変人は変人を呼ぶ
マッコリン子爵家の別荘にクリスティア家の馬車が到着するまで、私達は家庭菜園を片付けていた。
育っていた野菜は収穫し、残った苗は鉢へと移す。
準備ができた物から魔法鞄へ収納していくと…作業が終わる頃タイミング良く馬車が到着した。
私とリオンは馬で来たので、そのまま馬に跨った。
馬車にはハンザン様と荷物を詰め込む。
ハンザン様の話によれば、この別荘にはライル様だけが訪れ定期的に食べ物を運んでいたそうだ。
突然、姿を消しても大丈夫そうなのでハンザン様には暫くクリスティア家に居てもらう事にした。
因みにマッコリン子爵も事件に関与している為、捕縛命令が下り…現在は騎士団が王城で取り調べを行なっていると馬車の御者からクロード殿下の文を受け取った。
事件に関わった者は殆どが捕まり、今は裁きを待っている状態だ。
残すは、あと二人。
ロマネス殿下とチャミシル様だ。
…いや、もしかしたら…チャミシル辺境伯も…かな?
事件に関与はしてないが、国境の外壁へ穴を開けた犯人を隠匿しているように思う。
辺境伯家は国防に関わる為…かなりデリケートな話になりそうだな。
…その辺は大人な方々にお任せしたいかな…うん。
「リリアー、難しい顔してどうしたの?」
馬車の前を走っていたリオンは、後方にいた私へ近づき声をかけてきた。
…なんか、リオンが馬に乗るって見慣れてた筈なのに格好良く見える。
イケメンに成長しおって…昔はそっくりだったのに。
「あとは二人だなと改めて事件の事を考えていたの。」
「二人…で収まると良いけどね。」
ツンとした態度で答えると、リオンは苦笑し会話を続ける。
「それにしても…ハンザン様はリリアと少し似ていたね。」
「え?何処が?…1ミリも似てる所なんか無いと思うけど?」
別荘での遣り取りを思い出したのか、クスクスと笑いながらリオンが言うから私は思わず声を荒げてしまう。
「そうかな?思考も似てるし…言っている事も、やっている事も似てたよ?よく、奇声も上げてたし。」
「私そんなにへ…コホンッ…個性的じゃないと思うけど?」
おっと…変人って言いそうになったではないか。
危ない、危ない。
そんな私にリオンは勢いよく噴き出すと、馬に乗りながら爆笑し出した。
「どの口が言ってるのさ!リリアは他の誰より個性的だろ?…もう、笑わせないでよ!」
「むむぅ…私が個性的なら、リオンだって個性的なんだからね?私だけ変人扱いしないで!」
ヒィヒィ言いながら笑っているリオンに、私はムッとし…顔を背ける。
リオンは笑ったまま「ごめん、ごめん。」と謝罪の言葉を述べるが、反省の色は見えなかった。
「まぁ…リリアは予想通りにハンザン様を勧誘したね!畑の手入れをしていた時から興味津々だったでしょ?しかも、初めて見るお茶をゴクゴク飲んじゃったし…アレには驚いたよ。」
ウンウンと何やら納得しているリオンに、私は首を傾げる。
「…ハーブティーの話ってした事なかったっけ?昔、薔薇の実のお茶について少し触れたように思うけど…そういえば、結局は作ってなかったね。」
初めて見たハーブティーをリオンは怪しんだけど、私は前世で飲んだ事があったから…普通に飲めてしまった。
よく考えたら…そういうの作ってなかったわ。
…お茶もだけど、個人的には珈琲が飲みたい。
ポンっと脳裏に浮かんだ珈琲を思い出し…後悔した。
あの味と香り…中毒でもあるのってくらい恋しくなってくる。
前世の私は紅茶も好きだが、珈琲はもっと好きだったのだ。
珈琲は何としてでも手に入れたい!と思い始めてしまったではないか…。
「はぁ……珈琲は果たして存在するのかな?」
私はボソリと呟くと、帰ったら以前に聖女様から頂いた本を読み直す事を決意する。
そんな事を思っていると、前を走る馬車からハンザン様が顔を出した。
「ねぇ!珈琲って何?ハーブティーの話をしてたって事は飲み物って事だよね?その話、後で詳しく聞かせてくれない?」
…今にも身を乗り出しそうなハンザン様を宥める為、暫し休憩する事になったのだった。
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