最後の一撃
「おぉ!リリア嬢じゃないか!僕を心配して来てくれたんだね?」
「違います。」
ネメアレオン殿下に連れられて入った部屋は、数名の騎士が監視しているとはいえ…とても良いお部屋だった。
…まだ、どんな処罰か決まらない為…この待遇なのだろう。
私の姿を見つけたロマネス殿下が嬉しそうに私に声をかけてきたが、私はすぐに否定する。
勘違いされては迷惑だ。
ロマネス殿下の足首には長い鎖が付いていて、逃亡出来ないように繋がれている。
その為、一定の距離を置く事で私達に近づく事はできない。
突撃されても困るので、この配慮には凄く助かる。
「僕は悪くないんだよ!人身売買だってメイカー公爵に相談されたから協力したんであって、僕が進んでやった事ではないし…そもそも誰も傷なんかついてないと言うじゃないか。」
「………傷はついてますよ?」
自分は悪くない…と主張するロマネス殿下に、私は冷静に答える。
それに対し、ロマネス殿下は眉間に皺を寄せ「嘘を吐くな!」と反論した。
「聞けば、獣人達は全てリリア嬢達が救出したと言うじゃないか!その時に怪我人はいなかったと聞いてるし、そもそも傷物じゃ売れもしない!!」
ロマネス殿下の言葉に、私達は絶句した。
それを勘違いしたロマネス殿下は、得意気にフンッと鼻を鳴らす。
「心にはしっかり傷がついてますよ?」
目に見えないだけで、ちゃんと傷ついている。
…そう言った心の傷は目に見える傷と違い、治す事が難しいのだ。
傷口が塞がる所も見えなければ、広がる所も見えない。
本人すら気付かぬ内に悪化する事だってある。
「はぁ?心ってそんなの知らないよ!」
…………殴りたい。
きっと此処にいる全ての人間が思ったに違いない。
一発だけでは済まさない…ボコボコにしてやりたい。
心を落ち着かせる為、一度…深呼吸をする。
よく見ると、隣のリオンも同じように深く息を吸っていた。
「………王子を売ったら、いくらになるでしょう?」
感情を乗せないように、私は隣のネメアレオン殿下に問いかける。
私の意図が理解出来なかったのか、ネメアレオン殿下は怪訝な顔で「何言ってんだ?」と呟いた。
…使えない。
「事の重大さを理解出来ないロマネス殿下には、ご自身で想像してもらうのが宜しいかと思いまして。」
ニッコリと微笑むと、リオンがすぐに私の意図に気づき私を見て頷いた。
さすがリオン!と見つめ返した。
「そうだなぁ…メイカー公爵ぐらいの年齢層の高位貴族が買うんじゃないかな?」
「馬鹿を言うな!私を買うのは美女くらいだろう?それに、何で男が男を買う?奴隷なら私じゃなくても良いだろう!」
顎に人差し指をつけて答えるリオンに、ロマネス殿下は凄い勢いで文句を言ってきた。
私とリオンは互いに顔を見合わせると、首を振って否定する。
「美女なら、買う必要もないでしょ?男性から寄ってくるんだから。」
「男性が男性を買うのも、奴隷が目的じゃないですよ?」
私が先に答え、それに続いてリオンも否定する。
だが、私はリオンの肩に手を置いて首を左右に振って否定した。
「リオン…性奴隷も奴隷だよ?」
私の言葉にリオンは「それもそうだね。」と頷くが、他の面々は怪訝な顔で私を見てきた。
隣のネメアレオン殿下も「お前…そういう事を平気な顔で言うなよ。」と諭されたが、今は許して欲しい。
「メイカー公爵のような男色家が買うんじゃないかな?後は…悪食?」
まぁ…メイカー公爵は男色と言っても、ショタ好きなんだけどね。
「なっ!?」
ロマネス殿下が真っ青な顔で言葉を詰まらせていると、リオンは不思議そうにロマネス殿下を見つめて口を開いた。
「…ね?分かったでしょ?自分が何をしたのか…。」
人身売買の罪に問われる人間が、その先の事を把握していない…など許される訳がない。
売られた先で…どのように扱われるのかを想像させた事で、ロマネス殿下は目を見開いたまま固まってしまった。
「そういえば、今後は幽閉されて女性を連れ込んで悠々自適の生活を送る…と言っていたんでしたっけ?」
自分の犯した罪に反省もしないで、そんな生活が許される訳がない!
固まったままのロマネス殿下に一歩近づこうと足を踏み出すと、ネメアレオン殿下が止めてきた。
それを、やんわりと拒否し…ロマネス殿下に近づく。
「メイカー公爵にもしたんですけどね?……もう、必要ないでしょ。」
ニッコリと優しく微笑むと、何を勘違いしたのか頬を染めるロマネス殿下。
…この顔、本当に生理的に無理だわ。
私はトンッとロマネス殿下の肩を押し、ロマネス殿下はトスンと尻餅をつく。
そして………。
「痛っ!!!!!!」
思いっきり股間を蹴り上げた。
スッキリして振り返ると、騎士もリオンも…そしてネメアレオン殿下も何とも言えない顔で私に視線を寄越す。
そんな彼らを無視し…私はロマネス殿下にふふっと微笑むと「もう会う事も無いと思いますが…ご機嫌よう!」と部屋を後にした。
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リリアはとても怒っていたようです。




