彼色の染まる
ーーーーー夜会当日。
クリスティア家の別邸には四台の馬車が停まっている。
先頭はワインバル王国の紋章が刻まれており、リシェ様がリナリアをエスコートし馬車へと入って行く。
リナリアが着ていたドレスはリシェ様の色…淡いシャンパンゴールドのドレスと、それに合わせる宝飾には濃いルビーが埋め込まれていた。
次に停まっていた馬車はリーマスお兄様とその婚約者の馬車だ。
身に纏うドレスはお兄様の色…淡い紫色のドレスに宝飾はトパーズが埋め込まれている。
こうやって見ていると、この世界の男性は皆…パートナーに自分の色を纏わせる風習がある。
パートナーへの独占欲が強い。
斯く言う私もアレスの色を纏い…アレスは私の色をポイントで入れている。
恥ずかしいようにも思うけど、それよりも嬉しいと思うものなんだなと変に納得してしまう自分がいた。
続いてリオンとキャティ様の馬車が停まり…最後は私とアレスの馬車が停まる。
馬車の横、アレスが私の手を取ると嬉しそうに私の頬へキスを落とす。
「リリア、今日も綺麗で可愛いね。…こんなに早く、夫婦で夜会に参加出来ると思っていなかったから嬉しいよ。」
蕩けるような笑みで私を見つめるアレスに、私も顔を綻ばせる。
緊張はしているが、それよりもアレスと夫婦として夜会に参加出来るのは私も嬉しい。
何より…今日のアレスも格好良い!!
普段は下ろしている髪を後ろに流しているのだが、もうね…色気が半端ない!
ジャケットは私の瞳と同じヘーゼルで、カフスとタイピンには私の髪の色に似たピンクグレートルマリンが埋め込まれていた。
そう言う私はアレスの瞳のように煌めく蒼碧のドレスに、アレスの髪の色に似たグレーダイヤモンドが埋め込まれた宝飾を身に付けている。
…これ、めっちゃ高そう…と身につけながら思ったり思わなかったり。
アレスのエスコートで馬車に乗った私達は王城へと向かう。
乗った時は向かい合って座っていたのだが、何故か扉が閉まるとアレスは私の隣へ移動し…ヒョイっと私を抱き上げる。
そう…今の私はアレスの膝の上でお姫様抱っこ状態だ。
髪に、額に、瞼に…頬と何度もキスが落とされ、鼻と鼻がくっつく…。
ゆっくりと瞳を閉じると唇にキスが落とされ…それが何度も続く。
何度目かのキスの後…アレスが私の顔を覗き込み、ニッコリと微笑んだ。
…気のせいだろうか?なんかちょっと黒い笑顔に見える。
「リリア、夫婦で隠し事は良くないよね?」
アレスの言葉に、確かに良く無い事だと頷くと…アレスが更に笑みを深める。
「リオンには話せて、僕には言えない事かな?」
何の事かと首を傾げそうになり、昨日の事を思い出す。
特に隠しているつもりはなかったので、素直に自身の失敗について話すとアレスは何故かホッとした顔を私に向けた。
そして…コツンと額同士がぶつかる。
「ごめん…何か悩んでいそうな顔を見てたから心配だっただけ。」
アレスは申し訳なさそうに目を瞑る。
私の心配をしてくれての事なので、謝る必要なんかないのに…と私はゆるく首を振る。
「心配してくれて、ありがとう。嬉しいよ!それと…今度からはアレスにちゃんと話すね?」
「うん…リリアの事、いつも気にかけているつもりだけど…出来たらリリアからも話してくれると嬉しい。」
互いに確かめ合うように顔を見合わせる。
何だかそれが擽ったくて顔を綻ばせれば、同じようにアレスも優しい笑みを私に向けた。
「もうすぐ到着するね…あっ!」
窓の外に城門が見え、アレスが私をそっと隣に座らせると…私の顔を見て困ったように眉を下げる。
「ごめん…そんなに激しくしたつもりはなかったんだけど、リップが取れちゃったみたい。」
気まずそうに謝るアレスに、先ほどの自分達を振り返ると…顔に熱が集まる。
「だ…大丈夫!リップはちゃんと持ってるし…。」
誤魔化すようにリップを探し、アレスに見せると…何故かアレスは私からリップを取り上げてしまった。
コテンと首を傾げると、アレスは嬉しそうに私の顎を持ち上げた。
「僕に塗らせて?」
そう言ってアレスはチュッ…と、軽いキスを唇に落とした。
ブクマ・評価・感想・誤字報告ありがとうございます。
それぞれの馬車で、それぞれのカップルがどんな風に過ごしているのでしょうね。




