後継問題は良好?
「さて、食後はリュークの書斎でお茶としよう。」
食事を終えるとお祖父様が家族だけをお父様の書斎へ集まるように声をかけた。
リナリアは電池切れを起こしたらしく、サリーが私室へと運んで行った。
家族が揃うと、お祖母様は部屋に防音の魔法をかける。
ここからは重要が話があるのか、皆が少し緊張した顔をしていた。
「まず、明日の事だが…聖女殿と予定があるので陛下と挨拶を済ませたら私とアリアは教会へ移動する事になる。」
「かしこまりました。聖女様からとなると陛下もご存知かもしれません。」
お祖父様とお父様が明日の登城について話す。
聖女様に関してはどの国でも最優先されると聞いた事がある。
「さて本題に入ろうか。アリア、リオンとリリアのステータスボードの写しを出してくれ。」
すると、お祖母様が羊皮紙を二枚出し魔力を込める。
それをお父様に手渡した。
「特殊スキルが2つずつ…」
お父様は私達のステータスボードの写しを見終わると目を見開き呟いた。
それを聞きお母様とお兄様も写しを見る。
そして目を見開いていた。
「特殊スキルの“再生“と“復元“は一人では発動しないスキルだそうだ。」
「一人では発動しない?」
お父様はお祖父様の言葉を繰り返す…それほどに驚いているらしい。
「神の加護で授かったスキルで、二人で発動させるスキルだそうだ。」
お祖父様は聖女様から説明された内容を両親に伝えると、今度は神について話し始める。
両親とお兄様はそれを黙って聞いていた。
“神に愛されし者“として神から加護を授かった事。
複数の神から加護を授かっていて、その神様の話を終えると部屋は吃驚するほど静かになった。
私とリオンは沈黙に耐えられず、キョロキョロとし始め…お祖母様に頭を撫でられた。
お父様はとても思いつめた顔になり、私とリオンの前にくると目線を合わせるために膝をついた。
私とリオンも緊張し、顔が強張る。
「“神に愛されし者“について話は聞いたかい?」
お父様が言う話とは…どこまでの話だろう?
私とリオンは互いに顔を見合わせ、お祖母様に聞いた事を伝えた。
それを聞いたお父様は頷くとお祖父様の顔を一度見てから再び私達を見つめる。
「“神に愛されし者“は領地を安寧に導く故に、我が公爵家では“神に愛されし者“が領地を継ぐ事となっている。」
「「…え?」」
この世界では家や領地を継ぐのは長男だとされている。
男の子が生まれない家では長女が婿を取ったり、子が居なければ養子を取る。
我が公爵家には長男であるお兄様がいるから、てっきりお兄様が継ぐのだと考えていた。
「まだ先の話だが、リオンとリリアは二人で領地を継ぐ事になる。
これはリーマスも理解し納得している事だ。」
お父様の言葉に私とリオンは驚き、お兄様を見る。
お兄様は私達に近づくとフワッと微笑んだ。
「お祖父様にも宣言したのだけど、僕は公爵家を継ぎ導いていこうと思っている。
そして、リオンとリリアには領地を継いで導いていってもらいたいんだ。」
お兄様の強い意志が感じられる瞳に私とリオンは顔を見合わせた後、力強く頷いた。
その様子を両親や祖父母は柔らかい笑顔で見ていた。
「聖女様も言っていたが、“神に愛されし者“が如何に危険かを話しておかなければな。」
お祖父様は部屋にいる家族全員を見渡した。
私とリオンだけでなく、家族全員が周知していなければいけないようだ。
「“神に愛されし者“は神の加護により、住む土地を安寧へと導くとされておる。
それ故に領地を継ぐのだが、それを面白くないと考える者も少なくない。
自身の領地に欲する者や、過去には公爵家内でも争いが起こった事もある。」
お祖父様はお兄様とリオン、そして私を見た。
先ほどお兄様は私達が継ぐ事を望んでくれたが、そんな事は珍しいのだ。
“神に愛されし者“が必ず長子で生まれてくるとは限らない。
争いが起こってもおかしくはないのだ。
さらに他家からは羨まれる事も多く、これからは縁談も増えてくると言う。
中には強硬手段として攫われたりする事も考えられる。
そして神の加護の種類によっては、利用目的も変わってくるそうだ。
だから聖女様は神の名を残すことはしなかった。
「私や先代もそうだが“神に愛されし者“は幼い頃より剣術や体術、魔法などを覚える必要がある。
それは自分の身を守るためだ。
最も、二人は私が幼かった頃よりも強く、日々真面目に鍛錬をしているがな。」
そう言ってお祖父様は私とリオンの頭をポンポンと撫でた。
私とリオンが何故、領地に住んでいるのか…
どうして毎日鍛錬するのか…
お祖父様の経験上、自分の身は自分で守れた方がいいのだと言う。
攫われた時に自力で逃げれるだけの力を…
いや、それ以前に攫われないようにと…
勉強もそうだ。
知識を増やす事で様々な危険を回避するのだと言う。
「遊びたい盛りだと言うのに勉強や鍛錬ばかりで辛いとは思うが…」
お祖父様は少し申し訳なさそうな顔をするから、私もリオンも首を振った。
「ボク、剣術も魔法も楽しいし好きだよ!それにお祖父様とお祖母様は領地の色々な所へ連れて行ってくれるから嬉しいよ!」
「私も色々と学ぶ事が大好きだよ!それは確実に私の知識になるのが分かるし、リオンも言ったけど領地の色々な所に行くのも好きだよ!だから…」
「「いつも、ありがとう」」
リオンと声を揃えて感謝の気持ちを伝えるとお祖父様とお祖母様は破顔した。
嬉しそうな笑みを浮かべて抱きしめてくれる。
その後では両親とお兄様も笑顔で私達を見つめていた。
いつもは離れているけれど、私達のことをちゃんと思っていてくれる…
今回、王都へと来て良かったと改めて思った。
そういえば…
ふと、お兄様の事が気になってお兄様を見つめ返す。
それに気づいたのか首を傾げて「どうしたの?」と声をかけられた。
「お兄様も特殊スキルをお持ちなのでしょうか?」
私やリオンの特殊スキルは珍しかった。
ならば兄であるお兄様も同じように珍しいスキルなのかもしれない。
「持っているけど…」
何か考えるようにしてお兄様は唸った。
そして何かを閃きポンと手を叩く。
「僕の特殊スキルはリリア達が来年、学園に入学するまでに見せれるようにしておくから楽しみにしていてよ!」
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