ペルノとチャミシル辺境伯
…仮面の男は、ブロンドの長い後ろ髪を緩い三つ編みにして垂していた。
キャラ…違うじゃん!?
それ違うキャラだし!
エドモンドさんはお相撲さんだし!
見た目で言ったら同じゲームの鉤爪のイケメンキャラだ。
若干、肩を落とす私にソッとリオンが寄り添う。
ガッカリだよ……。
「あっ!ペルノが到着したみたいだよ?」
私の背を摩りながら、私達が来た道とは違う方角から馬に乗ったペルノが現れる。
私達よりも先にチャミシル領に来ていたペルノは、馬を降りると私達に駆け寄ってきた。
「遅くなり申し訳ございません。」
頭を下げるペルノに私もリオンも笑顔で首を振る。
その表情にペルノはホッとした顔をした。
「私達も今来たところだよ。それで、お家はどうだった?」
私達も到着したばかりだと告げ、ペルノが先に来ていた目的について問いかける。
チャミシル様に攫われて以来、一度も帰っていないお家が現在どうなっているのか…そして、その片付けをしたいとペルノに頼まれたのだ。
「はい、多少は荒れていましたが必要な物は手に入りました。掃除を済ませ、元締めと話をし…今後は元締めが他の方に貸し出す事となりました。」
生まれ育った家に別れを告げ…手放してきたようだ。
「後悔は無い?」
私達の元で働いたとしても、家を残す事は出来たはずだ。
思い入れもあっただろう…と問いかければ、ペルノは首を左右に振って顔を上げた。
「私は既にクリスティア家に仕えると決めました。帰る場所はクリスティア領以外に必要ありません!」
決意に満ちた目が私達に向けられた。
あぁ…人は変われるんだな…とペルノを見て思う。
「そう…では、これからも宜しくね。」
「はい!」
改めて使用人としてのペルノに声をかければ、嬉しそうな顔でペルノは笑った。
「……お取り込み中、失礼する。」
私達が到着したペルノと話をしていると、背後から声がかかる。
振り返ると…微妙な面持ちで私達を見つめるチャミシル辺境伯がいた。
「チャミシル辺境伯、ご紹介が遅れました。彼が先日お話しした、前チャミシル辺境伯のご子息です。」
ペルノを引き合わす事を思い出し、慌てて説明すると…何故かチャミシル辺境伯はペルノを凝視する。
……疑ってるのだろうか?
と、二人を見ていると…突然チャミシル辺境伯が頭を下げた。
「すまない!父の…私の父が女にだらし無いばかりにっ!!」
「え?はっ…いえ!…えっと…リオン様、リリア様…こういう時はどのようにしたら良いのでしょう?」
勢いよく頭を下げて謝罪するチャミシル辺境伯に、ペルノは何と返せば良いか分からず私達を見た。
「「好きにすると良いよ。」」
グッと親指を立てて、ニカッと笑うリオンと私。
ペルノは更に困った顔をする。
「あ…頭をお上げ下さい。貴方様に謝罪して頂く事などありませんから…。」
「…つまり、私の謝罪だけでは許せない…そういう事だな?」
ペルノはアワアワしながらチャミシル辺境伯に頭を上げるよう伝えたが…どうやら噛み合わなかったようだ。
チャミシル辺境伯の言葉に更に混乱するペルノが少しばかり気の毒になってきた。
「前辺境伯のせいであって、チャミシル辺境伯は何も悪く無いと伝えたかったのよね?」
私が助け舟を出せば、涙目だったペルノはブンブンと勢いよく頷く。
…首痛めないよね?
「では…どう償えば?」
今度はチャミシル辺境伯が困惑し出したので、リオンが間に入った。
「何も要らないと思います。彼の中では既に過去の事…それに、彼が生まれてきてくれたおかげで僕達は助かってますから。」
リオンの言葉に、それでも納得がいかない顔をするチャミシル辺境伯。
ペルノはグッと拳を握り…そして、力を抜いた。
「過去の事をどうこう言うつもりはありません。リオン様の言う通り、私を産んで育てた母には感謝しております。……文句があるとするならば、チャミシル辺境伯のご令嬢に強引にワインバル王国へ連れて行かれた事くらいですよ。」
ニッコリと笑いながらペルノはサラッと自分を攫った人物について話した。
…その親を前にして。
「……娘が君を?」
「ええ、間違い無いかと。」
信じられないという表情のチャミシル辺境伯に対し、ニッコリと微笑むペルノ。
ペルノよ……その微笑みは君にはまだ早いのではないか?
クリスティア家の使用人と同じ表情になっているではないか。
「その辺りは明日…リオン様とリリア様がハッキリなさると思います。」
恭しく一礼すると、私とリオンの背後にスッと下がるペルノ。
成長が早すぎるよっ!
「…そうだな。では、とりあえず部屋に案内する。」
顔を引き攣らせ頷くと、チャミシル辺境伯は…使用人を呼ぶ。
使用人に私達の案内を任せると、ジン様方の方へ歩いて行ってしまった。
「……怒っちゃったかな?」
コテンと首を傾げ…チャミシル辺境伯の背中を見つめていると、リオンは首を振る。
「明日になれば、分かる事だよ。」
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