勧誘成功
床に突っ伏していたハンザン様だったが、時間が経つにつれ私達に慣れたのか…今は私達の向かい側でハーブティーを啜っている。
…と、言っても…リオンが話し辛いからとハンザン様を立たせて席につかせたのだ。
ハンザン様がハーブティーを飲んでいるのを確認すると、リオンは今回の事件について話し始める。
ハンザン様がどの様にして事件に巻き込まれ…何をやらされていたのか。
リオンが、ザックリと説明を終える頃には目の前のハンザン様は口からハーブティーを垂れ流し…真っ青な顔で震えていた。
…そして話が終わるとテーブルにゴンッと頭を打ちつけ、何やらブツブツと言っている。
「ぼ…僕は…な…なんて事を…あああぁぁぁーーーー!!」
動物用の麻酔薬は、本来の用途とは違い…獣人に使われていた事。
そして、その獣人が人身売買されそうになっていた事にショックを受けたのだろう。
…ずっとテーブルに頭を打ちつけている。
「貴方の場合は、軟禁され薬を作らされていた上…その用途を打ち明けられていなかったから情状酌量の余地はあるのかなと…って、そろそろ頭を打つのは止めてもらえませんか?」
リオンが説明している今も頭を打ちつけているハンザン様を、リオンは慌てて止めた。
その額は赤く腫れて痛そうだ。
「うん、うん。…でもきっと僕の家は取り潰し…悪ければ、犯罪奴隷?拷問?幽閉?国外追放?もしくは…まさかの処刑!?あああぁぁぁーーー!!」
…悪役令嬢の末路を述べているようにしか思えないハンザン様。
そこまで酷い事にはならないと思うけど…。
「恐らく、麻酔薬に関しては獣王国へ資料を全て渡し…更にハンザン様の手元にある物は全て没収され、魔法による誓約を結ぶ事にはなると思われます…。」
獣人に効く麻酔薬など持っているだけで危険だと思うが、研究者にとっては自身の研究の没収は痛手だろう。
拳を握りしめ俯くハンザン様が心配になり、覗き込んだ。
「あっ…それは構わないよ?」
私の言葉にケロッとした顔で答えるハンザン様。
け…研究者なんだよね?
「僕にとっては仕方なくやっていた事だしね。…それよりも、幽閉とかで土いじりが出来ない方が辛いかな。」
エヘヘっと笑うハンザン様は、本当に植物を育てるのが好きなんだろうと思えた。
垂れ流したハーブティーを拭き、再びハーブティーを注ぐと…ゆっくりと味わうように飲み干す。
「マッコリン子爵家は今回の事があっても無くても、近い将来…爵位を返していたと思うしね。うちは貧乏で、此処だってチャミシル家が必要無くなったからと頂いたものなんだよね。」
ヘラヘラと笑いながらハンザン様は自身の事を話し出した。
マッコリン子爵家は領地も無く、収入はマッコリン子爵がチャミシル辺境伯領で働き稼いでいるお金とハンザン様が魔法薬研究所で働いた給料でカツカツの生活を送っていたらしい。
使用人への給料も払えず、家事はハンザン様のお母様が行なっているそうだ。
貴族の家と言うよりは平民の暮らしに近いだろう…。
だからハンザン様自らハーブティーが淹れられたのかと納得した。
「取り潰されたら…僕はどこに行くのかな?仕事も無いし、どうやって暮らせば良いんだろ…。」
眉を寄せ困ったなと笑うハンザン様は…本当に困っているようには見えなかった。
どちらかと言えば、やっと貴族じゃ無くなると安堵しているようにも見える。
「その時は私が貴方の雇用主になっても宜しいですか?こんな小娘ですが、貴方の生活を保障します。」
ドンッと胸を張り、ハンザン様に提案すると…困った顔のままハンザン様は私に答える。
「えー…?良いのかなぁ…僕、あんまり役に立たないかもよ?」
ナヨナヨっとヘラヘラっとするハンザン様に私もリオンも思わずツッコミを入れる。
「「いやいやいやいや、今段階で凄い事してますからっ!」」
私とリオンの反応にハンザン様はヘラッと笑う。
「じゃあ、お世話になっちゃおうかなぁ?よろしくねー。」
ブクマ・評価・感想・誤字報告ありがとうございます。
毎日遅くて、すみません。




