指名依頼
「「指名依頼?」」
冬季休暇に入り、ゆっくり過ごそうと思っていた初日…私とリオンの元に冒険者ギルドから連絡が入った。
慌てて冒険者ギルドに来てみれば…何故かギルドマスターの部屋へ通される。
そして、ギルドマスターが私達に提示したのが…まさかの私達ご指名依頼。
有難いけども…残念ながら受けられそうも無い。
「依頼主から、二人は既に自身と行動する事が決まっているからと急遽申し込まれた案件だ。」
断ろうとすると、ギルドマスターによく依頼内容を確認して欲しいと依頼書を渡される。
…依頼主は…チャミシル辺境伯?
依頼内容は、領地までの護衛…しかも往復?
内容を確かめてみたものの…理解出来ずに首を傾げる。
チャミシル辺境伯は既に自身の護衛が付いているし、往路だけのはずだ。
復路とはどういう事だろう?
不思議に思っていると、依頼対象者の欄に目がいった。
「………っ!?エドモンド…トンダ?」
…ふざけてるの?
だって…この名前は前世の…前世の超有名ゲームのキャラでは無いか!!
一文字捻ったところで何の意味もないのに。
「え?リリアの知り合い?」
私が呟いた名前に隣のリオンが首を傾げた。
基本…私の知り合い=リオンの知り合いだから、私だけが知ってる事に驚いたのだろう。
「…知り合いではない…けど、この名前は知ってるって言うか…違うって言うか…。」
まさか…ゲームのキャラとは言えないし。
「この方が…国王陛下の言ってた方なのかな?」
リオンの呟きに、そういう事か!と納得する私…ではない。
明らかな偽名である。
…異世界人かな?
うーん…と悩んでいると備考欄に記載がある事に気づく。
「どちらも指定の服を着用し、指定する名前を名乗る事?」
コテンと首を傾げると、ギルドマスターから服を渡された。
これを着ろって事かな?
「二人がクリスティア家の者だと分からないように変装して欲しいそうだ。あと、リリア嬢には男装をして来るようにとも言っていた。」
ギルドマスターから詳細を聞き、私とリオンは渡された服を広げる。
騎士服だろうか?
ふむ…。
「なんか、面白そうだね!」
「うん、ちょっと興味出てきたかも。」
変装…それも男装と聞き、どこか胸が躍る。
護衛の依頼なのに、楽しそうとか思うのは不謹慎だけど…でも楽しそう!
そう思ってリオンを見ると、リオンも私を見ていて…互いに頷く。
「「受けます!」」
依頼を承諾すると、ギルドマスターがどこかホッとした顔をし…。
そして、2枚のプレートを差し出した。
「依頼主から此方の名前を使用するようにとの事だ。」
渡されたプレートは身分証だった。
そして、そこに書かれていた名前に思わず吹き出してしまう私。
「ジュン・マクレーンって…!!それもう、絶対何かに巻き込まれるじゃん!?」
前世…私が最も好きだった映画の主役の名前だった。
世界一ついてない男。
アクション映画でシリーズ物のそれは、私の中では不死身の男でもあった。
何故かいつも事件に巻き込まれるのだ。
隣のリオンが私のプレートを覗き込み、不思議そうに私を見つめる。
その表情にハッと気づき…私は慌ててリオンのプレートを覗く。
「……そっちは置き去りになるやつぅーー…。」
リオンのプレートの名前はケビン・マキリスター…やはり前世の映画の主役の名前が書かれてあった。
聖夜に置き去りにされた家で一人、泥棒と戦う…こちらも大好きな作品だった。
どちらも一文字だけ捻りが加えられている。
危険な匂いしかしない依頼を手に…私は天を仰ぐ。
…遠い記憶の中のマクレーンが「チクショー」と叫んでいる気がした。
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申し訳ないです。
(そして、実在する映画を出しました事…深くお詫び申し上げます。)




