神の加護と特殊スキル
聖女様は基本的にはどの国にも属さない。
だが、“神に愛されし者“だけは特別なのだそうだ。
聖女様は羊皮紙にペンでリオンのステータスボードの内容を書いた。
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リオン・クリスティア 7歳
称号:“神に愛されし者“
オステリア王国 クリスティア領
特殊スキル:天使の微笑みLv.3/復元Lv.1
魔力1500/初級魔法Lv.7/剣術Lv.5
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「こんなところかね?」
聖女様は羊皮紙に魔法をかけ、私たちの前に置く。
見れば先ほどまでは確かに文字が書かれていたのに、跡形も無く消えている。
お祖母様が受け取り、魔力を流すと再び文字が浮かび上がった。
その不思議な光景に何度も瞬きをしてしまう。
見れば、リオンも同じ顔をしていた…
「家族以外には見せられないからね!次はお前さんのを書こうかね。」
そう言って新しい羊皮紙を取り出した。
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リリア・クリスティア
称号:“神に愛されし者“
オステリア王国 クリスティア領
特殊スキル:最後の采配Lv.1/再生Lv.1
魔力1500/初級魔法Lv.7/剣術Lv.5
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聖女様は再び羊皮紙に魔法をかけ、お祖母様が羊皮紙を受け取った。
「さて、此処には書かなかった神の加護から説明するよ。」
なぜ、羊皮紙に書かなかったのだろうか?
と…不思議に思い首を傾げる。
そんな私とリオンの頭をポンポンと撫でながら聖女様は説明を始めた。
「まず、神の名はどんな形にしろ痕跡を残すのは命に関わる程に危険な事だと覚えておきな?その危険性については後でお前たちの祖父母に聞くいい。」
聖女様の言葉に頷くと、聖女様はよしっと頷き返す。
「神の加護は全部で3つ!黄色が豊穣の神セレスト、次に緑が知恵の神ミネルクだ。」
そこで一旦区切ると聖女様の顔が険しくなった。
「最後の神だが…本来ならば加護など与えない筈なんだが…薄紫色が冥府の神ハデストラスだ。」
「…なんとっ!」
聖女様の言葉にお祖父様もお祖母様も吃驚し目を見開いた。
冥府って死者の国の神様って事か…
確かに何故…そんな神様が私たちに加護を与えてくれるのだろうか?
「特殊スキルが二つあるのはハデストラスの影響だな。リオンの復元とリリアの再生は単体では発動しない。」
聖女様はお祖母様から再び羊皮紙を受け取ると、ステータスボードの解説を始めた。
「二人にある特殊スキルはどちらもとても珍しい。
リオンの天使の微笑みは魅了に似てるが、それよりも強力だな。
リリアの最後の采配は過去に保持者が居なかったが、言葉の通り…選択に迫られた時に役立つスキルだよ。」
聖女様の声はとても穏やかで、気持ちいいくらいに心に響く。
説明がちゃんと頭に入ってきて、しっかりと理解する事が出来る不思議な声だった。
リオンのスキル… 天使の微笑みは魅了のように麻薬に酔う幻覚ではなく、心が洗われるように…多幸感を味わうような感覚になるそうだ。
周りを幸せにするスキルって良いよね。
私のスキル… 最後の采配は何かの選択に迫られた時に、良い方へ導いてくれる便利なスキルだ。
私が今後もし断罪されるような事が起これば、その時に助けてくれるスキルなのかも知れない。
それまでに少しでもレベルを上げておこうと思うが…
あれか?クイズでも答えればレベルがあがるのだろうか?
とりあえずは色々と試してみようと思う。
「あとは…神の加護についてか…冥府の神ってだけでも珍しいのに特殊スキルまで与えてくれるとはね。神だからといって、必ずスキルを与えてくれるわけじゃない…とても珍しい事なのさ。」
特殊スキルを持ってる人は殆どいないらしい。
持っている人で1つの人が多いのだとか…
ただ、稀に王族の方に3つ持つ人がいるらしい。
聖女様は王族では無いが、3つ所持していると話してくれた。
神の加護とは、ステータスとは関係なく…
纏うオーラのような物で、加護を受けた人間がその土地に住むだけで土地を安寧へと導くのだという。
そして私達のように稀にステータスにまで干渉する事があるのだとか。
「まあ、“神に愛されし者“に関しちゃリチャードが詳しいから…お前たちの祖父に聞くといい。」
聖女様は顎でクイッとお祖父様を指した。
お祖父様も同じ“神に愛されし者“…
私達の事を一番理解できるからだ。
「うむ、聖女殿。ありがとう…それにしても、私が幼い時に見てもらった以来だが変わらないのだな。」
お祖父様がお礼を言う…
ん?お祖父様が幼い時?
「そうさね、まだ40数年しか経ってないじゃないか。300年以上も生きてると、ついこの間みたいなもんさ」
「「300年!?」」
聖女様の横で私とリオンは驚いて声を上げてしまった。
本当に若さの秘訣があるのかもしれない…
「そうそう。リチャードとアリアに預かってもらいたい者がいるんだ。」
聖女様は何かを思い出したかのように手をポンッと叩いた。
お祖父様とお祖母様は顔を見合わせ頷くと、聖女様はにっこりと微笑んだ。
「明日には此処に到着し、私がステータスを確認する予定だ。ちょっと訳ありでね…明日の午後に此処に来れるかい?」
「あぁ、聖女様の頼みは断れないからな。」
お祖父様は困ったように微笑み頷いた。
「王都にはいつまで居るんだい?」
「明後日には発とうと思っているのだが…」
聖女様はうんうんと頷く。
「丁度良かった。では、明日…待っているから頼んだよ。」
聖女様の話が終わるとお祖父様とお祖母様はゆっくりと席を立ち、聖女様にお辞儀をする。
私とリオンも同じようにお辞儀をし部屋を出て行こうと扉まで来たが…
ふと気になることがあり、私は振り返った。
「ねえ、聖女様。この世界は聖女様の世界なの?」
聖女様は私の質問に一瞬だけ目を見開いたが、すぐに柔らかく微笑んだ。
「300年以上も生きてるが、そう感じた事は一度もなかったね。特になんの障害も無く聖女になったし…特に使命もなかったよ。」
もしかしたら、私が悪役令嬢になると言う世界では無くて他の人のための世界なのかもしれないと思ったのだが…
どうやら違うようだ。
しゅんと落ち込んでいると聖女様は私に近づいてきて頭を撫でると小さな碧い石が付いたネックレスを首にかける。
「この石に魔力を流せば私の使い魔が姿を表すから、手紙を託せば私も返事を書こう。ちゃんと魔法で見えなくするんだよ?」
「うん。…使い魔?」
優しく諭すように話しかけてくれる聖女様に嬉しくなって微笑みかけた…
「ああ、トナカイのトニー…」
「だから!それ以上はダメなやつ!!」
一瞬で笑顔がツッコミに変化したのだった。
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