動物だらけの上級魔法
「ーーー炎よ、牙を剥け…焔獅子!」
詠唱を終えると、翳した掌の先に燃え盛る三体の獅子が現れる。
…この魔法の詠唱、ほんと恥ずかしいんだけど。
でも、無詠唱だとマズイしな…と思いながら魔法学の先生に渡されたリスト通りの魔法を撃ち始めた。
「えー…今日の午前の授業で説明した上級火魔法の、焔獅子です。しっかりと頭でイメージを浮かべる事と、魔力量によって複数の獅子を作れます!」
先生が説明する間、折角なので焔獅子を動かしてみた。
焔獅子はロマネス殿下の檻をクルリと一周し、私の元へと戻りながら消える。
消えた瞬間、歓声が上がったが…なんで?
「ーーー鮮やかに翔け、紅鳳凰ーーー」
続いて現れたのは正に火の鳥…朱雀だ。
我ながら美しい物が出来たと満足気に天を見上げる。
「次は紅鳳凰です、非常に難しい魔法と言っていいでしょう。空中で作り出し、それを操る技術は魔法のセンスと並々ならぬ努力が必要です。」
「「「「おぉ!」」」」
天高く舞い、その羽根を優雅に広げた朱雀は私の元に戻りながらゆっくりと消える。
先ほどよりも大きな歓声が演習場に響いた。
「おい!僕との対決中に何をしているんだ!!」
檻の中からロマネス殿下が叫んだ事で、すっかりその存在を忘れていた事に気づく。
「先生に頼まれた魔法を撃ってます。」
正直にお話すると…更に怒りが増したのか「ここから出せ!」と叫び出した。
「まだ二つしか出来てないので、暫くお待ちを…あっ!自力で出てもらって大丈夫ですよ?」
手元のリストをチラチラと見ながらロマネス殿下にお答えすれば、更に激怒し喚き始めた。
…が、しかし。
私としては頼まれた事は最後までやりたいので、放置する方向で無視しておく。
翡翠色の美しい葡萄も少しずつ成長している様なので、それでも食べて待っていてもらっても良いかなと思う。
言わないけど。
それから水魔法では、氷狼と水豹を作り出す。
水豹は水の量を調整し豹柄まで表現出来たのは嬉しかった。
木魔法では木熊と樹犬を作り、土魔法では土蜘蛛と泥猪を作った。
最後の風魔法では鎌鼬と風鷲を作り、リストの魔法は全て撃ち終わる。
…上級魔法の動物編だったのだろうか?
偶々では無いと思う…後で聞いてみようかな。
私の魔法に満足した先生は、少しだけ後ろへと退がった。
どうやら説明の為に前に出ていたらしい。
「……終わったのか?」
一粒一粒が大きく実った翡翠色の葡萄を食しながら、ロマネス殿下は私を睨みつける。
どうやら葡萄はお気に召したようで、既に幾つか食べ終わっている。
「…出ないんです?」
土の檻から自力で出れば良いのに…と声をかけると、ベシッと葡萄を投げるロマネス殿下。
だが葡萄は檻に当たり…跳ね返ってロマネス殿下を直撃した。
「いいから、此処から出せ!」
「……降参って事です?」
何が面白く無いのか、癇癪を起こし喚くロマネス殿下に問いかける。
だって、自分で出れなければ降参て事になるでしょ?
「あぁ?そんな訳あるか!!」
「……じゃあ、自分で出れば良いじゃないですか。」
ブチ切れるロマネス殿下を不思議そうに見つめ…首を傾げる。
「こんなのは魔法の勝負では無いだろ!」
「…魔法で作った檻と葡萄ですが?」
真面目に答えると納得いかないのか地団駄を踏むロマネス殿下。
…もっと王族らしく振る舞えないのだろうか?
「良いですか?檻に閉じ込められ…更に上級魔法を撃ち込まれていたら、ロマネス殿下はどうなっていたと思います?」
相手にするのも面倒になったので、今の状況を説明した。
檻が壊せない段階で終わってるんだよ…。
「これが実際の戦場ならどうです?既に殺されているか、相手に捕まってますよね?」
私の言葉にグッと奥歯を噛み締め、ロマネス殿下は喚くのをやめた。
「続けますか?先生に頼まれた魔法は全て撃ち終わったので、これから使う魔法はロマネス殿下が標的になりますけど。」
そう言って私は掌をロマネス殿下へと翳す…。
「…ぐっ……ま…負けだ。…此処から出せ!」
納得いかないって顔で睨まれたが、ロマネス殿下が負けを認めたので私は一つ頷き魔法学の先生を見た。
「この勝負、リリア・クリスティアの勝ち!」
魔法学の先生が高らかに宣言すると、観客席から明らかに戸惑った感じに拍手が起こる。
勝敗が決まったので、私はロマネス殿下を取り囲んでいた檻を解除する為…檻へと近づいた。
「ーーー解ーーー」
詠唱し魔法を解けば、スルスルと葡萄の蔓が地面へと落ち…土の檻も地面へと消えていく。
次の瞬間、ロマネス殿下が腰の剣を抜き…私へと斬りかかった。
ブクマ・評価・感想・誤字報告ありがとうございます。
魔法は…私が思い付いた物にしました。
かなり悩み…心にもかなりのダメージを受けました。
そのうち…読み方のルビを入れられたらと思います。
今日も遅くなって、申し訳ございません。




