新たな台風
「ちょっと!貴方達、失礼じゃなくて?」
嵐が過ぎ去り平穏が戻ったと思ったら、新たな台風が来たようだ。
真っ赤なドレス、真っ赤な髪、真っ赤な口紅…
全身真っ赤な女の子が私とリオンに指差して文句を言い出した。
「失礼とは…どのようにです?」
とりあえず返答してみる。
私的にはどの口が?と返してみても面白いかなと思ったが…ここは大人な対応にしておこうと思う。
「私が来たというのに出迎えもしないなんて!これだから下級の者はダメね!」
「……はぁ。」
招待客は王子達が来る前には揃っていたので、この人は本当に誰なのだろう?
『ねぇ、この人は誰だか分かる?』
私と同じ事を思ったリオンに聞かれるが、私は『分からない』と答えた。
「王城に行ったらジュード殿下が、こちらに行ったと聞いて慌てて来たのに!ジュード殿下はどちら?」
「先程、妹の部屋に行きました。」
素直に答えるとキッと睨み付けてくる。
真っ赤な女の子は中身も強気だ…可愛さのカケラもないなと思ってしまう
「妹?それはどこなの?」
凄い剣幕で怒鳴られた上に、更に距離を詰められて胸ぐらでも掴まれそうな勢いだ。
「いえ、教えられません」
「なんですって!?」
当たり前だろう…私室を教えるわけない。
普通に人様の家に来て部屋へ案内しろなんて、一般常識的にありえない。
「私はマリナ・キャロリーヌなのよ?王城の政務官ドロン・キャロリーヌ男爵の娘の私に教えられないと言うの!?」
ふんっと腰に手をやり仰け反りながら偉ぶる令嬢に私とリオンの心はすんっとなった。
どんだけ偉いのかと思ったけど、ここに呼ばれて無いってことは微妙な爵位の令嬢なんだと思う。
周りを見渡せば皆んなが彼女の身分より上だと言うのに…何故こんなに偉そうなのだろうか。
「だから…なんだと言うのでしょう?」
「んなっ!失礼ではなくて!?」
失礼ではないと思う。
そう…心でツッコミを入れてから息を吐き出し、説明することにした。
「初めまして、リリア・クリスティアと申します。
本日は私と双子の兄リオンの誕生日パーティーでございます。」
カーテシーをし、簡潔に説明してみた。
「初めまして、リオン・クリスティアです。本日は沢山の貴族の方も見え、更には殿下方も足を運んで頂いております。もし宜しければ、あちらに兄のリーマスがおりますのでお尋ねください。」
リオンはボウ・アンド・スクレープをするとサラッとお兄様に丸投げした。
「なっ!?え?…え?」
一気に混乱へと落ちるマリナ。
さて、どうするかな?と悩んでいるとお兄様が慌てて駆け寄ってきた。
「これは、マリナ嬢。どうされました?」
お兄様が来たことで更に一緒にいたクロード殿下と貴族の子息達も付いてくる。
「おや、マリナ嬢も呼ばれていたのだな。しかし今日は伯爵家以上と聞いていたが…?」
態とらしく笑みをこぼしながらクロード殿下はマリナ嬢に問いかける。
腹黒いのかも知れないな…危険だ。
『腹黒い?』
リオンに聞かれてしまったので簡単に説明する。
『心が拗けていて意地が悪い人。でも表情に出さないのがポイントね!とぼけた振りして相手を追い詰めているわね。』
『つまり、腹の中が黒いのか。』
ふむふむと頷くリオンは…やはりあざと可愛い!
そんな私たちのテレパシーを殿下がニッコリ微笑んで見ている事に気づき吃驚する!
リオンも気づき、アワアワしている。
「この者たちが…私に失礼なのです!」
「…この者たち?」
笑顔の殿下の眉がピクッと動く。
「そうですわ!公爵家を勝手に名乗って、ジュード殿下の居場所も教えてくれないのですわ!」
ふんっと小馬鹿にしたように私たち双子を見下す。
お兄様達の話しぶりから、おそらくマリナ様はお兄様の同級生なのだろう。
私たちより背も高いし、無駄に気位も高い。
学園に通っているはずなのに…頭は大丈夫なのだろうかと心配になる。
「ほう、マリナ嬢はご存知ないのか。彼らは常は領地にいるがクリスティア公爵家の者で間違いないぞ?」
「…え?え?」
マリナ様は混乱のあまりクロード殿下と私たちを交互に見た。
「でも」だとか「だけど」だとか動揺が凄い。
「リオンとリリアは間違いなく僕の弟妹だよ?」
お兄様はとても良い笑顔で答える。
かなり怒っている様子ですね。
「ところで招待状はあるのかな?招待状を持ってないと、今日は高位貴族が揃っているから危険だと思われたら追い出されるどころか通報されるから気をつけてね」
お兄様がサラッと怖い事を言い出した。
カタカタと震えるマリナ様…もうすでに問題を起こしてるからヤバいなと思う。
「あと、もう少し貴族のお勉強をした方がいいんじゃない?流石に自分より身分が上の者に対して失礼すぎると思うよ?」
更に追い討ちをかけるお兄様。
マリナ様は顔を真っ赤にしてプルプルしだした。
おっ?噴火するのか!?
全身真っ赤になったから噴火するのか!?
「殿下、皆さま!…私、気分が優れませんので失礼しますわ」
マリナ様は真っ赤な顔を隠しもせず、私たち双子を恐ろしい顔で睨み付けふんっと鼻を鳴らした。
少しだけ頭を下げて、カツカツとヒールを鳴らしながら去ってしまった。
チッ
舌打ちが聞こえ思わずお兄様を見ると苛立たしげに令嬢を睨んでいた。
「「ありがとうございました」」
お兄様の般若のような顔を見なかった事にして、私とリオンは追い払ってもらった事を感謝する。
「大変だったね、今日の主役なのにね。」
お兄様は般若の顔を一瞬で破顔させ、よしよしと頭を撫でてくれる。
その横で何故かクロード殿下も頭を撫でようとして、お兄様に止められた。
「おいっ!撫でるくらい良いだろう?」
「ご自分の弟君を撫でて差し上げたらいかがですか?」
笑顔なのに目だけは笑っていない二人を見ながら…
自分たちの誕生日パーティーなのに疲れたという感想しか出てこない。
『もう疲れちゃったよ…』
『ボクもだよぉ…』
リオンと顔を見合わせウンウンと頷き、目の前の喧嘩に溜息を漏らしながら傍観しているのだった。