得意な魔法
「…僕もご一緒して良いかな?」
ジュード殿下の肩に手を置き、クロード殿下が和かに微笑みながら声をかけてきた。
突然の事にジュード殿下は肩をビクッと震わせ、私達はクロード殿下を見上げた。
そして、その背後に誰もいない事を確認する。
どうやらチャミシル様を振り切って、此処に来たようだ。
「リリア嬢、何を見ているんだい?」
私に向かってニッコリと笑うクロード殿下。
私は再び視線をクロード殿下に向ける。
「チャミ…」
「何かな?」
私がチャミシル様の事を聞こうと声を出すと、思い切り被せるようにクロード殿下が問いかけてきた。
「抱きついてきたチャ…」
「何の事かな?」
改めて話そうとすれば、再び被せるように問われる。
触れてほしく無いようだ。
「いえ、クロード殿下はどのランチになさったのかなと思っただけですわ。」
クロード殿下の背後に位置する厨房をチラリと覗き、ニッコリと笑って答える。
その答えに満足したのか、クロード殿下は席に座りながら「ハーフ&ハーフにしたよ。」と答えた。
…先ほどクレア様用に特別に頼んだのを真似たのね。
「それにしても、先ほどのリリア嬢には驚かされたよ。まさか突然来てクレア嬢に魔法を消させ、しかも連れ去って行くとはね。…しかも、既に仲良くなっているし。」
クロード殿下は顔には笑顔を貼り付け愉快そうに話してはいるが、恐らく腹の中では怒っているのだろう。
…目が笑っていない。
「えぇ、皆様方がお腹を空かせているのが分かりましたから。私達だけ食事させて頂くのも申し訳なくて…折角ですからクレア様もご一緒にと思いましたの。」
ふふっと微笑みながら答えれば、クロード殿下は笑顔のまま「そうだったのか。」と頷いた。
カフェには現在、続々と生徒達が押し寄せている。
先程までの緊迫した様子は霧散し、お腹を空かせた生徒達は席に着くなり楽しげに話していた。
私の話を聞きながら、クロード殿下やジュード殿下は腹の中で「それなら、最初からそうしろよ!」と思っているに違いない。
クロード殿下と違ってジュード殿下は顔に出ているしね。
「それにしても、魔法を消す方法には驚いたよ。」
クロード殿下は先に出された紅茶を味わうと、先程のクレア様を思い出し話し始めた。
その言葉にジュード殿下もクレア様も頷く。
「魔法など9割イメージで発動出来ますから、消すのも同じ事です。」
魔法に必要なのは、どんな事をしたいのかイメージする事が大切だ。
そのイメージがしっかり出来たら無詠唱で発動する事もできる。
…ふむ、イメージか。
自分の言葉に…私は、探査魔法について考え始めた。
探査魔法は発動者本人にしか見えない。
映像のように流れるそれを…他の人にも見せる事が出来たのなら?
例えば国の機関から派遣された方に見せる事で確実な証拠になるのではないか?
「リリア、何を考えているの?」
突然黙り込んだ私を不思議に思ったリオンが私の肩を小突く。
私は顔を上げ、リオンに後で相談したい事があると告げるとリオンは不思議そうにしながらも頷いた。
「リリアさんの言ったイメージ9割というのは、中々に的を射ているな。それが出来れるからこそ短い詠唱で最速の魔法を発動させる事が出来るのも頷ける。」
ルービン先生はアップルパイを食べ終え、口元を拭きながらウンウンと頷いた。
…無詠唱で出来る事は内緒にしておこう。
「私も…もっと魔法を使えたり出来るのかな?」
先生の言葉に反応し、クレア様がボソリと呟いた。
その声にルービン先生は嬉しそうに笑う。
「君は魔力量も多く光魔法も使えるようだから、これから私の授業で沢山学んで色々な魔法に触れると良い。」
「はい!」
クレア様は嬉しそうに返事をした。
元は平民だった彼女は、魔法にも興味があったようだ。
学園に通う事で魔法に触れ、安全に使えるようになるだろう。
「そういえば、クロード殿下はどんな魔法が得意なんですか?」
話の流れから、リオンがクロード殿下に質問するとクロード殿下は良い笑顔でリオンに向き直った。
「闇魔法だよ。」
うん、なんか納得の答えが返ってきたな。
…と思ったのは私だけではなさそうだ。
微妙な顔の私達に笑顔を振りまくクロード殿下。
その笑顔もきっと態と作っているのだろうなと思えてならない。
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このテーブル、王子二人に公爵家の双子ととんでもない事になってるな。
…と思ったけど、以前に違う王子二人と双子でランチしてましたね。
側から見たら羨ましくもあり、近寄りたくもないんでしょうね。




