事件が終わって
私達の意見…と言われましても。
…正直、凄く困るんですよね。
参考にするとは言われても…ねぇ。
と、リオンと顔を見合わせる事…数十秒。
このまま意見を言わないという選択肢は無い。
とりあえず、私達の意見の前に先程のロマネス殿下の様子をお伝えしてみた。
彼が自分の罪を理解していなかった事と、罪を軽んじていた事…そして幽閉される予定でいると思っている事を伝えた。
ちゃんと幽閉後に女性を連れ込んで悠々自適の生活を送ると言った言葉も忘れず全て話す。
…いや、全てでは無いな…私のアレは言わないでおいた。
話し終えると、ワインバル王国の国王陛下が頭を押さえて俯いてしまった。
…頭も痛くなるだろうよ。
それを踏まえ…私とリオンは自分達が想像した刑罰を一つずつ話す事にした。
「まず、本人が想像したように幽閉されるとします。ですが、餓死させる訳にもいかない為…食事や見張り等と言った経費が掛かりますよね?そのお金は国が持つとして…国民が収める税金から賄われます。それを国民は良く思わない筈です。」
先程の賠償もそうだが、小麦の収穫量の二割を取られた上に…原因となった人物を養う金まで払ってると分かれば暴動が起きそうだ。
「次に、廃嫡し平民に…もしくは国外追放となった場合です。その顔は全国民に知れ渡っており…ワインバル国内で暮らすとなると、やはり小麦の件で国民は彼を許すでしょうか?生活が苦しい平民にとって彼は自分達の首を絞めた人物。暴行や場合によっては殺され兼ねません。また、国外追放したとしてオステリア王国やエスティアトリオ王国でも同じような危険が伴います。もっと言えば王族だった彼に平民の生活は困難と言えるでしょう。」
廃嫡されたとして、彼は極刑を免れただけで…その後に待っているのは死に近い。
生きる術も助けもない世界で自力で生きていける者もいるが、恐らくロマネス殿下には難しいだろう。
「最後に…これが一番ロマネス殿下が生き残れる可能性が有り…エスティアトリオ王国に貢献出来ると思われるのが、ライル達と同じ炭鉱送りです。エスティアトリオ王国北部の炭鉱は全てが罪人と聞いた事がありますので、ワインバル王国の国民も納得する可能性は有ります。炭鉱でデカイ顔をしようにも、屈強で怖い人達ばかりな上、監視の目もありますから虐められはしても殺されるまでには至らないと思います。ライル達もそうですが、炭鉱へ行く前にワインバル王国とオステリア王国で知り得た情報を漏らさないという誓約はしておいた方が良いと思います。」
そう締め括ると、三国の国王は顔を見合わせる。
御三方で話し合った内容と差異は殆どなかったのだろう…互いに渋い顔をしながらも刑罰を決めたようだった。
「さて、これで事件の話は終わりとなるが…二人は何か欲しい物はあるか?」
オステリア王国の国王は私達を交互に見やり、問いかける。
…欲しい物。
あると言えばあるし…無いと言えば無い。
いや、無いな。
「リオンは何かある?」
「リリアは?」
隣のリオンにこっそりと聞くと、同じように返されてしまう。
つまり、リオンにもこれと言って無いのだろう。
「「………無いです。」」
タイミング良く出た言葉が重なり、それを聞いた国王陛下が瞠目している。
良く見ると、他の御二方も同じように瞠目していた。
「欲がないねぇ…。」
そう呟いたのは聖女様だった。
いや、欲はあるのだ。
それを手に入れる手段が褒美で無いだけで。
「「欲しい物は自分で手にするから価値があるんです!」」
呟いた聖女様にそう告げれば、愉快だと笑う聖女様。
それを聞いた国王陛下が更に問いかける。
「…では、欲しい物はあるのだな?」
「はい、早くて高等部卒業までに…遅くとも領地を継ぐ前までに更に上の爵位を手にしたいです。」
リオンが高らかと宣言したそれは…欲しい物ではなくて、決意表明のように聞こえた。
やはり彼も同じ事を望んでいたのかと嬉しくなった。
「何故、更に上の爵位を望む?」
国王陛下は口角を少し上げると、更に問いかけた。
それに対し、今度は私が答える。
「祖父が治めるクリスティア領は公爵位です。今暮らす領民の為に、私達が継ぐ時までに出来る限り近づけるようにと考えてます。」
クリスティア家は公爵家だが、現時点の私達が継げば伯爵位となる…領民の為に少しでも位を上げておきたいのだ。
「うむ、それは今回の件の褒美として侯爵位を与えるのではいけないのか?」
「「私達はまだ、その器ではございません。」」
楽しそうに問いかける国王陛下に私とリオンは首を振る。
高い地位はそれに伴い責任も重くなる。
私達には、分不相応だ。
「そうか…では、何か別の褒美を考えておく。」
そう締め括る国王陛下と、それに同意するように頷くエスティアトリオ王国の国王陛下とワインバル王国の国王陛下。
その様子に私もリオンも思わずキョトンとしてしまう。
……三ヶ国から貰うって事?
「良かったじゃないか、また聞かせとくれよ?…そうそう、リリア!お前に頼みがあるんだ。」
愉快そうにする聖女様は何かを思い出したように私に声をかける。
聖女様の頼み事と聞いた私は正気に戻って…眉を寄せた。
「あと十年位で聖女を引退するから、クリスティア領に私の終の住処を建てておくれよ!寝室は畳敷の和室が良いね…あと、場所はお前達の邸の横がいいな。いつでもリリアの料理が楽しめるからね!」
聖女様の言葉に、どこから突っ込めば良いのか分からない。
引退って…終の住処って…しかも和室?畳って…い草も見つかってないのに?
「十年位あれば出来るだろう?期待してるよ!」
「え?ちょっ…待っっ!?」
聖女様は満面の笑みで、私達に近づき…用は済んだだろ?と追い出そうとする。
反論する間もなく扉の外に追い出された私とリオンは互いに顔を見合わせた。
何事かと部屋の外で待っていたクロード殿下とネメアレオン殿下が私達の元へと駆け寄る。
「こんなのって!」
「本当、僕達って!」
そう言って私とリオンは吹き出した。
こんな終わり方って…と、我慢出来ずに笑い声を上げたのだった。
ブクマ・評価・感想・誤字報告ありがとうございました。
更新が遅くなってすみません。
そして長いです。
……ロマネス殿下の処遇に悩みに悩んで、一番生きれそうなのにしました。




