閑話 別邸での生活④
一番奥にある厨房を覗くと5人の料理人が居た。
「休憩中にすみません。見学しても大丈夫ですか?」
料理人の中にはテリトリーに入られるのを嫌う人もいるが、我が家は大丈夫そうだった。
「話は伺ってます。好きなように見て行ってください」
パッと見が少し厳つい料理長のハイムさんは、顔をクシャッとさせて笑顔で対応してくれた。
まだ40代くらいの男性で、周りの料理人は30代くらいだろうか…
厨房は本邸に比べ少し手狭に感じる。
火を使うコンロは5口で、オーブンは3つ。
この世界では火は魔石を利用した物が主流で、庶民の一部では薪を使うところもあるそうだ。
綺麗に磨かれた作業台を見て、この邸の料理人も優秀なのだとわかる。
次に隣の食料庫に案内してもらうと、壁一面が棚になっており様々な食料が種類別に置かれている。
だが、此処には本邸と違い凄く小さな冷蔵庫しかなかった。
「冷蔵庫はこのサイズで足りるのですか?」
この邸の全ての者に出すには小さ過ぎると思ってハイムさんに聞いてみると首を振って苦笑いを浮かべる。
「冷蔵庫に使う魔石に定期的に魔力を注がなければいけなくてね、それ程の魔力を持った者が邸には居ないんだよ。
それに王都では市場に行けば直ぐに新鮮な物が手に入るし、このサイズでも足りないことはないよ。」
なるほど。
長時間冷やし続ける冷蔵庫には魔石に定期的に魔力の補充が必要なのだな…
本邸の大きな冷蔵庫を思い出す。
あれを管理してたのは料理長のバルトさんだ。
彼は…とても多くの魔力を保有しているのだろうか?
うーん。と唸りながら考えていると側にいたマリーが「どうかなさいましたか?」と小声で話しかけてきた。
「バルトさんの魔力はとても多いのかなって考えてました。」
そのままを伝えると、マリーは嬉しそうに微笑む
「バルトは元は魔法省の料理人で、奥様の御眼鏡に適い公爵家専属の料理人になりました。」
マリーの頰が少し赤らんで、どこか誇らしげに話してくれる。
「思ったんだけど…バルトさんはマリーの恋人なの?」
不思議に思い、そのままを口にするとマリーは更に赤くなり照れ臭そうに教えてくれる。
「バルトは私の旦那です。」
その言葉に驚き、思わず口を開けたまま固まってしまった。
私の後ろに居たリオンもどうやら固まっているようだ。
し…知らなかった。
確かに仲良さそうだなとは思ってたけど…なるほど。
マリーを見れば嬉しそうに恥ずかしそうにしていて、幸せなんだなと表情を見ればすぐに分かる。
なんだか私まで嬉しいし、恥ずかしいのが移ってしまいそうだ。
今度ゆっくり馴れ初めとか聞きたいな。
マリーや他の使用人の事をもっと知りたいと思う。
「さて、こんな感じだが…他にどこか見たいとこはありますかな?」
ハイムさんが厨房と食料庫を簡単に案内してくれた。
ふと、果実の並ぶ棚に目がいく。
秋の味覚の林檎が並んでいる
芯をくり抜きバターと少しの砂糖を入れてオーブンで焼けば簡単なおやつになる。
田舎のお婆ちゃんの家で昔食べたやつ!
食べたくなってハイムさんにお願いすると、少し驚いてから…すぐに作ってくれた。
どうやら、この世界の庶民の家庭でも作る事があるそうだ。
良かった…
どうやら私が知ってる事に驚いただけみたい。
暫くするとオーブンからは甘い匂いが漂ってくる。
その香りに後ろ髪を引かれながら、ダイニングルームに移り、リオンとマリー達と待っているとハイムさんが持ってきてくれた。
マリーが林檎に合う紅茶を入れてくれ、熱々の焼き林檎を味わった。
甘くて、バターがよく合う。
更にレーズンも入っていて驚いた。
40分としっかり焼いた林檎は中の部分が蕩けるほど柔らかくて…
スッキリとしたアールグレイのストレートティーが、甘さを残しつつ喉を流れる。
リオンを見ればいつもの美味しいポーズで、周りを魅了していた。
焼き林檎を堪能してると、学園から帰ってきたお兄様も匂いに釣られてダイニングに来る。
「ただいま。美味しそうなの食べてるね!」
僕も同じのと言うと直ぐに出てくる。
どうやらお兄様が帰ってくる時間に合わせて用意していたらしい。
お兄様もおやつに混ざって今日の探索の話をしたり、お兄様の学園の話を聞いたりした。
今日は何だか充実した楽しい一日でした。
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7月12日は予定があり、更新が出来ません。




