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たぶん...悪役令嬢だと思います  作者: 神楽 紫苑
第3章 私リリア!運命が動き出したの。
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緑の手

「…粗茶です。」

「「あ…ありがとうございます。」」


お勝手口から入った私とリオンは、特に建物から弾かれる事なくすんなりと室内に入った。

…態々、鍵を取り寄せた意味が無かったな。


ハンザン様はお勝手口から入った私達をビクビクしながらも応接間に通した。

すると、ハンザン様は私達に応接間で待つように言うと部屋を出た。

暫くすると、作業着を着替えたハンザン様はお茶の道具を持って応接間に戻ってきた。


使用人が居ないのか、ハンザン様自らお茶を用意し私達の前へと置く。

差し出されたお茶に手を伸ばす私とリオン。

だが、そのお茶の色に私とリオンの手が止まる。

初めて見るお茶の色にリオンは怪訝な表情を浮かべた…が。


私は迷わず口に含む。

スッキリとした香りが鼻を抜け…後味には檸檬が残る。

淡い緑色のこのお茶はハーブティーだ。


「…ミントとレモングラス…ですか。バランスがとても良く、美味しいですね。」

ホッと一息つくと…そんな私を見たリオンも同じようにハーブティーを口に含み、目を見開く。


この世界のハーブは主に薬として活用される。

それをお茶として楽しむなど…恐らく、そんな方は居ないのでは無いかと思う。


「おや、そのお茶を躊躇せずに飲む人なんて初めてだよ。…君達の事を聞いても良いかな?身なりは…僕よりもずっと身分が高いように思うけど…。」

怯えなのか、緊張なのか、ハンザン様は両膝を擦り…私とリオンをチラチラと見ながら不安そうに問いかける。

私はリオンと顔を見合わせると、リオンがハンザン様の問いに答えた。


「僕はリオン・クリスティアで、彼女は妹のリリアです。此処に来たのは…貴方が此処に軟禁されているとライルに聞いたからです。」

簡潔に答えるリオンに、ハンザン様は顔を青ざめ…アワアワとし出す。


「ク…クリスティア家って、公爵家じゃないか。わわわわっ…すっすみませんっ!無礼を…あわわわっ…ど…ど…どうしたら…。」

ハンザン様は私とリオンを何度も交互に見ると…とても動揺したのか、立ち上がり壁にビタッと張り付いて声を震わせた。

…こんな、見るからに動揺してますって方を見るのは初めてかもしれない。

キャラが濃いな…。


「お気になさらず…貴方はライル達の指示で、此処で薬を作らされていたんですよね?」

リオンはハンザン様へ微笑みかけると、此処での暮らしについて問いかけた。

ハンザン様は壁に張り付いたまま、話し出す。


「えっと…僕は王城で勤める予定だったんだけど、ある日突然、此処に押し込まれて…知らない男達に動物用の麻酔薬を作れって言われたんだけど。僕的には王城で働くのも嫌だったから、それなら薬作ってる方が良いかなって命令に従ったんだよね。」

…なんか、本人的には満足だったみたいに言ってるけど。

多分…薬がどんな用途で使われているかなんて知らないんだろうなと思う。


「…そもそも僕は魔獣や動物の生態に詳しいって思われてるけど、そうじゃ無いんだよね。他にやる事が無かっただけだったんだよ…僕は研究所にもそんなに未練は無かったし。まあ、王城で働くよりはマシかな?とは思ってたよ。」

壁に張り付いたまま、ハンザン様はエヘヘと笑った。

…優秀な研究員…なんだよね?


「今は…満ち足りてるように思えるのは、好きな事が出来ているからですか?」

お勝手口からいつでも別荘を出られると言うのに、逃げなかったところを見ると…此処には彼にとって理想の何かがあったと言うことかな?

私の問いかけに困ったように再びエヘヘと笑うハンザン様。


「…貴方の特殊スキルは“緑の手“…とかです?」

邸の裏の家庭菜園は、もうすぐ冬だと言うのに作物がしっかりと育っていた。

それも冬の野菜ではなく…夏野菜もあった。

山間だから今の季節は霜だって降りるだろう…そんな場所であんなに元気で瑞々しい野菜は育たない。

私の問いにキョトンとし、ハンザン様は再びアワアワとし出す。


「か…鑑定眼とか持ってるの?ぼ…僕の特殊スキルまで分かっちゃうの?家族だって知らないんだよ?え?え?ど…ど…どういう事!?」

混乱の渦に飲まれたハンザン様は、今度は床に突っ伏してしまった。

…この方、本当に貴族なのでしょうか?


「鑑定眼は持っておりませんよ?畑の野菜がとても美味しそうに育っていたので聞いただけです。…此処にいるのは植物を自由に育てられるからですか?」

此処にいるメリットを考えた時…それは何となくだけど家庭菜園にあるのかなと思えた。

態々、農作業が出来る服に着替えてまで手入れをしていたのだ…きっと植物を育てるのが好きなのだろう。


“緑の手“とは言っても、そのスキルは植物を育てるのに特化したもので…他には全く役に立たない。

これが、農家ならば重宝しただろう。

そして、貴族でも領地を持つ家ならば喜ばれただろう。

だが、マッコリン子爵家は領地を持たない。


家族が知らない特殊スキルと言っていたが…ごく稀に後天的に得る特殊スキルがあると聞いた事がある。

物事を突き詰めた先に手に入るという話だが、恐らくハンザン様の“緑の手“はそうやって手に入れたスキルなのだと思う。



「いつか…ハンザン様には私達の領地で暮らしてもらいたいものです。」

“緑の手“を持っていれば…まだ出会えていない懐かしい植物達を育ててもらえるかもしれない。

そんな希望から、私は本音を零した。

ブクマ・評価・感想・誤字報告ありがとうございます。

今日も遅くすみません。

そして慌てて更新するので、誤字が多かったら申し訳ないです。

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