台風一家
※タイトルは誤字ではありません
「そういえばさ…チャミシル嬢はクレア様の何を邪魔してたの?」
何故かアップルパイを二つも平げ、優雅に紅茶を飲みながらリオンは思い出したかの様にクレア様に問いかけた。
私のお手製お菓子以外にも甘い物に目がないリオンは、何故か細く…それでいて筋肉質な体をしている。
…私はしっかり動かなければお腹周りや背中周りにすぐに脂肪がついてしまうというのに…解せぬ。
因みに筋肉云々は先程リオンに抱き締められた時ではなく以前から普通に裸を見てたりしたから知っていた…って!これじゃ痴女じゃない!?
違うのよ、ほら剣術とかで汗かいて私達だけの時とかだと普通に目の前で着替えちゃったりする訳で……言い訳みたいじゃない?
『リリア、駄々漏れそうだから気をつけて?』
脳内で一人ワタワタしていると、リオンがテレパシーで冷静にツッコミを入れてきた。
……ありがとう。
「あっ、えっと…チャミシル様が原因で謹慎になっていて…だから擦れ違い様に名前が耳に入ってきて思わず頭にきてしまって…なんで私ばっかりって思っちゃったんです。」
クレア様はどう説明したら良いのか悩みつつも、その時の事を話した。
てっきり男漁り…では無く、婚約者探しの邪魔をされて怒っていたと思っていた。
学園生活を邪魔されたからだったようだ。
「チャミシル嬢にしたら、クレア嬢とリリアも“自分の邪魔ばかりして!“とか思ってそうだよね。」
ボソッと呟いたリオンに、何故かクロード殿下とジュード殿下が咽せる。
よく分からず首を傾げていると、リオンが目を細めて私を見た。
…あ、この顔…きっと呆れてるやつだ。
「まぁ、リリアが一番…邪魔なんだろうね。」
「え?なんで私?…ロマネス殿下とは仲良くないよ?」
リオンに指摘され、私は更に首を傾げた。
ジュード殿下と一緒にいるのも最近の事だし、ロマネス殿下に関しては…あまり関わりたくないというのが本音だ。
最近はやけに絡んでくるから本当に迷惑している。
「無自覚って恐ろしいよね。タチ悪いし…態となの?」
態となら無自覚じゃないじゃないかとリオンを睨んだ。
私そんなに鈍感でも無いと思うんだけどな!
「老若男女問わず…出会う人間を端からタラシて行く手腕は、確かに恐ろしくも羨ましいよ。」
紅茶を飲んで一息ついたクロード殿下が、とんでもない事を口にする。
そんな事が出来る人間…いるのかな?と、クロード殿下を見る。
「ほらね、無自覚。」
クレア様にボソッと声をかけるリオン。
その言葉にクレア様も苦笑いで頷いていた。
因みにリオンがクレア様と会話するのに…私を挟んでる事をお忘れなく。
「…人タラシならリオンでしょ?」
私がムスッとしながらボヤくと、リオンは嬉しそうに笑う。
褒め言葉で言ったんじゃないのに…。
「さて、楽しい時間も此処までにしようか。クレア嬢はこの後、僕と一緒に学園長室まで来てもらうけど良いかな?さすがにカフェでの事は学園長の耳にも入っているだろうし、下手に逃げると処分も厳しくなるからね…先に謝り反省の色を示せばそんなに厳しい罰を与えられる事も無いよ。」
クロード殿下は席を立ち、クレア様の元へ近づくと手を差し伸べた。
クレア様は私とリオンを交互に見て助けを求めるが…それに対して首を振る。
全くもってその通りなのだ…と笑顔を向けると、意を決したのかクレア様はクロード殿下の手に自身の手を重ねた。
…なんだろう、この王子様とヒロイン感。
あっ、そうか…スチルに見えるのか。
ふむ、イベント…だったのかな?
すると、少し離れた席にいたチャミシル様がガタッと音を立てて立ち上がる。
その顔は…非常に怖い。
…あっ…と何かを察する私に、隣のリオンが腕を小突いた。
その顔は“後で聞かせて“って事かな?
「では、先に失礼する。」
クレア様を立ち上がらせたクロード殿下が私達にそう告げると、クレア様が慌てて私達に向き直る。
「あっ…ありがとうございました!」
そう言って頭を下げると、クレア様はクロード殿下に「よろしくお願いします」と頭を下げた。
それに対しクロード殿下は笑顔で頷くと、さっさとカフェを後にする。
「まさに台風一過…と言った感じでしたわね。」
その後ろ姿を見送りながら呟くと、リオン以外の面々が不思議そうに首を傾げた。
何を例えた言葉なのか…それは、昔から一緒にいるリオンには分かってしまったようだ。
…と、思っていたら。
「そうだね、台風の家族ってくらい大変だったもんね。」
リオンはドヤっとし、他の面々も何故かリオンの言葉に納得したのか頷く。
「その一家では無いからね?通り過ぎた後って意味だからね?」
と、小さくツッコむも…誰も私の方を見てはいなかった。
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