事実不確認
その時の状況を、若い事務員さんは恐る恐る話してくれた。
入学して一ヶ月が過ぎた頃、その日は仕事が中々片付かず…若い事務員さんが一人で学園に残っていた。
そこに、チャミシル辺境伯が突撃してきたという。
「娘がクレア・ポンシュワール伯爵令嬢に暴力を振るわれた。」と激怒していたらしい。
目立つ外傷は無いものの、突然の事にチャミシル様は精神的に参ってしまったと…。
だが、学園側としては片方からの言い分だけでは通らないと説明した。
すると、チャミシル辺境伯は「娘の話では、リリア・クリスティア公爵令嬢が目撃していた。」と言い…すぐに対処するよう求められた。
翌日、リリア・クリスティア公爵令嬢に事実確認しようとしたが…不在。
学園長に相談すると、その場にチャミシル辺境伯が再び乗り込んできたそうだ。
チャミシル辺境伯の圧に負け…私への事実確認をしないまま、クレア様は謹慎となった。
…と、言う事らしい。
「でも…それでしたら、私が登校してから確認をするべきでは無いのでしょうか?」
事実確認もせず、チャミシル辺境伯の圧に負けるなど…学園的に問題にはならないのだろうか?
「あ…その…えっと…す…すみません!!わ…忘れていました。」
若い事務員さんは今にも泣きそうな顔で謝罪してきたが…相手が違う。
謝罪すべき相手は、クレア様だ。
「私…目撃はしてませんよ?」
「…え?」
私の言葉に、何を言っているのか理解が追いつかない若い事務員さん。
その横で先輩事務員さんは般若のような面構えで後輩を見つめている。
…こ…こわっ!
「…ですから、私はクレア様がチャミシル様に暴力を振るった現場を見てはいません。」
今度はより分かりやすく、丁寧に説明する。
その意味を少しずつ理解して来たのか、若い事務員さんは顔を真っ青にし…口を開けガタガタと震え出す。
「で…では!クレアさんが暴力を振るったという事実は!?」
誰かに助けを求めるようにキョロキョロとし、そして誰も助けてくれない事に怯える若い事務員さん。
…助けようにも助けられないでしょ。
「事実の証明は難しいでしょう…今から新たな目撃者を探すにしても時間が経ち過ぎてます。何より…既にクレアさんは謹慎処分になっていますからね。」
事実がどうであれ…学園長が決め、執行された処罰は今更元には戻せない。
それこそ、時を戻さない限り不可能だろう。
私達のスキルであっても時は戻らない。
それにしても…チャミシル辺境伯は余程、娘が可愛いのだろうか?
いや、どんな親も娘が暴力を振るわれたと聞いたら同じか。
…ふと、チャミシル辺境伯を思い出す。
誕生日の夜会で会ったのが最後だが…あの時には何も言っていなかったな。
暴力事件があったのは、それよりも前…。
私達がワインバル王国へ行った頃だと言うから、何か一言あって良かったんじゃないかな?
なんで…その事には触れなかったんだろう?
「あ…あの!私はどうしたら良いでしょう?」
アワアワとし、混乱する若い事務員さんに…先輩事務員さんは般若の顔から普通に戻る。
あれ?怒るの止めたのかな?
「後で、学園長と三人でゆっくり今後の方針を決めましょうね。」
優しい声と穏やかな笑みで先輩事務員さんは、若い事務員さんを立たせる。
それに安堵し、若い事務員さんは自身の机へと戻っていく。
…何故、あれで安堵するのだろうか?
明らかに怒られる場面で笑みを浮かべるなど、恐怖しかないではないか!?
しかも、内容はかなり怖かったよね?
この先輩事務員さん…二人纏めてお説教するのかな?
「もう…宜しいでしょうか?後始末…いえ、後処理がございますので。」
和かに微笑み…先輩事務員さんが退席していった。
「この後、少しだけ二人のお時間をくれないかな?」
暫し呆然として、事務員さんの後ろ姿を見ていた私達に…魔法学の先生が立ち上がり声をかけた。
私とリオンは互いに顔を見合わせ頷くと、先生に続いて事務室を出るのだった。
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遅くなり申し訳ないです。
そして、よく確認ができなかったので誤字が多かったら申し訳ございません。




