リリア、覗き見に失敗
ハンザン様とはお茶の話や、今後育てたい植物などの話で盛り上がり…王都の別邸に着いたのは夜遅くになってしまった。
リオンに止められていなければ、恐らく…深夜になっていたかもしれない。
…ハンザン様も疲れてしまっただろう…と、心配したが本人は至って元気だった。
研究所では徹夜も多かったから体力には自信があるという。
確かに…よく見れば騎士ほどでは無いががっしりとした体つきだと思う。
畑仕事で日に焼けた肌…そこそこの体格…そして、思ったよりも整った顔立ち。
髪の毛も手入れをすれば艶めく焦げ茶色の髪に、深い青色の瞳はアーモンド型をしている。
…攻略対象か?
その日は色々とあって、私もリオンも部屋に戻るとすぐに休んでしまった。
翌日は学園がある為、朝食の時に家族にハンザン様を紹介する。
暫くは別邸で過ごしてもらい…事件が解決し彼が自由の身になったらクリスティア領で暮らし、私達の元で働いてもらう予定だと説明すると…。
何故か諦めに似た目で見られてしまった。
…残念な子とかじゃないんだから!
ちゃんと…それなりに…私なりに…恐らく…計画的ではあると思うんだけど、上手く伝わってないよね?
お父様の了承をもらい、ハンザン様は別邸で生活する事が決まった。
邸で暇ならば庭師の大五郎さんと土弄りもして良いとまで言って頂き、ハンザン様も嬉しそうにしていた。
…で、今ですね。
私…学園のカフェ近くの中庭で、ランチをご一緒する予定のジュード殿下を待っているんですけども。
令嬢の集団が目に入ったから、木陰からそっと覗き見してますの。
勿論、先頭を行くのはメアリ様。
それに続いて、いつもの取巻き。
さーて、今日のターゲットは?
…って、チャミシル様なの?
え?仲間じゃ無いの?
昨日の友は今日の敵ってやつ?
あれ?逆か…でもでも!
か…囲い込みましたよ?
背後も逃げれませんの事よ?
…あれって私のポジションじゃ無いのかな…とか、一瞬だけ頭を過ぎる。
本当に一瞬。
一瞬過ぎて、私も気づかないくらいの速さ。
「貴女!ジュード殿下からロマネス殿下に鞍替えなさりましたの?」
「ずーっと、私達と一緒にジュード殿下をお慕いしていましたのに!」
「どういう心境の変化か教えて下さらない?」
メアリ様方に詰め寄られているチャミシル様の顔は…残念ながら、メアリ様が邪魔で見えない。
それにしても…いつも思うけど、掛け合いの練習してたりするのかな?
問いかけが順番になっているし、誰も詰まったり噛んだりしないんだよね!
もしや…これが伝統芸ってやつか?
「私は…その…ジュード殿下は最近はリリア様とご一緒する事が多いので、ロマネス殿下が少し寂しそうにしてらっしゃるのを放っておけないだけです。」
少し吃りながら、チャミシル様が答える。
それをメアリ様はフンっと鼻を鳴らし、顔を上に上げ…チャミシル様を見下すような格好になった。
後ろ姿だから、実際はどうか分からないけど…多分…間違ってないと思う。
「何様ですの?寂しそうにしてるから?そうやって自分だけ抜け駆けしようと企んでいるのでしょ?」
「「なんて、浅ましい!」」
息の合ったコンボに…どうやらチャミシル様は何も言えないようだ。
…本当は絶対に練習してるよね?
でも…どうしたものかしら…。
助けに行く?それとも様子見?
…助けに行っても余計なお世話かな?
そもそも私がジュード殿下を独り占めしてる訳だし。
うーん…。
考え込んでいると、頭上から糸が垂れて来たのが見え…って!?
「うわっ!」
え?マイマイガの幼虫?…気持ち悪い!!
驚きのあまり令嬢らしからぬ声を発し…飛び退く私。
「…そこで何をしてらっしゃるの?」
虫に夢中だった私に…メアリ様は冷ややかな声で私へと問いかけた。
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