仕組まれた恋の行方
クロード殿下の話によると…。
チャミシル辺境伯家は獣王国に面している事から、初めは獣王国へ留学するようにとご両親が手配していたそうだ。
だが、本人はそれを拒んだ。
…チャミシル嬢は幼少期に旅行で訪れたワインバル王国で、ちょっとした出来事があり…どうしてもワインバル王国へ行きたいと両親に頼み込んだ事でワインバル王国に留学したらしい。
「…出来事…ですか?」
一体…そこで何があったのだろうか?
話を終えたクロード殿下へ質問すると、クロード殿下はその出来事を知っていたらしく話し始める。
「彼女はワインバル王国のとある邸で迷子になったそうだ。」
…それ…その邸ってアレですよね?
伏せる必要なく無い?
「…メイカー公爵家では無いのですか?」
展開的にそうかと思って聞いてみたが…クロード殿下は首を横に振って否定する。
「違う伯爵家だ。…だが、そこの令息とライルは友人関係で…迷子になったチャミシル嬢を見つけたのはライルだった。」
なるほど、そんな以前からお知り合いだったのね。
幼少期に年上の男の子に助けられて、恋でもしたのかな?
「たぶん、君たちが想像した通りだよ。チャミシル嬢はライルに恋をし…チャミシル嬢から頻繁に手紙を送っていたそうだ。」
そんな可愛らしいところもあるのだなと…チャミシル嬢を思い浮かべてみた。
…なんかイメージと違う。
もっと…捻くれてそうな顔してるのにね。
「まぁ、仕組まれた出会いだったんだけどね。」
「「「「え!?」」」」
クロード殿下の最後の言葉に私たち兄妹は吃驚して声を上げた。
「その伯爵家はメイカー公爵家と同じ派閥で、メイカー公爵が伯爵に命じてチャミシル辺境伯を邸に招いたそうだ。そこで息子のライルと出会うようにした。」
「伯爵家は以前からチャミシル辺境伯家と交流があったのですか?」
そもそも…ワインバル王国とは反対に位置するチャミシル家とどうやって知り合ったのだろうか?と問いかける。
クロード殿下はいつの間にか手に持っていた羊皮紙の束を捲った。
「それも仕組まれた事のようだね。伯爵家が獣王国へ旅行に行く際、チャミシル辺境伯の領地で辺境伯家に助けられた事があったらしい。そのお礼に自身の邸に招いたようだ。」
そんなに前から今回の事件が関係してたとか…驚きである。
リシェ様はいつ気づいたのだろう…?
そう思いリシェ様を見た。
「ん?どうかしたの?」
私の視線に気づいたリシェ様は相当にお気に召した光り輝く翡翠色の葡萄を今も食していた。
「リシェ様は、いつどこで…メイカー公爵の計画を知ったのです?」
私の質問に口に含んでいた葡萄を噴き出しそうになり慌てて両手で口を押さえるリシェ様。
その後、変なところに入ったのか暫く咽せて…さらに紅茶を飲みホッとしてからリシェ様は私の質問に答える。
「僕が知ったのは、ジュード殿下が留学の為にワインバル王国に来て間もない頃だったかな?ロマネスとライルが王城の廊下で会話してるのを聞いたんだ。…と言うか、その時のライルは服装や髪型が侍従の時と違っていてね…メイカー公爵家の三男に見えたよ。その後、ジュード殿下から紹介された時は…よく似てるなとは思ったけど。」
「…え?ライルの事を知っていたんですか?」
クロード殿下の事は呼び捨てでジュード殿下は殿下と付けるのにも驚いたし、人身売買の話を王城の廊下で話していた事にも驚いたが…その相手がメイカー公爵家の三男・ライルだと分かっていた事に驚いた。
リシェ様はクロード殿下とは友人だが、ジュード殿下とは面識も殆どなかったそうだ。
なのでクロード殿下が呼び捨てなのも、ジュード殿下とは親しく…侍従がまさかライル本人とは思っていなかったようだ。
そして、もう一つの疑問には…。
「…ほら、ロマネスは頭が悪いから。目に見えて人が居なかったから大丈夫だと思ったんじゃ無い?」
でも結局はリシェ様が居たと言うね。
「ロマネス殿下はリシェ様に罪を擦りつけようとしてましたよね?ご存知だったのですか?」
「うん、廊下で話してたからね。」
…本当にお馬鹿なのね。
そう思ったのはどうやら私だけでは無かったようで…部屋にいる他の方々も微妙な顔してます。
「コホンッ…。クロード殿下の手に持っていらっしゃるのはチャミシル様の資料ですか?」
私を含む全員が何とも言えない顔をしていたので、私は一度咳払いをし…話題を変えるべくクロード殿下が手に持つ羊皮紙について聞いてみた。
クロード殿下は苦笑いを浮かべて頷くと、私に羊皮紙の束を渡す。
クロード殿下をチラリと目を見ると、クロード殿下は頷き中を見るように促したので私は羊皮紙の束を捲った。
そこにはチャミシル様とライル様についてビッシリと情報が書き込まれている。
「二人はどうやら本物の恋人関係になったようだよ。」
出会いから今まで…それこそ数え切れない程の手紙のやり取りと、時折忍んで会っていた事まで。
仕組まれた出会いが、本物に変わったのはいつだったのだろう?
…そして捕らわれたライルは今、何を思うのか気になった。
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