庭園と気まずい空気
「さて、婚約の儀を行う。同席者は私とキャサリンとジュード、公爵家からはクリスティア夫妻とリナリア嬢だ。」
陛下は私たちを一瞥し婚約の儀を始める事を宣言すると、お兄様とリオンと私は再び陛下へと頭を下げ退室した。
扉の外へと出ると暫くしてクロード殿下も出てきた。
だが…どこか上の空だ。
「クロード殿下、私たちは庭園の方で待たせてもらって宜しいですか?」
お兄様がクロード殿下に声をかけると、バッと顔を上げ首を振った。
「悪い、ぼーっとしていた。庭園だな…案内するよ」
先ほどとは違いお兄様とクロード殿下は話しながら歩みを進める。
その後ろを私とリオンが付いていく。
お城を見たのは初めてで、思わず周りをキョロキョロとしてしまう。
リオンも同じようにキョロキョロとしていて、私と目があった。
互いにキョロキョロし過ぎたと気づき背筋を伸ばして前を向くと、それを見ていたクロード殿下とお兄様がクスクスと笑っていた。
恥ずかしくなって顔に熱が篭る。
顔を隠すように忍ばせていた扇子を取り出した。
すると更にクスッと笑い声が聞こえる…恥ずかしすぎる。
暫くすると広い中庭に着いた。
庭には色とりどりの花が咲き乱れており、風に乗って良い香りがする。
所々にベンチやテーブルが置いてあって、庭園を眺めることが出来るようだ。
その一つに腰かけるとクロード殿下は私とリオンに話しかける。
「“神に愛されし者“とは何だい?」
何…と聞かれても答えて良いものか悩む。
人に知られれば危険だと言われているが、相手は王族だ。
それに陛下は既に知っている…
返答に悩んでいるとお兄様が私達の代わりに答えてくれた。
「“神に愛されし者“に関しては僕たちの口からはお話しできません。」
「リーマス…どうしてだい?」
クロード殿下はお兄様に詰め寄る。
顔は和かなのにどこか笑顔が怖い気がする。
「僕たちが軽々しく口に出して良い話ではないのです。知りたければ陛下にお尋ねください。」
お兄様はいつになく丁寧に断っていた。
そんなお兄様の言葉をクロード殿下は面白くなさそうに「ふーん」と返す。
何だか気まずい…
折角の綺麗な庭園で、空気も綺麗な気がしていたのに…重苦しく感じる。
それから暫くは誰も言葉を発せず…
沈黙が続いた。
すると草を踏む音が聞こえ、誰かが此方に向かってくるのが見える。
真っ赤な…そう真っ赤な彼女だ。
誕生日パーティーに乱入したマリナ・キャロリーヌ男爵令嬢が私達の前へと歩み寄ってきた。
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