それぞれの罰
「三ヶ国間で話し合いをし、この事件の裁判は行わない事となった。」
エスティアトリオ王国の国王陛下は重い口を開く。
それは何となく想像していた事で、私もリオンも静かに頷く。
恐らく…裁判をしようとすると、どの国でどのように裁くのかで時間がかかる。
異例ではあるが、三国の国王が話し…決めるのが一番早く…揉めないのだろう。
エスティアトリオ王国への賠償の問題もあると思うしね。
「主犯のメイカー及びデッドは極刑、ライルとマッコリン家当主はエスティアトリオ王国の北部にある炭鉱送りとなる。」
既に決まっているらしく、国王陛下の手元に個々の刑罰が記された書面が並んでいる。
人が死んでいる訳ではないが、人身売買は人の尊厳を大いに傷つけるものとし…その罪は重い。
特にメイカー公爵とデッド商会長は獣人だけでなく、幼少の男児も売買していたのだ。
ライルとマッコリン子爵は二人共が炭鉱に送られ重労働を課せられる。
刑期は個々に設定されており、ライルは三十年でマッコリン子爵は十五年となっていた。
「次にジェシカ・チャミシルだが、彼女も同じくエスティアトリオ王国の北部にある修道院に行ってもらう…期限は区切らない。」
チャミシル様は修道院送り…軽いように思われるかもしれないが、“北部“と態々付けたのには理由がある。
北の修道院は他の修道院と違い、外界から隔離された極寒の地だ。
とても厳しい事でも有名で…しかも期限も区切られていない。
一生を監獄で暮らすのと何ら変わらないのだ。
「ハンザン・マッコリンは今回使用した薬剤の情報を全てエスティアトリオへ渡し、口外しないよう誓約の後…平民となる。」
話を交代したのか、オステリア王国の国王が話し始めた。
思っていた通り、ハンザン様は平民になるようだ。
「…既に、クリスティア領に行くと聞いたが?」
「「事実です!」」
苦笑しながら私達に問いかける国王陛下に、笑顔で頷く。
「チャミシル辺境伯だが、国防を担う為…彼には今後も国境を守ってもらう…が。」
国王陛下は何故かそこで言葉を止めてしまった。
続く言葉を待つ私達の表情を窺いながら国王陛下は続けた。
「その領地の約三割をエスティアトリオ王国への賠償金と併せて譲渡する。そして現当主が引退した後はチャミシル領はクリスティア領と合併し、権利は全てクリスティア家の物とする。」
……国王陛下がとんでもない事を言い出した。
数年…いや、数十年後にはクリスティア家の領地となる。
だが、チャミシル領はクリスティア領とは面していないので…管理するのはかなり大変だ。
「そして…ジュードは、王位継承権を剥奪する。更に廃嫡し…爵位も与えない予定であったが、バーバラ王女と婚約が決まった事で見直す事となった。」
そう言ってオステリア王国の国王陛下とエスティアトリオ王国の国王陛下が顔を見合わせる。
すると、国王陛下が話を続けた。
「譲渡する約三割のチャミシル領をジュードとバーバラ王女に治めてもらう。そして現チャミシル辺境伯引退後のチャミシル領の管理もジュードとバーバラ王女に行ってもらう事で両国間の関係をより強固なものにしようという事になった。」
…………なんだ、私達が管理する訳じゃないのね。
領地を分けはするが、ジュード殿下とバーバラ殿下が治め管理する事で両国の架け橋にしようという事かな?
国境だから、大半の所有権はオステリア王国のままにしたい…と言うところだろうか。
そして権利を私達が貰い受ければ角も立たないだろうって事?
褒賞も兼ねてるのかな?
「ワインバル王国からエスティアトリオ王国への賠償はメイカー公爵とデッド商会の財産の全ての譲渡、そして両国には今後十年間の関税の引き下げと小麦収穫量の一割ずつを譲渡する事になった。」
公爵家の財産は良いとして、関税と小麦…こちらはかなり痛手となるだろう。
期限が区切られているだけ良かったとしか言えない。
「最後に、ロマネス・ワインバルだが………。」
そこで一旦区切ると…深い溜め息の後、悩ましげな顔の国王陛下方が私達に顔を向ける。
「二人の意見を聞きたい。」
とんでもない事を言ってきた。
ブクマ・評価・感想・誤字報告ありがとうございます。
……犯罪者の刑罰と賠償にめちゃくちゃ悩んだ。
完結から長い事経過して読み返したらマッコリン子爵家には領地がない事に気づき一部内容を修正しました。
ジュードとバーバラが両国の架け橋になるように書き変えました。




