結婚祝いは目録で
「ところで、ネメアレオン殿下はどうやって隣国の国王陛下に交渉なさるのです?」
先ほど聞こえた言葉に疑問に思うと、ネメアレオン殿下はニヤリと口角を上げた。
「私は此度の件で王太子になる事が決まった!」
ドヤっと胸を張り、鼻息が荒いネメアレオン殿下。
そんなネメアレオン殿下の態度に呆れた顔をする聖女様。
「「…え?エスティアトリオ王国は大丈夫なんですか?」」
リオンと共に首を傾げた私は…獣王国の今後が心配になった。
「どういう意味だっ!!」
バーンッと目の前のテーブルを叩き、立ち上がるネメアレオン殿下を見上げる私とリオン。
少し落ち着け…とばかりにネメアレオン殿下を宥める聖女様に、ネメアレオン殿下も大人しく座り直した。
誰がどう見ても心配になるだろうよ…。
私とリオンは互いに顔を合わせ頷くと、魔法鞄から杖のような物を取り出す。
その先端には細いロープが付いており、ロープの先にはポワポワとした羽毛が付いている。
そう…猫じゃらしだ。
午前中、街をぶらりした時に見つけたペット用品で…リオンはキャティ様に、私はアレスと戯れる為に購入した。
リオンと共に猫じゃらしの先をスッとテーブルの上に乗せ、ゆっくりと揺らす。
時折、ピタッと止めて…その後はサッと動かしてみせる。
最初こそ鼻で笑って見ていたネメアレオン殿下だったが、動きを変えた瞬間から猫じゃらしを目で追い始めたのが分かった。
何度目かのピタッと止めた後だった…。
ネメアレオン殿下が我慢できずに手を出したのだ。
ライオンだけあって俊敏だったが、それでも私達の方が速く…猫じゃらしを横に動かした。
それを数回繰り返し、頃合いを見計らい…態と捕まえさせる。
捕まえた瞬間、ネメアレオン殿下は嬉しそうな顔をし……私達に顔を向ける。
……そして、ハッと気づき…俯いた。
「…お分かり頂けたでしょうか?」
「……何がだ?」
私が問いかけると、ギロッと睨んでくるネメアレオン殿下。
睨まれても怖くは無い。
…だって、大きい猫だもん。
「狡いぞ!こんなの、私じゃ無くとも引っ掛かるだろ!!」
「えぇ、習性ですから。…ですから、今後は引っ掛からないように頑張ってください!…おめでとうございます。」
怒って再び立ち上がったネメアレオン殿下に、私とリオンは深々と頭を下げた。
「なっ…え?…あ、あぁ…ありがとう?」
私達の態度の変わりように混乱するネメアレオン殿下。
それに対し私とリオンは「チョロいですね。」と小さな声で呟く。
「……聞こえているぞ?」
私達の言葉に再び怒りを露わにするネメアレオン殿下。
中々に面白い。
「勿論、存じてます!」
「態とです!」
真面目に返すリオンに続く私。
その言葉に何と言って返そうか…と逡巡するネメアレオン殿下。
そんなネメアレオン殿下の肩にソッと手を置いた聖女様が「…諦めろ。」と呟くと、仕方なくソファーに腰を下ろした。
「ふんっ…王太子になったからな、寛大な心で許してやる!…そうだ、リリア嬢は公爵家だったな?私の妻にしてやろうか?」
揶揄われた反撃をしているのだろうか…?
やはり…どこの王子もあまり頭が良いとは思えないな…と、一つ溜息を溢す。
「無理です…私は“神に愛されし者“だし、そもそも人妻ですから。“運命の番“がいる者を口説くとか…何を考えているんですか!」
私がネメアレオン殿下と結婚出来ない理由を淡々と告げると、何故か悔しそうな顔をするネメアレオン殿下。
…本当に、何考えてるんだか。
すると、ネメアレオン殿下がハッと何かに気づいたように私を見た。
…二度…いや、三度見した。
「…人妻って言ったか?」
「はい。…結婚祝いは目録でお願いします。」
ネメアレオン殿下の問いに笑顔で答えると、スッと頭を下げる。
「…え?…はぁ?目録ぅ?」
「はい、新婚旅行に各国を巡りたいので…その際にはお世話になります。」
優待してね?っとニッコリと笑うと、ネメアレオン殿下は何かとてもショックな事だったのか…固まって暫く動かなくなってしまった。
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