夜会の裏側で(リナリア)
リナリアの番外編の続きです。
夜会の当日、クリスティア家のエントランスにワインバル王国の王家の紋章が入った馬車が停まる。
馬車から降り、リシェ様は私の方へ歩み寄るとスッと膝をつき私の手を取った。
「リナリア嬢、今夜はよろしくね。」
「はい!」
チュッと手の甲にキスを落とし、私を見上げるリシェ様に笑顔で返せば…リシェ様も嬉しそうに微笑む。
手を繋いだまま私を馬車へとエスコートすると、馬車の扉が閉まった。
「まだ成人していないのに、ごめんね?」
向かい合わせで座るリシェ様が眉を下げて困ったように笑うから、私はふるふると首を振った。
その様子に不思議そうな顔をするリシェ様に、今度は苦笑してしまう。
「私以外の誰かをエスコートするリシェ様を…想像するととても悲しいですから。」
婚約の儀を済ませていないので、リシェ様は他の令嬢と夜会に出ても問題はない。
成人してないからと…私以外の方と夜会に出席されたら落ち込むどころの話ではないのだ。
「リナリア嬢以外は誘わないよ?今までだって一人で出席してたしね。」
「………え?」
王太子なのに…そんな事は可能なのだろうか?と首を傾げると、リシェ様はギュッと私の両手を包み込む。
「リオンとリリア嬢の夜会だって、僕は一人だったでしょ?」
同じ邸に泊まっていたからかと思ったけど、そうではなかったらしい。
それが嬉しくて…思わず顔が綻びそうになる。
「これからはリナリア嬢がずっと僕の隣に居てね?」
私の気持ちを知ってか知らずか…リシェ様は嬉しそうに笑うとチュッと手の甲にキスを落とす。
…何度もしてるのに、リシェ様がすると恥ずかしいような嬉しいような…心がムズムズとしてしまう。
「もうすぐ、着くね…。」
少し名残惜しそうに馬車の外を見つめるリシェ様に、更に胸がキュッと締め付けられる。
素直に…好意を表現し過ぎではないでしょうか?
馬車が停車したのを確認し、リシェ様がスッと扉に移動しようと立ち上がった。
私は慌ててリシェ様の袖をキュッと掴み、引っ張る。
「ん?どうかし……っ!?」
引っ張った反動で私はチュッとリシェ様の頬へ口付けた。
軽いキスだったから、頬はほんのりピンクのリップが付着する。
自分の大胆な行動に…自分自身が恥ずかしくなって、慌ててリシェ様の頬へハンカチを当てると…リシェ様はハンカチを持つ私の手を捕らえた。
チュッ…と一瞬だけ唇が重なる。
「お返し…。」
フイッと顔を逸らし馬車を先に降りてしまうリシェ様。
私は自身の唇を指で触り…その熱を指先に感じて顔を綻ばせた。
「リナリア嬢、さあ!」
頬に赤みが残ったリシェ様が馬車に残った私に手を差し伸べる。
その手に自身の手を重ね…私達は賓客用控え室へと向かった。
夜会の会場へは、王族専用の扉から入るのだとリシェ様に説明を受けながら…。
先程の…キスの名残りがほんのりと残ったリシェ様の頬と唇に、そっとハンカチを近づけた。
「……申し訳ございません、私のリップが付着してしまったようです。」
ハンカチでソッと撫でると…リシェ様がボンっと顔を真っ赤にし、私を見つめる。
「ひ…控え室で確認するよ。」
そう言って、やんわりとハンカチを持った手を下げさせる。
私は誰かに見られたら恥ずかしいと…リシェ様に告げると、リシェ様は「もう少しだけ…余韻を。」と顔を真っ赤にしながら呟いた。
その言葉に私も釣られて頬が熱くなる。
控え室とは思えない程の豪華さと広さがある部屋へと通され、私たちは改めて身支度を整えた。
部屋の奥にある扉を出ると、直ぐに王族専用の夜会会場の扉がある。
隣の部屋にはエスティアトリオ王国の第一王子とそのお相手の方が、更に反対側にはジュード殿下と新しい婚約者の方が居るそうだ。
ソッと扉に近づくと、会場の方が少し騒がしい。
異変に気づいたリシェ様が、私を背に隠し…会場の扉を少しだけ開いた。
「………どう言う事だ?」
そう呟くと、お隣からエスティアトリオ王国の第一王子が顔を出す。
私が慌ててご挨拶すると「…本当にあの双子の妹なのか?」と首を傾げマジマジと見つめられる。
どういう意味で言われた言葉なのか若干不安に思いながらも、笑顔を崩さずにいれば「まともだ…。」と驚かれてしまった。
「面白そうだから、私は会場で様子を見てくる。」
私との挨拶を終えたネメアレオン殿下が、扉を少し開け…スルッと中に体を滑り込ませる。
そしてリオンお兄様に近づいていき、状況を聞いているようだ。
「……まさか、開幕宣言前に始まるとはね。」
背後からクロード殿下が呟き、その横にはジュード殿下も居る。
慌ててご挨拶をし、会場の様子を窺う。
「収拾が付かないようなら僕も会場へ行くけど…リナリア嬢は此処で待っていてね?」
私の肩を抱き、リシェ様は人差し指を立てて私に動かないようにと告げた。
暫くすると状況は一変し、お兄様とお姉様が断罪する場面へと変わる…。
リシェ様はギュッと私の肩を抱くと、ネメアレオン殿下同様に会場に入って行ってしまった。
リシェ様の背中を心配そうに見つめる私に、背後から声がかかる。
「こんな時に言う事じゃないけど…でも、これを逃すと…もう言える気がしないから言わせて欲しい。…リナリア嬢、婚約おめでとう!」
振り返れば、真剣な顔をしたジュード殿下が居て…言葉の最後にはフワッと優しく微笑む。
どこか昔の面影を残したその笑顔は…私が大好きだったジュード殿下を思い出させた。
でも…思い出すだけで、もうあの頃のように胸は高鳴る事はなかった。
あぁ、もう私は前に進めているのだと実感し…私も同じように微笑む。
「ジュード殿下、ありがとうございます。そして…ご婚約おめでとうございます。」
今までで一番の礼をすれば、ジュード殿下は嬉しそうに「ありがとう!」と返してくれた。
ブクマ・評価・感想・誤字報告ありがとうございます。
ごめんなさい、リナリアの話はまだ続きます。




