は四神だったか…確か異国の神獣的な…
「なぜ!?白虎だとわかる?」
小さく呟いた言葉がどうやらアレスの耳にも届いてしまったようだ。
「え?尻尾が虎縞で…色が白とダークグレーだし…?」
何でと言われても、同じ動物を絵などで見た事があっただけだ。
「そんな…そんな事で?」
「あっ!いえ、私だけかも知れないし!!リオン…リオンは分かった?」
アレスが信じられないくらいに動揺してしまったので、慌ててリオンに助けを求める。
「ううん?そもそも白虎が何かも分からないよ?」
リオンはコテンと首を傾げた。
祖父母にも目を向ければ…驚いてはいたがピンと来てないようだ。
「えーっと…」
私だけのようだが、何と説明しようか?
“前世の記憶“があるもんでって…ダメだよね?
うーん…と悩みながら、お祖父様の方を見ると…
お祖父様は私に向かって頷いた。
ーーーーーーえ?
頷いたって事は…え?
「アレスの事情に関しては帰ってからゆっくり話そうと思っているが、リオンやリリアの事情を先に話してしまおうか。」
すると、お祖母様が馬車内に防音の魔法をかけた。
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