私の王子様(リナリア)
295話『父親の苦悩』より
リナリア視点の番外編です。
「私はリナリア嬢の事を心から愛しいと思っている…出来る事ならばリナリア嬢を私の妻にしたい。」
真剣な顔で話すリシェ様。
突然の出来事に驚きと…そして、その言葉に私の胸は高鳴った。
彼に初めて会ったのは私がジュード殿下と婚約を解消した日。
その人はとても……いや、第一印象は思い出さない方が良いみたい。
それから、何故か私の邸に滞在する事になったリシェ様。
リシェ様はとにかく明るくて、お話も楽しかった。
いつも私を笑わせてくれる人。
そんなリシェ様が事件に関与していたと聞いた時は驚いたけど…話を聞いてみたら、むしろ助けているようにしか思えなかった所はリシェ様らしい。
罪の告白と共にリシェ様の心の中に触れた時…少し胸が痛んだ。
いつも楽しそうだった方にも、辛く苦しいと感じる想いがあった事に私は自分に何か出来る事はないかと考えた。
お兄様やお姉様と違って、私に出来る事なんか微々たるもので…それでもリシェ様は私に笑顔を向けてくれた。
それが作られた笑顔じゃなくなってきた事に嬉しくて、気がつけば私も一緒に笑っていたの。
時折見せる情けない顔も、その後に見せる困った笑顔も。
私にだけ見せてくれてるみたいで嬉しかった。
いつからだったのだろう…リシェ様が私を見つめる瞳に熱を感じたのは。
…ううん、私がリシェ様を見つめていたのかも知れない。
次第に距離が近づいていった私達。
穏やかに笑うリシェ様に…いつしか私は、私だけを見て欲しいと思い始めた。
その度に思うのは自分の立場だった。
自国の第二王子と婚約を解消した私に対し、リシェ様は隣国の王太子殿下。
もっと相応しい相手がいる。
そう思う度に胸が苦しくなった。
また私は…叶わぬ恋をしてしまった。
私のお相手は…お父様が決める人。
そう思っていたのに……。
「前の婚約で、私はリナリアを気遣う事も出来ず傷つけてしまってね…その時に決めたんだよ。次に縁談が来た時は、リナリアの気持ちを一番に考える…と。」
お父様がリシェ様に告げた言葉に…私の目に涙が溢れそうになった。
…私の気持ちを優先してくれるの?
その言葉がどんなに嬉しかったか…私がお父様を見つめ返すと、お父様は目を細めて優しい顔をしていた。
お父様との話を終えたリシェ様が、私に跪いて手を差し伸べる姿に…私はどうしたら良いか分からなくてお姉様のドレスを掴んだ。
お姉様もお父様も…私に正直に話せば良いと言ってくれた。
そして…!
「無理矢理…結婚したい訳では無い。リナリア嬢には私と同じように私の事を好きになって貰いたいし、リナリア嬢の家族にも私達の結婚を祝福して貰いたい。私は王太子だが、リナリア嬢の前では一人の男として彼女を幸せにしたいんだ!」
お父様に問われた言葉に真剣な眼差しで答えたリシェ様に、私の気持ちは確かなものに変わった。
迷わない!
私はリシェ様と一緒に生きていきたい!
リシェ様の手はとても温かく…そして、緊張しているのが分かった。
力加減をどうしたら良いのか悩んでいるのか、時折…手を握り直している。
それがとても愛おしくて、ついつい顔が綻んでしまう。
リシェ様と二人、お父様の書斎を出て庭園に辿り着く。
ここは…アレス様がお姉様にアンクレットを贈った場所。
季節外れの薔薇が美しく咲き…その香りを風が運ぶ。
リシェ様が振り返り私を見つめた。
「リシェ様…私…。」
先程の言葉に、私が口を開くと…リシェ様は慌ててその口に人差し指を当てた。
「待って…僕からもう一度やり直させて?」
困ったように笑うリシェ様に、私は一つ頷く。
私が頷くのを確認したリシェ様は、私の手を取り…片膝をつくと私を見上げた。
「この庭園に咲き誇るどの花よりも美しいリナリア嬢…」
「あっ、そういうのいらないです。」
話の腰を折るのは宜しくないと思いはしたが、いつものリシェ様ではなく…初めてお会いした頃の他人行儀な感じがして気持ち悪…苦手に思いリシェ様の言葉を止めた。
止められると思っていなかったリシェ様は一瞬目を瞬くと、困ったように眉を下げる。
私よりも五歳も年上の男性に…私は申し訳なくも可愛いと思ってしまい、胸がきゅうっと締め付けられた。
「いつもの…普段通りのリシェ様が好きです。」
目の前のリシェ様が、どう切り出そうかと困惑しているのを見て…私は堪らず口を開く。
私の言葉にリシェ様が顔を上げ…理解が追いつかなかったのかポカンと呆け、そして目を見開いたかと思うと顔全体を…ううん、耳も首も手も…見えてるところ全てを真っ赤にさせた。
「あ…え…?え?えぇ?なっ…!?」
普段のリシェ様に戻ったのか、動揺し口をパクパクとさせている。
その姿が愛おしくて…私は思わず顔が綻ぶ。
「格好良いリシェ様は公務の時だけにして、私には素顔を見せて下さいませ。私にだけ見せる顔を…声を…仕草を…ちゃんと私の為に取っておいて下さい。」
「…リナリア嬢…。」
ニコッと微笑むとリシェ様は見開いていた目をゆっくりと細め…優しい笑みを浮かべる。
その笑顔が大好き。
私を呼ぶ声も好き。
いつの間にか隣に居てくれたのも、気遣ってくれる優しさも…私にくれる全ての言葉が優しさに溢れている事を…リシェ様は気づいているかしら?
私の言葉もそうでありたい。
「私の唯一の王子様になって下さいませ。」
ブクマ・評価・感想・誤字報告ありがとうございます。
本編完結から少しお休みしてましたが、リナリアの番外編をゆっくり更新します。
…この番外編も1話で終わらせようか悩みましたが、まだ続きます。
以前のように毎日更新とはいかないかも知れませんが、お付き合い下さい。
……完結したら、閲覧数が以前の10倍になってて驚きました。
ありがとうございます。




