渦巻く思考
クレア様がチャミシル様に暴力…。
そんな事が果たして有り得るのだろうか…と思ったが…。
クレア様なら遣りかねないかな?と思ってしまったのは…どうやら私だけではなかったようだ。
隣に座るリオンも苦笑している。
「チャミシル様はどのような怪我を負われたのでしょうか?」
私もリオンも学園を休みがちだったから、チャミシル様が怪我を負っていた事を知らなかった。
もしかしたら、治癒魔法を要するような怪我だったのだろうか?
「いえ、目立った傷はなかったそうです。…ですが、学園内とはいえクレアさんは伯爵家、チャミシルさんは辺境伯家と家格に差もあり…どうやらチャミシル辺境伯から直々に抗議があったようです。」
同じ伯爵ではあるが辺境伯は国防を担う為、侯爵家の位に近い。
その為、家格には差が生じる。
学園では、身分は関係無いとは言われているが…それでも問題を起こせば話は別だ。
学園生活で相手を侮辱したなどとは違い、暴力沙汰にまで発展してしまえば貴族の親も黙ってはいないだろう。
まぁ…それが授業中だった場合には通らないんだろうけども。
「その…暴力を振るった際に目撃者はいたのでしょうか?」
でっち上げでは無いと思うが…私はチャミシル様とクレア様の関係が気になった。
チャミシル様がもし…クレア様の事をヒロインだと思っていたら…?
…それは、つまり…チャミシル様も私と同じ転生者を意味するのでは無いだろうか…。
そして…この世界が”どんな物語”で”どんな結末”を迎えるのかを知っていたとしたら…。
…そうだとしたら、私がどうなる運命なのかも知っているはずだ。
…悪役令嬢の末路は、無慈悲で残酷なのだろうか。
事務員さんが資料を確認する間の、ほんの数秒…。
私の頭には色々な考えが渦巻いていた。
そして…時折思い出すのは、チャミシル様の人を見下すような嫌な笑い方と…冷たい表情。
…だが、もしチャミシル様が転生者なのだとしたら…イベントを放棄した理由は何なのだろう?
何故…ヒロインを押し退けて掴んだイベントを自ら捨ててしまったのか…。
その謎だけが残る。
「目撃者は………え?」
「うん?どうしたんだい?」
事務員さんは書類を持ったまま困惑した表情で固まり、それを不審に思った魔法学の先生が事務員さんから書類を奪って中を確認する。
「…おや?これは…どう言う事だろうか?」
魔法学の先生も同じように困惑し、首を傾げると…私とリオンに書類を渡した。
そんなに吃驚するような事が書いてあるのだろうか…と、リオンと共に書類に目を通す。
「「え?…どういう事っ!?」」
中身を確認した私とリオンは、思わず大きな声で叫んだ。
目撃者の欄には何故か私の名前が書いてあったのだ。
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今日は短めです、すみません。




