演習場の中心で…呟く
「きゃあぁぁぁーーー!!!」
演習場に叫び声が鳴り響く…。
ロマネス殿下は魔法が解けたのを見計らい、私へ斬りかかってきた。
だが、私は咄嗟にロマネス殿下の足元のブドウの蔓を掴み…ロマネス殿下の足へと引っ掛けて転ばした。
そして、踵を踏み鳴らし自身の剣を取り出した…ところで悲鳴が上がった。
タイミングがおかしい。
しかも叫んだのは魔法学の先生だ。
「い…今のが…噂の!?しかも、その剣!!」
私の足元に一瞬だけ現れた魔法陣と、そこから出てきた剣に驚きを隠せず…震える先生。
足元に転がるロマネス殿下を完全無視した先生は、私へと駆け寄り…これでもかという程に目を見開き剣を凝視している。
「…先生?」
流石にロマネス殿下を放っておいてはマズイだろうと声をかけると、先生はキラキラした瞳で私を見返す。
…中年男性にそんな顔されても困るし。
「あっ!すっ…すみません。ですが!その剣は魔法付与されてますよね?属性は?見る限り…あの伝説の鍛冶職人が誂えた物に思えるのですが、どこで手に入れたんです?」
興奮した先生は鼻息を荒くし、私へと問いかける。
いや…詰め寄ってる。
「7歳の誕生日に祖父から頂きました。おっしゃる通り伝説の鍛冶職人の誂えた物です。火魔法が付与された炎の魔剣です……って、それどころではなくてですね。」
「なっ!?…はあぁ…美しい!まさに国宝!いや、世界遺産レベルですよ!」
足元で蔓に絡まったロマネス殿下を何とかして欲しくて声をかけるも…興奮した先生は聞く耳を持たず。
「そして、先程の魔法陣!あれもクリスティア家の者でしか扱えないと聞きましたが本当ですか?詠唱も無く、踵を鳴らしただけで魔法陣が現れるとは!ぜひ!ぜひ、もう一度だけ見せてもらえませんか?」
剣を取り出す際の魔法陣にも興味を示し、一向に話を聞かない先生に…私は仕方なくもう一度踵を鳴らした。
魔法陣が現れるとそこに剣が吸い込まれていき、再度…踵を鳴らして剣を取り出して見せた。
先生は更に目を輝かせ、私と私の足元を交互に見ては…ほぅ…と恍惚の表情を浮かべる。
…どうやら、魔法オタクなのは確定だ。
「先生…ロマネス殿下を何とかしてもらえませんか?」
魔法陣も見せたので改めて先生に声をかければ、先生は正気に戻り慌てて足元のロマネス殿下を助け起こした。
そして…。
「ロマネスさん、これは魔法の模擬試験です!剣を出すなど何を考えているのですか?」
何とか立ち上がったロマネス殿下に先生が叱ると、ロマネス殿下はブスッとした顔でそっぽを向いてしまう。
「剣なら剣で正々堂々と勝負しても良いのですが…大丈夫です?」
私は先生の背後からロマネス殿下に話しかけると、不機嫌そうに「何がだ?」と返される。
「…剣も魔法も、どちらも私に負けてしまったらどうするんです?」
「どういう意味だ!」
そのままですが?
とは言えないので、私は笑顔で「では、剣でも対決しますか?」と問いかけた。
「…自信があるようだな?君は何級だ?」
………級?
級って何?とか思ってしまった。
初めて騎士団の段級位試験を受けてから日が経っていたので、ピンと来なかった。
「師範代です。」
私が自身の段級位について答えると、静寂が訪れる。
演習場には沢山の観客がいると言うのに…とても静かだ。
カサカサと葡萄の枯葉が目の前を舞い…それが落ちた頃、ロマネス殿下が反応した。
「…私は何級かと聞いたんだが?」
「ですから、師範代です。」
ロマネス殿下の質問にしっかりとお答えしているのに…どうも理解されていないらしい。
…段級位の最上が師範代だと、誰か私の代わりに分かりやすく説明をしてはくれないだろうか?
「失礼!…ロマネスさんの質問にリリアさんはちゃんとお答えしてますよ?」
魔法学の先生が間に入り、ロマネス殿下へ説明を始める。
グッジョブ!…なんか自分で師範代の説明とか、どんな自慢だよって思ってたとこもあるんだよね。
「騎士団の段級位試験は…級位、段位を取得後に準師範を経て師範代になると聞いてます。ですから、リリアさんは…最上位ですね!」
うん、と何かに納得しながら説明を終えた魔法学の先生にロマネス殿下は顔を強張らせる。
「…つまり、剣術も長けているのか?」
「そう…なりますね。」
恐る恐る私に問いかけたロマネス殿下に、私は困った様に笑い…頷く。
「「…………。」」
互いに無言まま見つめ合い…時が過ぎる。
生理的に無理めなので目を逸らして欲しいと思い始めた頃…ロマネス殿下は剣を腰へ戻した。
「…良いんです?」
「何がだ!」
今にも帰りそうなロマネス殿下に問い掛ければ、ムッとした顔で睨まれる。
「剣術…お相手しますよ?」
てっきり…剣術でも対戦するのかと思っていた私は今も剣を手に持ったままだ。
ロマネス殿下は、その剣をチラリと見て…更に私を見るとクルリと背を向け出口へと歩いて行ってしまった。
私はどうしたものかと、先生を見る。
先生もまた私を見て苦笑した。
「…終わりって事で、良いです?」
「そうですね、帰っちゃいましたしね。」
私と先生だけでなく、観客席からも微妙な空気が流れる。
「とりあえず…葡萄を回収しちゃいます。」
踏み荒らされてしまった葡萄の木から、まだ食べられそうな葡萄を慎重に選び…残りは火魔法で跡形も無く消す。
「先生!今日の魔法のリスト…どうして動物ばかりだったのですか?」
魔法鞄に葡萄を仕舞うと、疑問に思っていた事を先生に聞いた。
先生はニコニコと笑い、私へ近づいてくる。
「偶々です。…ですが、どうやらロマネスさんはあまり動物がお好きじゃなかった様ですね。リリアさんの魔法に彼は酷く苛ついていました…。」
そう言って先生は演習場から観客席の生徒へ解散するように声かけに行ってしまう。
「動物嫌いなのに…獣人を攫ったって事?」
私は一人、演習場の中心で呟いた。
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何ともハッキリしない戦いが終わりました。




