部屋で待つ方々。
「もう!あんな所を蹴っちゃダメって何度言ったら分かるのさ!」
先程までいた部屋に戻ろうと、歩みを進めると後方からリオンが走ってきて…怒られた。
リオンは私の歩みを止めると、すぐに私の足元に魔法をかけて浄化する。
そんな事をしていると、更に後ろからネメアレオン殿下が追いついてきた。
「おい、やるなら一言……待て…さっき其処の庭園で“潰す“って話してたよな?あれって…そういう意味だったのか?」
私の勝手な行動を咎めようとし、ふと横の庭園に目を向けると…怪訝な表情で私を見たネメアレオン殿下。
そんなネメアレオン殿下にコテンと首を傾げ…瞬きを繰り返す。
「お前…可愛い顔して、とんでもない事をするなよな…。」
はぁ…と溜息を吐くと、ネメアレオン殿下は私の頭をわしゃわしゃする。
それを見ていたリオンが、サッとネメアレオン殿下と私の間に入った。
「リリアに触れるのは止めた方が宜しいかと…後で…」
「後で?リリア嬢がやり返すのか?…ふっ、面白い。」
リオンの言葉に被るようにネメアレオン殿下が愉快そうに言い放つと、リオンは首を振って否定する。
「いえ、後でアレスがブチ切れますから…命の保証はありませんよ?」
ニッコリと笑うリオンに、ヒュッと喉を鳴らしネメアレオン殿下が黙った。
私は何の事かと不思議にその光景を見つめていると…リオンにポンと頭を叩かれる。
「リリアも!夫が…番がいるのに、不用意に触らせちゃダメでしょ!」
そう言って、リオンは再び部屋に向かって歩き出す。
私は自分の行動を省みて…それもそうか…と思う。
確かにアレスが他の女性と仲良くしていたら嫌だ。
触られるのなんか以ての外だ。
部屋の前に到着すると、何故か扉の前には護衛の騎士とクロード殿下が対峙していた。
クロード殿下に駆け寄ると、クロード殿下はニッコリと微笑んだ。
「二人が此処にいると聞いてね、僕も二人に話があってきたんだけど…先客がいるようで入れないんだよね。」
そう言って私とリオンの背後に回るクロード殿下。
同じようにネメアレオン殿下も私達の背後に回った。
どうやら、私達に続いて一緒に入るつもりのようだ。
私とリオンは顔を見合わせ、そして扉を守る騎士に名を告げる。
「リオン・クリスティアです。」
「リリア・クリスティアです。」
そう言って、今度は身分証でもあるギルドカードを提示した。
騎士は確認が済むと、扉の中に声をかけ…扉が開く。
…出る時はあっさりしてたのに、入るには苦労するんだなと私もリオンも苦笑した。
「殿下方は入れません。」
私とリオンが扉の先に進むと、後に続いた殿下方を騎士が止めに入った。
それに対し殿下方は抗議する。
その様子を振り返って見つめていると、今度は部屋の中から声がかかった。
「ネメア…お前は呼んでいない!」
「クロードもだ…待つなら其処で待て!」
低く、よく通る声に私もリオンも目線を部屋の中へ戻す。
奥に鎮座しているのは…三国の国王陛下方と聖女様。
「「ち…父上!?」」
この部屋の先客が誰かを聞かされてなかったクロード殿下と、私達に付いてきただけのネメアレオン殿下は驚きのあまり二人揃って声を上げた。
「扉を閉めろ!」
オステリア王国の国王が声をかけると、騎士が私達が部屋に入るのを確認し扉を閉めてしまった。
殿下方はとても驚いていたが…実を言うと私もリオンもさほど驚いてはいなかった。
それと言うのも、一昨日…夜会の前日に三国の国王と既に対面し…話もしていた。
国王陛下が私達に席につくように声をかけ、私達は聖女様の横に座る。
「昨夜はご苦労であったな。」
「無事に事件に関与した者達を全て捕らえる事が出来た。」
「君達には感謝している。」
オステリア王国、エスティアトリオ王国、ワインバル王国の国王が順々に私達に声をかけていく。
リオンと二人、顔を見合わせると恭しく頭を下げた。
「君達のおかげで、息子達の力量も知る事が出来た。」
自国の国王の言葉に思わず苦笑いを浮かべそうになる。
それを見逃す事なく…国王陛下は「何かあるのか?」と私に問いかけてきた。
……なので!
昨夜のクロード殿下の言葉を丸っと話しておく。
彼は国王陛下が自分を試している事にも気づいていて、それに乗っかり…自由を手にした気でいると。
「……それも踏まえ、クロードを今後どうするか決めるとしよう。」
私の言葉を聞き終えた国王陛下はニヤリっと黒い笑みを浮かべる。
親子そっくりだ。
「ネメアの事もありがとう。あれを王太子にと考えていたが、決め手が無くてな…二人が背中を押してくれたおかげで成果も上げられた。」
エスティアトリオ王国の国王も私達に目を向けると、嬉しそうに微笑む。
アレスの伯父様は…見た目は怖いが、笑うとどこか可愛く思えた。
そう…見た目は凄く怖い。
獰猛なライオンのような、それでいて貫禄があるし…声は腹にズシンと来そうなほど低い。
顔の造形や、髪と目の色はネメアレオン殿下と同じだ。
「リシェブールもだ…王太子としての自覚と自信を得られ…しかも婚約者まで見つけてきた!しかも、君達の妹だと言うじゃないか!!ありがとう!!!」
ワインバル王国の国王は席を離れ、私とリオンの前まで来ると…私達の手をワシッと掴んで喜んだ。
…そうだよね、女の影もなかったんだよね…きっと。
リシェ様は甘い言葉を囁くわりに、女性に慣れていなかった。
あの甘い言葉は…躱す為だったのだろう。
「よ…良かったですね。」
何と声を掛けたらいいか分からず、とりあえず言葉にすると…潤んだ瞳で何度も頷かれてしまった。
…正直、凄く困る。
「ところで、捕まった方々はどうするんです?」
こんな状況にも全く動じないリオンは、陛下方に問いかける。
ワインバル王国の国王が席に戻ると、エスティアトリオ王国の国王がリオンの問いに答え始めた。
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少し長くなったので切りました。




