怒れるネメアレオン殿下
「相変わらず、そういう事には勘が良いんだから…。」
「いやいやいやいや、あんな巫山戯た名前をつける人なんて限られるでしょ!?それにエドモンド様は明らかに私達と同じ境遇では無さそうだったし…そう考えれば聖女様しか居ないでしょ?」
つまらなそうにする聖女様に思い切りツッコミを入れると、聖女様は不貞腐れた顔を綻ばせる。
「…あの名前が分かったと言う事は、リリアと私は同じ世代だったのかね?」
「…同じ時代だったかもしれませんね。」
あえて、言い直すと聖女様は苦笑いを浮かべた。
互いに昔を懐かしんでいると、ネメアレオン殿下が咳払いをする。
…この部屋は特に乾燥しているように思えなかったが、体調でも悪いだろうか?
それから暫く聖女様と私達しか分からないネタで盛り上がると、再びネメアレオン殿下が咳をした。
チラリとネメアレオン殿下を見ると、何故かギロッと睨まれる。
「おいっ!…そろそろ本題に入れ!!」
「本題って?」
不機嫌そうに怒鳴るネメアレオン殿下に私は首を傾げた。
そもそも何の用で呼ばれたのかも分かっていないのだ。
「チッ…ホラよ!」
バサッと書類を私の方に投げて寄越すネメアレオン殿下。
…その態度に少しばかりムッとしながら、書類に目を通した。
二種類の書類の片方だけをリオンに渡すと、私はもう一つをいそいそと魔法鞄にしまう。
同じようにリオンも確認が終わると自身の魔法鞄にしまった。
「おい!なんか一言あんだろ!!」
その言葉に私とリオンは顔を見合わし、ネメアレオン殿下に向き直る。
「「ありがとうございました?」」
「何で疑問形なんだよ!」
私達の態度に更に腹を立てるネメアレオン殿下。
…そう言われても…ね。
「お前らが自分達の番の家族の事件を何とかしろって言ったから、ちゃんと犯人を捕まえて裁判もして…その結果を渡したんだろ?」
そう…先ほど渡されたのはアレスの両親が殺害された件とキャティ様の家族が殺害された件の報告書だった。
「……そもそも、エスティアトリオ王国で起こった事件ですし。」
「解決するのは当たり前の事かと思いますが…?」
私とリオンの言葉にネメアレオン殿下は再び舌打ちをすると「お前らの方はどうなんだよ!」と話を強引に変える。
「昨日、エスティアトリオ王国との国境の塀の調査をし…誰が穴を空けたのか確認が取れました。」
「後は事件に関与したと見られる残りの二名を捕らえるだけです。」
因みに昨夜、チャミシル辺境伯を騙り学園に突撃したのはライルだと本人から証言も取れた。
あとは…どのようにして「犯人は貴方ですね!」的な事をしようかと悩む。
「他の奴らは捕らえたんだな?…引き渡せ!」
「…え?そんな権限無いです。」
そう言って首を振り…クロード殿下を見る。
「私もまだ王太子では無いから出来ません。」
肩を竦め残念そうに首を左右に振るクロード殿下。
…その背後にチラリと見えたジュード殿下は話には参加せず、ずっと何かを見つめている。
その目線の先を辿ると…バーバラ殿下が居た。
いつもの一目惚れかな?とバーバラ殿下を見ると…何故か同じ様にジュード殿下を見つめている。
「……ぃ……おい!リリア嬢、聞いているのか?」
「…ふえ?…え?聞いてませんよ?何ですか?」
私が二人に夢中になっていると、ネメアレオン殿下に怒られた。
素直に聞いてなかったと答えると、更に激怒するネメアレオン殿下。
「…だって、バーバラ殿下とジュード殿下の様子がおかしいんです。」
他の方々に二人を見る様に促すと、そんな私に釣られ二人に目を向ける。
だが、二人は私達が見ている事にも気づかずに見つめ合っていた。
「おや…これは、ちょっと厄介な事になりそうだね。」
そんな事を微塵も思っていないだろう聖女様の声に、私は“もしや?“と思った…。
そんな私の表情に頷く聖女様。
「……運命の番ってのは、そうそう現れるもんじゃ無いんだけどね。」
聖女様が告げた言葉に当人達以外の人が瞠目し聖女様に振り返る。
私はと言えば…この厄介事をどうするべきかと、目を瞑り天を仰いだ。
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