閑話 リチャード・クリスティア
お祖父様のお話。
リチャード・クリスティア
私は“神に愛されし者“として、この世に生を受けた。
幼少期から幾度となく命を狙われ、その度に運よく生き延びてきたと言える。
私の前の“神に愛されし者“は私の父上だった。
父上からは毎日のように厳しく指導され、何度も逃げ出した事がある。
それでも命が狙われていると分かった頃には父上の言う事を聞き毎日鍛錬に励んだ。
「自分の身は自分で守れ!」
それが父上の口癖だった。
父上から領地を継ぐまでは騎士団へ入るように勧められた。
そこに行けば更なる鍛錬が出来、自分を…そして周りをも守れる力を手に入れられるからだ。
男ばかりの騎士団で毎日の鍛錬に励み、様々な場所へと討伐へ向かった。
騎士団の副団長に任命されて直ぐの頃に私は久しぶりに命の危険を感じる事となった。
魔の森と言われる樹海へ偵察に行った時の事だ。
そこで私はサラマンダーと対峙したのだ。
人間の何倍もある体は炎を纏った大きな蜥蜴、近づく事すら出来ずに手を拱いていた。
私と共に来た仲間は直ぐに逃げ出してしまい…残ったのは私だけだった。
騎士団と言っても貴族ばかりの集まりだ。
この国には魔物なんか滅多に出ないので、初めて対峙した巨大な魔物に驚いたのだろう。
そう言う私も、今までは雑魚と言っていい程の魔物にしか会った事はなかった。
一人でどうやって食い止めようか…
友人に作って貰った剣を握り直し、魔物へと近づく。
魔物も私の事を認識しており火を吐き出し威嚇する。
それを何とか避けながらも間合いを詰める。
剣に魔力を込めるが…いつもの魔力では太刀打ちできない。
ーーーーーー死を覚悟した。
命を狙われていた時よりも確実なる死。
“神に愛されし者“として家を…領地を継ぐ事を目標にしていた私は此処で終わるのだと思った。
それでも…
最後の瞬間まで精一杯に戦ってやろう!
再び手に魔力を込める。
すると手の甲が熱くなり、黄色く光った。
豊穣の神の加護が何故、このタイミングで力を貸すのか不思議だった。
不思議な事が更に起こった。
あたり一面の木々がサラマンダーを取り囲んでいる。
炎に焼かれる事なく蔓はサラマンダーへと絡んで縛り上げ、動きを止めていたのだ。
私は両手で剣を握り締め目の前のサラマンダーへと飛びかかると頭の上から渾身の力で剣を眉間へと突き刺した。
魔力を纏った剣は肥大し眉間から顎までを突き破る勢いで貫いた。
そしてサラマンダーに纏っていた炎が消え、大きな音を立てながら倒れたのだった。
サラマンダーを放置すれば他の魔物が寄ってくるかと思い、持ち帰ることにした。
自身の腕に魔力を纏わせサラマンダーの尻尾を持ち引きずって行く。
生まれて初めての出来事に頭が追いつかず…
城にどうやって帰ってきたのかも覚えていなかった。
王城に着くと騎士団の団長が待ち構えており、私がサラマンダーを持ち帰った事に驚いていた。
どうやら他の騎士からは死んだと思われていたらしい。
それから数日…気づけば私は伝説と呼ばれるようになっていた。
巨大なサラマンダーを一人で退治し、しかもお持ち帰りしたのだ。
その噂を聞いた貴族女性からの縁談は日毎に増えていった。
公爵家の長男として生まれていたのに私は婚約者を持つ事を拒んでいた。
私は私が愛する女性との結婚を望んでいた。
貴族ならば政略結婚をと言われていたが、私は自分の大切な領地を自分の大切な者と守っていきたかった。
ある日、魔術師のローブを纏った女性が騎士団の私の部屋へと訪ねてきた。
魔法省に凄い魔術師がいるのは知っていた。
変わり者の女性で、彼女に敵う魔術師はいないと言われていた。
そんな彼女は私がサラマンダーを持ち帰ったと聞き、素材欲しさに私の元へとやってきたと言う。
青みがかった美しい白銀の髪に海のような綺麗な青い瞳の女性だった。
ーーーーーアリア・ペチェリーヌ伯爵令嬢
私は一目で恋に落ちた。
彼女と結婚したい…彼女と共に生きたいと思った。
「アリア嬢、私と結婚してください。」
その場で直ぐに求婚していた。
彼女は吃驚したが、直ぐに笑みを浮かべた。
「では、私に勝てたら結婚いたしましょう。」
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