物語の世界じゃない
「あれ?もう読み終わったの?」
学園での補講を終えた翌朝、私は聖女様からお借りした本を読み始め…お昼過ぎた頃には読み終えた。
世界観と、読み易さであっという間に物語は結末を迎えたのだ。
あとがきに目を走らせていると、私を呼びに来たリオンが目をパチクリさせて驚いている。
「ふぅ…思ったよりも面白かったよ?」
そう言って本を閉じた私に、リオンも頷いていた。
リオンは私よりも先にこの本を読破している。
借りたその日に奪われたからだ。
奪った言い訳は「リリアが読んでも大丈夫か確かめる為。」だった。
…私の為なのか、リオンが先に読みたかったのか…その真意は謎のままだ。
「でもさ…なんでその本にチャミシル嬢は自分を重ねたのかな?一緒なのは主人公が辺境伯家の娘ってだけでしょ?」
リオンの言うように、確かに主人公はチャミシル様と同じ辺境伯家の娘だ。
恋のお相手も、その国の王太子だった。
ジュード殿下もロマネス殿下もどちらも王太子では無い。
因みに主人公はピンクブロンドの髪にアメジストの瞳なのだとか…なんだその如何にもな設定は!とは思ったけど、確かに可愛いよね。
「いつか自分も王子様と…っていう憧れがあったんじゃないかな。それに、ワインバル王国ではメイカー公爵がロマネス殿下を推していたから王太子も変わると思ったかもしれないしね。」
更に言えばオステリア王国では、王太子は選ばれていない。
「あと…同じなのは物語の途中もそうだよ?他の生徒が魔力暴走を起こし、それに巻き込まれた主人公を助けた処は先日の出来事に似てるし。主人公より身分が高い令嬢が、王太子と仲が良い主人公を裏庭に呼び出すのも似てるかな…結果的にどちらも私が関与して台無しにしてるけど。」
そもそも、チャミシル様を呼び出したのはチャミシル様より身分が低い令嬢だったけど。
それにしても…私って本当に邪魔者だと思われているんだろうな。
悉く恋愛イベントを潰してるから、相当に恨まれているかも知れない。
「それはだって、此処は物語の世界じゃないんだもん!違う事だって起きるじゃん。」
ふんっと鼻息荒く語るリオンに私は思わず苦笑した。
“物語の世界じゃない“
それは私が何よりも願っていた事。
「…本当に物語の世界じゃないかな?」
小さく独言を呟けば…リオンが「だって、僕達は意志を持って生きてるじゃん!」と笑って言うから…私は、リオンに抱きついた。
勢いよく抱きついた私をよろける事なく抱き止めるリオン。
いつだって私を元気付けてくれるリオンが私は大好きだ。
「もう、リリアは甘えただなぁ。アレスに嫉妬される僕の身にもなってよね?」
文句を言いながらもリオンは私を押し退けたりせず、抱き締めたままだ。
それに、こんな風に私が甘えるのはリオンとアレスだけなんだよ?
…それも分かってて、こうやって受け止めてくれるんだよね。
「さて、そろそろ王城に夜会の打ち合わせに行くよ?」
暫くするとリオンが私を離して、私を呼びに来た目的を告げる。
これから夜会の…というか、夜会でロマネス殿下とチャミシル様をどのように問い詰めるのかの相談に行く予定だ。
「私的にはクロード殿下が二人に追及すれば良いと思うんだけどなぁ…。」
ボソッと呟けば、リオンも「同じく。」と言って苦笑いを浮かべる。
だって、そんな面倒な事…一番偉い人がすれば良いと思う。
聖女様からお借りした本を魔法鞄にしまうと、リオンと共に部屋を出た。
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今日は少し短めです。




