モヤっとして走り出す
話も終わり、羊皮紙をクロード殿下に返そうと…ふと最後のページに手が止まった。
成人男性の姿絵だ…。
名前は…ハンザン・マッコリンとある。
「その人…僕、以前にマリア様の所で会ったよ?」
私が姿絵を凝視していると、頭の上からアレスの声がし…吃驚して顔を上げた。
私が顔を上げた事でアレスは目を見開き、すぐに表情を戻し姿絵に目を向ける。
「マリア様の所って、魔法薬研究所にいるの?」
私の問いにアレスは首を左右に振って否定する。
「マリア様の所に通い出した頃に一度だけ紹介されたんだ。確か…王城に勤める事になったって落ち込んでたよ。」
アレスはその時の事を思い出しながら教えてくれた。
「…王城勤務が嫌だったの?」
普通は喜ぶところじゃないのだろうか?と、アレスに問いかけると…アレスは苦笑した。
「魔法薬研究所の人達は研究したい人ばかりだから…王城に勤めちゃえば無理だろ?」
「…なるほど。」
魔法薬研究所は正に研究オタクの集まりと言っても過言では無い。
そんな人が王城勤務を喜ぶとは思えない。
「…その姿絵の人物は王城には勤めていないよ。勤める予定だったが…急遽、マッコリン家に養子に入ったライルが王城で働く事になったからね。」
私とアレスの会話にクロード殿下が混ざる。
そういえば、そんな事をライルの証言で聞いたような……ん?
「待ってください、彼は魔法薬研究所を辞めて…王城にも勤務されてないのですか?戻っても無いって事?」
「ああ、マッコリン子爵の報告によれば療養中という事だが…どこで療養しているかは分からない。」
それって…つまり…。
「つまり…安否確認は出来ていないという事ですか?」
私に変わって発言したのはリオンだった。
リオンは私の持っていた羊皮紙を奪うと、中身を確認する。
「年齢は…僕達よりも12歳上か。アレスは会ったのは一度きりなの?それとも何度か会ってる?…彼はどんな研究をしていたのかな?」
羊皮紙に目を通したリオンは、アレスに次々と質問する。
アレスはそれに一つずつ答える。
「僕が会ったのは彼が研究所を辞める日で、その一度きりだよ。確か魔獣や動物などの生態系を研究していたとマリア様が言っていたと思う…未だに彼以上に魔獣や動物の生態に詳しい研究員は居ないって溢してた事があったから、良く覚えてるよ。」
一度きりしか会っていない人なのに覚えていたのは、それほど優秀な方だったからなのだろう。
それにしても…それほどの研究をスッパリと諦めたのだろうか?
あー…なんか閃きそうなのに…閃かない。
なんかこう…忘れてる事でもあるのかな?
『あー…ダメだ。リーオーンー…なんか閃かない?
』
私と同じように難しい顔をしたリオンにテレパシーで問いかける。
なんか畏まって話すのが面倒で、普通に話すにはテレパシーしかないかなって思ったんだけど。
『ちょっ…えー?僕もなんか忘れてるような気がするんだよね。なんだっけ?』
どうやらリオンも私と同じでモヤっとしてるようだ。
モヤっとした気持ち…本当に気持ち悪いよね。
『動物……獣人にも詳しかったのかな?…魔法薬研究所の研究員…薬…。』
「「あっ!!」」
薬という言葉にピンときた私とリオンは、二人揃って立ち上がる。
「獣人を攫う時に使った薬だ!」
「そう!あの薬を作れそうな人物!」
頭に掛かっていた霧が晴れ…私もリオンもある可能性に思い至る。
魔法薬研究所で魔獣と動物に詳しかったのなら…。
もしかしたら、何処かでその研究をしているのかも知れない。
…どこで…?
「…あの鍵の束…。」
私とリオンの言葉にアレスがメイカー公爵の邸を思い出し…呟く。
その言葉に私もリオンも反応する。
「もしかして…あの鍵は薬を研究してる場所の鍵?」
「だけど、それが何処にあるかだね…。」
鍵があっても、それが何処にあるかが分からない以上…確認のしようがない。
「「よし、ライルに尋問しよう!」」
此処で悩んでいても答えなんか無い!
私とリオンは互いに頷くと、ライルの居る部屋へと向かった。
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遅くなって申し訳ないです。




