結局は
ナプキンで口元を拭き、スッと立ち上がると…怒鳴ってきた令嬢へ向かって歩き出す。
令嬢を睨みつけながら対峙すると、令嬢は「何よ?」と少し怯えながらも睨み返してきた。
「もう高等部なのですから、少しはご自分で何とかなさったらどうですの?人に頼って、思い通りに行かなければ怒鳴って…はぁ、親の顔が見てみたい。……あら、子爵にはお会いした事がありましたわ!立派なご両親をお持ちなのですから、ご両親の為にももっとしっかりなさってはどうです?」
勢いに任せ捲くし立てれば、令嬢は口をパクパクする。
背後のメアリ様方も同様に口をあんぐりと開けていたので「はしたなくてよ?」と声をかけておいた。
そして、クルリと振り返りクレア様に目を向ける。
突然の出来事に驚きを隠せずクレア様は目を見開いていた。
「貴女もっ!」
ズビシッと扇子をクレア様に向け睨みつける。
クレア様はまさか自分にも向かって来るとは思っていなかったのか「ふぇ?」と情けない声を出した。
「貴女、お腹が空いてるのではなくて?そんな物騒な物はさっさとしまって、あっちで一緒に食べましょう!今日はAランチもBランチもとても美味しいのよ。」
ニッコリと微笑み手を差し出せば、クレア様は「え?え?」と困惑し…発動した魔法を見やる。
「…どうやって消せばいいの?」
クレア様が泣きそうな顔で問いかけてくる。
やはり、消し方も知らずに発動したようだ。
「そんなものは体内に“戻れ“とでも念じれば消えます。ほら、早く行きましょう!」
急かすように声をかければ、クレア様が慌てる。
そして目を瞑り「戻れー!」とクレア様が叫んだ。
目の前の禍々しい魔力は一瞬にして霧散し…光の魔力だけが体内へと吸収されていく。
それが信じられなかったのか、その場にいた方々がポカーンと口を開いて固まった。
「ロマネス殿下も物騒ですわね。」
火魔法を発動していたロマネス殿下に、思い切り水魔法をぶっかけて火を消す。
「室内で火魔法なんて…もう少し周囲に気を配って頂きたいものです。」
ふぅ…と溜息を漏らすが、ロマネス殿下はキョトンとしたまま動かなかった。
「ほらっ、クレア様!行きますよ?」
クレア様に手を差し出すと、クレア様はその手にそっと自身の手を乗せる。
エスコートするように席に戻ると、リオンがクレア様の席を用意してくれていた。
「どちらが良い?そうだ、折角だから両方にしましょう!」
クレア様を席に座らせ、私は紅茶のお代わりを持ってきてくれたお姉さんに声をかけ…ハーフ&ハーフでお願いしてみた。
料金を二つ分払うからと頼めば、お姉さんは首を振って一つ分で大丈夫と微笑む。
素敵なお姉さんだ。
「先に紅茶をお持ちしますね。」
「えぇ、お願いします。」
そう言うとすぐにクレア様の前に紅茶が置かれた。
クレア様が戸惑いながら私達を見渡す。
「私…その…マナーとか知らなくて…。」
おずおずと小さな声で尋ねてくるので、私達は首を左右に振る。
「此処は学園のカフェ。お茶会とかではないから、気にせず味を楽しんで?」
「そうそう、今は授業でも何でもないんだから!」
私とリオンがニッコリと笑って紅茶を飲むと、クレア様は少しホッとした顔でカップに口を付けた。
暫くお茶を楽しんでいれば、先程のお姉さんが料理を運んでくる。
「美味しそう!」
クレア様の前に並んだのはグリルチキンと白身魚のハーフ&ハーフだ。
両方味わえるようにソースが別添えになっている。
慣れない手つきで食べ始めれるクレア様。
「失礼!こうやって持って、こうやって切ると食べやすいわよ?」
クレア様にナイフとフォークの使い方を教えれば、早速真似て食べるクレア様。
どうやら食べやすくなったようで、どんどん食が進む。
女の子一人に食べさせる訳にいかないので、私は魔法鞄からお手製のアップルパイを出した。
以前に多めに作って置いた物だ。
「食後に良かったら食べてね。」
そう声をかけ、私達はアップルパイを頬張る。
うん!美味しい。
「……こんな風にランチするの初めて。」
カチャリ…と食器を置いて、クレア様は小さな声で呟いた。
同じようにフォークを置くと、私はクレア様に向き直る。
「突然、貴族になって…学園に通い出したかと思ったら謹慎になって…大変でしたわね。」
「周りは知らない人達ばかりで、どうしたら良いか分からなかったんじゃない?」
私とリオンが優しい声で問いかければ、クレア様は大きな瞳を潤ませる。
「でも、まだまだ学園生活は始まったばかり。これから少しずつ馴染んでいけば良いのではなくて?」
「僕には婚約者がいるから、そういった面では仲良くはなれないけど…友達としてなら歓迎だよ。」
リオンと顔を見合わせ、ニッコリと微笑むと…クレア様は堪えていた涙をボロボロと流し出した。
「わた…わたし…知らない事ばかりで…どうしたらいいか…分からなくて……。」
クレア様は顔をぐしゃぐしゃにしながら、辿々しく話す。
それに私もリオンも頷く。
「少しずつ…ゆっくり知っていけば良いよ。」
「私達に手伝える事なら言ってね?」
そう言ってハンカチを差し出すと…クレア様は子供のように泣き出した。
そんなクレア様に私は身を寄せ、そっと肩を抱き寄せる。
「大丈夫…ゆっくりで良いから楽しい事を見つけようね。」
耳元で優しく囁けば、クレア様は何度も何度も頷いて…私の胸へ顔を埋めて泣いた。
「………結局、双子が収めるんじゃないか。」
少し離れた位置から見ていたクロード殿下は溜息混じりに呟いた。
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最終的にはリリアとリオンという、いつもの流れです。




