ささくれた心と変わらないリオン
ランチを終え…午後は騎士団で訓練をし、夕方…邸に戻る頃には私の精神はかなり疲弊していた。
メアリ様方とチャミシル様の事や、ロマネス殿下の事…何よりイベントだったかもしれないという事で頭はいっぱいになってしまったのだ。
出来る事なら邸の私室のベッドにダイブし…早めに就寝したい。
いや、お風呂は入りたいかな…。
湯船にリラックス出来るような香りを入れて、ゆっくり浸かりたい。
そんな事を思いながら私室で着替えを終えると、何故かリオンが訪ねてきた。
色々と話したい事もあるけど、出来たら今日は休みたいな…。
…と、思っていたが…リオンはそれを許しはしなかった。
私が入室を許可すると、笑顔のリオンが私の方へ歩み寄り…私の手首を掴んだのだ。
そして、リオンに引っ張られるように部屋を出て到着したのは…まさかの厨房?
調理台の前に私を立たせると、その向かい側…いつもの位置にリオンが立った。
すると、ハイムさんが次々と私の前に材料を並べて去っていく。
「前菜でも主菜でも副菜でも…デザートでも良いから何かを作って!」
目の前のリオンはニッコリと笑って、とんでもない事を言ってきた。
ご…拷問か?
私は知らないところでリオンの逆鱗にでも触れたのだろうか?
「今日のリリアはなんだか心がささくれてるから、料理して美味しい物を食べた方が良いと思うんだよね!ついでに、僕に愚痴を吐き出しなよ。」
苦笑するリオンに、私は一瞬…ときめいた。
気遣ってくれていたのかと喜びかけたが…出来たら今日は休みたいんですよね。
「…作る…の?」
目の前の材料を見つめ…そしてリオンを見て呟く。
そんな私にリオンは首を傾げる。
「…作らないの?」
リオンのコテンと傾げたあの顔は反則だと思う。
私は大量の材料から鶏肉、玉ねぎ、ブロッコリー、マカロニ、小麦粉、牛乳、オリーブオイルを選び出した。
鶏肉はモモを一口サイズに切って塩胡椒して、皮面をカリッと焼く。
ひっくり返したら蓋をして中まで火を通す。
玉ねぎも透き通るまで炒めておく。
ブロッコリーは房を分けて茹でる。
最後にたっぷりのお湯でマカロニを茹でる。
フライパンにオリーブオイルを入れ、同量の小麦粉を入れて粉っぽさが無くなるまで混ぜ混ぜ…。
牛乳を注ぎ、泡立て器へと持ち変えて混ぜ混ぜ。
塩胡椒で味を整えたら、ホワイトソースの完成だ。
普通はバターで作るが…今日はあっさり食べたい。
コク深くなくて良いのだ。
「…愚痴らないの?」
耐熱性の器に具材を並べ、ホワイトソースをかけているとリオンが不思議そうに私を見つめる。
疲れてると料理中は無言になってしまうから…オーブンに入れてから話そうと思う。
手を止めることなくホワイトソースの上にチーズをたっぷりかけて、オーブンに入れた。
「ふぅ…お待たせ。」
リオンと共にオーブンの近くまで移動し、焼き加減を見ながら私は今日あった事を話し出した。
やっと話し始めた私に、リオンはホッとした顔を私に向ける。
どうやら…かなり心配をかけてしまっていたらしい。
チャミシル様の事、ロマネス殿下の事…イベントの可能性などを話せば、リオンは最後まで黙って聞いてくれる。
そして、話し終えると…何故か頭をポンポンと撫でられた。
久しぶりの事に私は戸惑いながらも、その温もりが心地良くて…顔が綻んだ。
「やっと…笑った。」
「…え?」
リオンに言われて、私は思わずキョトンとする。
言われるまで気づかなかったけど…自然に笑えてなかったかもしれない。
「やっぱり、リリアは笑顔じゃないと!…料理して気晴らしになったかな?オーブンから美味しそうな香りがするから一緒に食べよう?」
そう言ってリオンは優しい笑顔でオーブンを覗き込んだ。
オーブンに幸せが詰まっているかのように、ワクワクとした顔をするリオンに思わずクスリと笑ってしまう。
まだ幼い日のリオンと重なって…変わらない笑顔に嬉しくなった。
「出来立てのグラタンは熱々トロトロだから気をつけて食べないとね!」
リオンの背後から同じようにオーブンを覗き込み、話しかけると…リオンは嬉しそうに振り返り笑顔で頷いた。
ブクマ・評価・感想・誤字報告ありがとうございます。
今日も遅くなり申し訳ないです。
つい最近食べたばかりのグラタンだったりします。




