側から見たら
「クロード殿下!!…私、怖かったです…。」
クロード殿下が私達の方へと歩き出すのを何気なく見ていると、その背中に一人の令嬢がトスンッと抱きついた。
突然の事に驚き振り返るクロード殿下。
…抱きついたのはチャミシル様だった。
「よくやるわ…。」
クレア様の頭を優しく撫でながら、私は呆れていた。
これで三人目…いや、四人目なのかな?
ライルに始まり、ジュード殿下にロマネス殿下…そして今しがた乗り換えたクロード殿下。
チャミシル様の背後にいるロマネス殿下は、苛立ちを隠そうともせず二人を見ている。
「クロード殿下がまさか躱せないとはね…。」
隣のリオンが溜息混じりに息を吐いた。
…そういえば、以前リオンはクレア様に抱きつかれそうになって…躱していた事を思い出す。
クロード殿下に抱き着こうなんて輩は珍しいから…躱せなかったのかもね。
「………。」
私の肩越しにその様子を見ていたクレア様は嫌そうに眉間に皺を寄せる。
そんなクレア様の肩を私はポンポンと叩いた。
「以前のクレア様も側から見たらあんな感じでしたよ?」
「…え?」
私の言葉に目を見開き驚いたクレア様はガバッと私から離れる。
「クレア様は婚約者のいる男性にも声をかけていましたし…。」
頰に手を当て首を傾げれば、クレア様は俯き手をモジモジさせた。
「だって…友達が欲しかったんだもん。……令嬢方は皆んな何考えてるか分からなくて怖かったから、男性に声をかけたのよ。…昔住んでた所では男女関係無く普通に会話が出来たのに…此処ではそれも駄目だったのね。」
口を尖らせ、少し拗ねたように話すクレア様に私もリオンも思わず吹き出した。
「ちょっ…!?なんで笑うの?」
私とリオンを交互に見ながら、クレア様は頬を膨らませ怒る。
それがまた可愛くて我慢出来ずに笑ってしまった。
「…それはまた、可愛い理由でしたのね。でも、あんな風に抱きついたり触ったりは勿論…会話も難しいのよね。」
「そうそう、婚約者がいるのに他の令嬢と親しいとなったら婚約者が怒ってしまうし…拗らせれば婚約解消や賠償金の問題にも繋がっちゃうからね。」
一頻り笑い終えた私とリオンが簡単に説明すれば、クレア様はすぐに理解したようで…再び俯いてしまう。
「私がやった事は…相手に迷惑がかかる行為だったのね。」
シュンと落ち込むクレア様に、私とリオンは顔を見合わせ…クレア様に笑顔を向けた。
「今度から気をつければ良いだけよ。」
そう…一つ一つ理解していけば良いと私は思う。
突然、貴族社会に放り込まれた彼女には全てが初めてなのだ。
出来ないから駄目って決めつけてはいけない。
それは彼女の成長の妨げになるから…。
学園卒業までニ年半以上もあるのだから、それまでに学べば良い。
「その内、色々と分かってきたら令嬢も怖くなくなるわよ。クレア様が思うほど、学園に通う令嬢は怖くないし完璧ではないの…うちの妹は完璧だけど。」
そう…私も含め完璧な令嬢など居ないのだ。
そこそこ出来る令嬢も、数えるほどしか居ないかもしれない。
「僕達二人も完璧とは言えないしね。…うちの妹は完璧だけど。」
そう言ってニッコリと笑うリオンと私に、クレア様はキョトンとする。
「…妹?」
コテンと首を傾げクレア様は不思議そうに私達を見た。
「そう、ジュード殿下と婚約解消した私達の妹は王族教育も学んだ完璧令嬢なの。」
「リリアも妹には敵わないんだよね?」
リナリアの事を誇らしげに語ると、隣のリオンがニヤニヤしながら私に言ってきたので私は苦笑しながら頷いた。
…実際、敵わないしね!
「でも、私…勘違いしてました。…てっきり婚約者探しでもしてるんだと思ってましたの。」
先ほど、友達が欲しかったと言ったクレア様。
でも、それにしては男性…それも婚約者の居ない方々には力が入っていたように思う。
「学園に入ったら誰でもいいから婚約しなさいって親に言われていたから…勘違いでは無いかも。…でも、そんな人より私は友達が欲しかったんだけどね。」
…親に言われて婚約者探し。
なるほど、だからリオンが狙われていたのね。
「では、これからは友達という事で…冬季休暇に遊びに行っても良い?」
「僕達、友達の家ってあまり行った事ないんだよね。」
私の提案にリオンも頷く。
目の前のクレア様は突然の事に顔を真っ赤にしてアワアワとし出した。
「あっ…えっと…え…友達?…あ、うん。お家の人に聞いてみてからでも…大丈夫ですか?」
嬉しそうな照れ臭そうな…そして、どうしたらいいか分からないといった感じに動揺するクレア様。
普通に話せばこんなに可愛らしいお嬢さんだったとはね。
「「うん、よろしくね?」」
リオンと共に頷き、コテンと首を傾げてお願いするば…クレア様は赤面しながら頷いた。
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